処遇改善等加算は、一定の要件を満たすことを前提として支給される制度であり、申請を行えば自動的に受給できるものではありません。賃金改善の実施方法、配分ルール、就業規則等の整備状況、実績報告の内容など、複数の要件が相互に関係しており、いずれか一つでも満たさない場合には、加算の算定が認められないことがあります。
特に、「自園は要件を満たしていると思っていた」「例年と同じ対応をしていた」という認識のまま運用を続けた結果、実地指導や監査の場で要件未充足を指摘されるケースも少なくありません。処遇改善等加算は金額規模が大きい制度であるため、要件判断の誤りは、返還や是正対応といった大きな負担につながるおそれがあります。
本Q&Aでは、処遇改善等加算において「要件に該当するかどうか」の判断に迷いやすいポイントや、要件を満たせなかった場合にどのような取扱いとなるのかについて、制度趣旨や国の通知を踏まえ、行政書士の立場から整理しています。現場実務に即した視点で、判断の目安となる考え方を分かりやすくまとめていますので、制度運用の確認資料としてご活用ください。
質問1.「定期昇給相当額」は、「加算当年度における定期昇給として賃金規定や定期昇給前後の月の給与から算出したもの。」とされています。定期昇給により基本給が増えると、基本給に割合を乗じて算出するもの(賞与や超過勤務手当等)も増額することとなりますが、こうした、基本給の増額による賞与等の増額分についても個別に算出して「定期昇給相当額」に計上する必要があるのでしょうか。
答1.施設・事業所の事務負担を考慮し、基本給分の差額のみを「定期昇給相当額」として取り扱うこととして差し支えありません。
質問2.研修修了見込の者も区分3の配分対象とできることとなっていますが、例えば、12月に研修修了予定だったところ、11月に退職してしまい、結果として研修を修了しないままとなったような場合は、どのように取り扱えばよいでしょうか。また、当該退職の予定があらかじめ分かっていた場合と分かっていないかった場合で取扱いは変わるでしょうか。
答2.退職の予定が分かっていたとしても、要件を満たす者であれば賃金改善の対象とすることは可能です。ただし、ご質問のように、11月に退職する時点で研修の修了予定が立っていない場合、在籍中に、処遇改善等加算通知の「年度内に別に定める研修を修了する予定」の要件を満たさないため、基本的には賃金改善の対象にはできません。一方、既に賃金改善を行っており、その後に退職することとなり、「年度内に別に定める研修を修了する」ことができなくなった場合、当該退職予定の職員に支払った分について返還を求めるなどの対応は必要ありません。
質問3.区分3による賃金の改善対象として、研修修了見込みの者を含むこととなっています。年度当初は、研修修了見込みがあったため、賃金の改善を行ったものの、結果として、研修を修了できなかった場合は、加算の要件に該当しないことになるのでしょうか。
答3.賃金の改善を行った研修修了見込みの者が年度内に研修を修了できなかった場合、加算額の返還を求められることまではありませんが、翌年度に、速やかに研修を修了する必要があります。なお、翌年度において合理的な理由なく速やかに研修を終了せずに配分対象とすることは、処遇改善等加算の第7の虚偽等の場合の返還措置に該当することもあり得ます。
質問4.上記質問3において、研修修了見込みがあったため、賃金の改善を行ったものの、結果として、研修を修了できなかった場合の取扱いとして、「翌年度に、速やかに研修を修了」することを求めています。
実績報告を確認するタイミングでも研修を修了していない場合、研修を修了したことについて、どのように確認することを想定されているのでしょうか。
答4.まずは、年度内に研修を修了することを原則に、これが難しい場合でも、翌年度に実績報告を出すまでには研修を修了することとしてください。その上で、実績報告の時点でも研修を修了できない事情があるときには、当該研修未修了者について別にリストアップしておき、研修修了し次第、施設・事業所から研修受講歴の一覧等を提出し直してもらい確認するなどの方法が想定されます。なお、このほか、各自治体の実情に応じて適宜の方法で確認が行われることも考えられます。
質問5.定年後に引き続き同じ施設・事業所で再雇用するような場合、同じ職員が引き続き在籍しているものの、賃金は定年前より下がることが想定されます。この場合も、賃金について調整が必要になるのでしょうか。また、定年後の再雇用は、退職の手続きをとる場合ととらない場合がありますが、それにより取扱いが変わるでしょうか。
答5.区分2・区分3の要件を確認する上では、定年後の再雇用によって賃金水準が下がることの影響は除外する必要があります。いわゆる「再雇用」には、退職の手続きをとる場合ととらない場合がありますが、いずれの場合であっても、「加算当年度に在籍し、基準年度に在籍していない職員がいる場合は、加算当年度と同水準の賃金が基準年度に支払われていたものと仮定して計算するものとする」と同様の取扱いを適用します。
質問6.区分2・区分3において時給や日給で雇用している職員の場合、時給や日給を増額していても、勤務時間や勤務日数が基準年度より減ることがあり、結果として年間の支払賃金が下がることがあります。このことが要因で、処遇改善加算等通知の「①加算当年度の加算による改善額等の影響を除いた賃金見込総額」が「②基準年度における加算額等の影響を除いた支払賃金総額」を下回っていないことの要件を満たさなくなることも考えられますが、このような場合はどのように取り扱えばよいでしょうか。
答6.時給や日給のように、勤務時間や勤務日数により支払賃金が変動する者については、基準年度の賃金について、その勤務時間や勤務日数を加算年度と同じものとして計算を行い、計上します。
以下のイメージの場合、基準年度の支払賃金を162.0万円(時給1,500円×1,080時間)として
(イメージ)
加算当年度:支払賃金(実際の額):167.4万円(時給1,550円×1,080時間)
基準年度 :支払賃金(実際の額):216.0万円(時給1,500円×1,440時間)
↓ ↓
基準年度 :支払賃金(調整後) :162.0万円(時給1,500円×1,080時間)
なお、こうした調整をしなくても、「①加算当年度の加算による改善額等の影響を除いた賃金見込総額」が「②基準年度における加算額等の影響を除いた支払賃金総額」を下回らない場合は、こうした調整をしなくても差し支えありません。
質問7.「基準年度における職員の支払賃金の総額」の定義において、「加算当年度に在籍し、基準年度に在籍していない職員がいる場合は、加算当年度と同水準の賃金が基準年度に支払われていたものと仮定して計算するものとする」こととなっています。逆に、基準年度に在籍し、加算当年度に在籍していない職員はどのように取り扱うのでしょうか。
答7.加算当年度に在籍していない職員については、別紙様式4別添1及び別紙様式6別添1の「賃金改善明細(職員別表)」には記載しないでください。記載をしないことで、「①加算当年度の加算による改善額等の影響を除いた賃金見込総額」が「②基準年度における加算額等の影響を除いた支払賃金総額」を下回っていないことを確認する際の対象としない取扱いとなります。
質問8.「加算当年度に在籍し、基準年度に在籍していない職員がいる場合は、加算当年度と同水準の賃金が基準年度に支払われていたものと仮定して計算するものとする」取扱いや、質問7で示された取扱いについて、年度の一部だけ賃金が支払われていないようなケース(年度途中の採用や退職、育児休暇、介護休暇、病気休暇等の取得等)はどのように取り扱えばよいでしょうか。
答8.まず、「加算当年度に在籍し、基準年度に在籍していない職員がいる場合は、加算当年度と同水準の賃金が基準年度に支払われていたものと仮定して計算するものとする」ことや、質問7でお示しした取扱いは、年度を通じて在籍していない職員の取扱いになります。ご質問のような年度の一部だけ賃金が支払われないケースについては、別添2のような調整を行い、加算年度と同じ条件で基準年度の金額を算出して比較することとして下さい。区分2・区分3は職員の賃金を改善させることを目的としており、その観点から、賃金水準を引き下げていないか確認するため、処遇改善加算等通知で、「①加算当年度の加算による改善額等の影響を除いた賃金見込総額」が「②基準年度における加算額等の影響を除いた支払賃金総額」を下回っていないことを要件としています。そのため、育児休業等により支払賃金が減少又は増額する場合は、その影響を除外して比較する必要があります。なお、施設・事業所の給与体系等の都合等により別添2の調整が困難な場合は、上記の趣旨を踏まえ、適宜の方法で調整を行う必要があります。
質問9.区分1、2、3とも、職員の経験年数を算定する必要があるところ、算定にあたり、派遣労働者や、育児休業・産前産後休業を取得している職員の経験年数は算定対象になるのでしょうか。
答9.派遣労働者の経験年数については算定対象となります。一方、育児休業・産前産後休業を取得している職員については、当該休業期間の有給・無給を問わず算定対象となります。また、育児休業・産前産後休業を取得している職員本人の経験年数が算定対象となるため、当該職員の代替職員の経験年数は算定対象となりません。
質問10.経験年数の算定に当たり、複数の施設で勤務する職員は、勤務する施設・事業所の全てにおいて算定対象に含めることになるのでしょうか。
答10.通常の教育・保育に従事する施設のうち、主に勤務する施設・事業所で算定対象とします。なお、複数の施設・事業所に勤務する職員を算定対象に含めるかについては、主に勤務する施設・事業所の勤務状況のみにより判断するのではなく、勤務する施設・事業所全ての勤務状況により判断することになります。
質問11.平均経験年数の算定に当たり、認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書が交付された施設での勤続年月数を含めることができますが、加算当年度の4月1日時点で当該証明書が交付されていれば、勤務した期間の全てを含めることができるのでしょうか。
答11.認可外保育施設指導監督基準を満たす旨の証明書が交付されている期間のみを含めることができます。ただし、認可外保育施設の届出後、初めての指導監査の結果、当該証明書を交付された施設については、事業の開始の日から当該証明書が交付されるまでの期間を含めることができます。
処遇改善等加算の要件は、単に書類を整えることが目的ではなく、職員の処遇改善を継続的に実施する体制が整っているかを確認するためのものです。そのため、形式的には要件を満たしているように見えても、実際の運用との乖離がある場合には、要件未充足と判断される可能性があります。
また、要件を満たせなかった場合の対応は、その時期や内容によって異なり、是正による継続算定が可能なケースと、返還や算定停止につながるケースが分かれます。どの段階で、どのような対応を取るべきかを誤ると、結果として施設運営に大きな影響を及ぼすことにもなりかねません。
本Q&Aが、処遇改善等加算の要件を改めて整理し、現在の運用を見直すきっかけとなれば幸いです。要件該当性の判断や、是正対応の進め方に不安がある場合には、早い段階で専門家に確認することが、将来的なリスク回避につながります。
出典:こども家庭庁HP 処遇改善等加算に関するFAQ(よくある質問)https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/3a1576c7-071d-4325-8be8-edced6d12ee1/b4d28e55/20251010_policies_kokoseido_149.pdf