保育現場を支える中堅職員やリーダー層の専門性向上を評価し、手厚い処遇改善を行うための制度が「処遇改善等加算 区分3(質の向上分)」です。令和7年度の制度一本化に伴い、従来の「処遇改善等加算Ⅱ」から名称を変え、配分ルールの柔軟化などが行われました。
本記事では、施設に支給される加算額の根拠となる「加算算定対象人数(人数A・人数B)」の具体的な計算ロジック、研修修了者のカウントに関する厳密なルール、そして特例措置が終了し要件が厳格化される令和8年度(2026年度)に向けた最重要ポイントについて、これまでのこども家庭庁のFAQや制度通知に基づき、図表やシミュレーションを交えて徹底的に解説します。専門的かつ実務に即した詳細な内容をお届けします。
第1章:区分3(質の向上分)の目的と制度の全体像
区分3は、保育施設におけるリーダー的な役割を果たす中堅の保育士等の専門性の向上を図りつつ、キャリアアップの仕組みを構築することを目的としています。旧制度では「副主任保育士等」に対して月額4万円、「職務分野別リーダー等」に対して月額5千円の処遇改善を行うための加算として機能してきましたが、施設の職員構成によっては適切な配分が困難なケースがありました。
新制度への移行により、「月額4万円を支給する職員を必ず1人以上確保する」という厳格な要件が廃止され、各施設の人事体系や賃金体系に応じた柔軟な配分が可能となりました。しかし、「施設が国から受け取る加算総額」を決定するための人数計算(算定ルール)については、依然として厳密な数式と要件が存在します。
加算の申請・運用にあたっては、以下の2つの概念を明確に切り離して理解することが実務上の第一歩となります。
- 算定(国から施設へ支給される予算枠の計算): 基礎職員数と実際の研修修了者数を用いた機械的な計算。
- 配分(施設から職員への給与支給): 施設に交付された総額を、どの役職の誰に、いくら支給するかの施設独自の決定。
本記事では、主に「1. 算定(予算枠の計算)」のメカニズムについて詳しく掘り下げていきます。
第2章:算定の基礎となる用語の定義
計算式を理解する前に、前提となる重要な用語の定義を正確に把握しておく必要があります。
1. 基礎職員数
基礎職員数とは、施設の認可定員や年齢別児童数に応じて、公定価格上で配置されるべき標準的な職員数(必要職員数)のことを指します。施設が独自に手厚く配置している実際の職員数(実配置数)ではない点に注意が必要です。
- 特例給付児童の扱い: 特例給付を受ける児童については、その児童の年齢区分等に含めて基礎職員数を計算します。
- 私的契約児の扱い: 施設に在籍している実態があったとしても、私的契約児については公定価格の算定ベースには含めません。
2. 対象となる研修(キャリアアップ研修等)
区分3の算定対象としてカウントされるためには、こども家庭庁が定める「保育士等キャリアアップ研修」等の所定の分野・時間(1分野15時間以上など)を修了している必要があります。
- 要件ⅰ(副主任保育士等向け): マネジメント分野を含む複数の分野の修了等、高度な要件が求められます。
- 要件ⅱ(職務分野別リーダー等向け): 担当する職務分野の研修の修了等が求められます。
3. 役職名に関する取り扱い
区分3の制度上、「副主任保育士」や「職務分野別リーダー」という名称が用いられていますが、これはあくまで国が示した例示です。各施設の業務実態に合わせて「教務主任」「学年主任」「乳児リーダー」といった既存の役職名称をそのまま使用しても、要件さえ満たしていれば算定および配分の対象として全く問題ありません。
第3章:【図解・表】加算算定対象人数(人数A・人数B)の計算メカニズム
区分3の加算額は、月額4万円相当の単価となる「人数A」と、月額5千円相当の単価となる「人数B」をそれぞれ算出し、合算することで決定されます。計算は以下のルールに従って厳格に行われます。
計算式と上限の考え方
| 区分 | 算出の対象 | 計算式・比較方法 | 単価(月額換算) |
| 人数A | 副主任保育士等 相当 | 以下の①と②を比較し、少ない方の人数 ① 「基礎職員数」 × 1/3 ② 「要件ⅰ(副主任等向け)の研修修了者の実人数」 | 40,000円 |
| 人数B | 職務分野別リーダー等 相当 | 以下の③と④を比較し、少ない方の人数 ③ 「基礎職員数」 × 1/5 ④ 「要件ⅱ(リーダー向け)の研修修了者の実人数」 ※ただし、人数Aでカウントした者を除く | 5,000円 |
この計算式の最大のポイントは、「どれだけ多くの職員に研修を受けさせても、基礎職員数に基づく上限(1/3や1/5)を超えて加算額を受け取ることはできない」という点と、逆に「上限の枠があっても、実際に研修を修了した職員がいなければ加算額は支給されない」という点です。
詳細シミュレーション(ケーススタディ)
計算の仕組みを深く理解するために、3つの異なるケースでシミュレーションを行います。(※計算過程で生じる端数処理については、国の定めるルールに従うものとします)
【ケース1】研修修了者が上限枠を十分に満たしている理想的な施設
基礎職員数: 15人
人数Aの上限枠: 15人 × 1/3 = 5人
人数Bの上限枠: 15人 × 1/5 = 3人
施設の実際の研修修了者: 要件ⅰ修了者 6人、要件ⅱ修了者 4人
人数Aの確定: 上限枠5人と、実人数6人を比較。少ない方の「5人」が人数Aとして確定。
人数Bの確定: 上限枠3人と、実人数4人(+要件ⅰの溢れた1人を要件ⅱに回すことも可能)を比較。少ない方の「3人」が人数Bとして確定。
加算月額: (5人 × 4万円) + (3人 × 5千円) = 215,000円
【ケース2】研修修了者が不足している施設
基礎職員数: 15人
人数Aの上限枠: 5人
人数Bの上限枠: 3人
施設の実際の研修修了者: 要件ⅰ修了者 2人、要件ⅱ修了者 1人
人数Aの確定: 上限枠5人と、実人数2人を比較。少ない方の「2人」が人数Aとして確定。
人数Bの確定: 上限枠3人と、実人数1人を比較。少ない方の「1人」が人数Bとして確定。
加算月額: (2人 × 4万円) + (1人 × 5千円) = 85,000円
※このケースでは、上限枠に対して研修修了者が不足しているため、国から本来受け取れるはずの加算額(予算)を大きく取りこぼしていることになります。
【ケース3】要件ⅰ(副主任)修了者が多く、要件ⅱ(リーダー)修了者がいない施設
基礎職員数: 15人
人数Aの上限枠: 5人
人数Bの上限枠: 3人
施設の実際の研修修了者: 要件ⅰ修了者 8人、要件ⅱ修了者 0人
人数Aの確定: 上限枠5人と、実人数8人を比較。少ない方の「5人」が人数Aとして確定。要件ⅰ修了者が3人余ります。
人数Bの確定: 要件ⅰ(高度な要件)を満たしている職員は、当然に要件ⅱを満たしていると解釈できるため、余った3人を要件ⅱ修了者としてカウントに回すことができます。上限枠3人と、回ってきた実人数3人を比較し、「3人」が人数Bとして確定。
加算月額: (5人 × 4万円) + (3人 × 5千円) = 215,000円
第4章:「研修修了者」のカウントに関する厳格な特殊ルール
算定の基礎となる「研修修了者の実人数」をカウントするにあたっては、実務上迷いやすい様々な特殊ルールが設定されています。誤ったカウントを行うと、後日監査等で加算額の返還を求められるリスクがあります。
1. 二重計上の絶対禁止
1人の優秀な職員が、副主任等向けの研修(要件ⅰ)と、職務分野別リーダー向けの研修(要件ⅱ)の両方を修了している場合であっても、算定において人数Aと人数Bの両方に二重に計上することは一切認められません。施設側は、当該職員を人数Aのカウントに使うか、人数Bのカウントに使うか、「どちらか一方にのみ」計上する判断を行う必要があります。
2. 園長や主任保育士のカウント特例(加算枠の拡大テクニック)
区分3の加算資金は、原則として園長や主任保育士といった上位の管理職には配分されません(賃金逆転現象の解消目的等の例外を除く)。しかし、「加算額を計算するための算定人数(研修修了者数)」のカウントにおいては、所定の研修を修了している園長や主任保育士を含めることが公式に認められています。
小規模な施設などで中堅職員の研修受講が進んでいない場合でも、園長や主任が研修を修了していれば、彼らをカウントに含めることで施設が受け取る加算総額(予算枠)を広げることが可能です。
3. 基礎職員数を超過した対象者の便宜上の分割計上は不可
「副主任保育士等」という同じ役職名がつけられている職員同士で、職責等に具体的な差がないにもかかわらず、人数Aの枠(基礎職員数×1/3)が上限に達してしまったという理由だけで、便宜上「Aさんは副主任の枠、溢れたBさんはリーダーの枠」に分けて研修修了者として計上することは想定されていません。
同じ役職名でも実際の職務内容や職責に明確な差がある場合に限り、分けて計上することが可能とされています。国はこのような状況が生じた場合、施設の賃金体系や職位の見直しを行うよう求めています。
4. 育児休業・産休中の職員の取り扱い
育児休業や産前産後休業を取得している職員は、「復職を前提とした特段の配慮を要する休暇」であると位置づけられています。そのため、休業中で施設から給与が支払われていない(無給の)期間であっても、当該職員本人の経験年数や研修修了の実績は、区分3の算定人数(および施設全体の平均経験年数)のカウントに含める取扱いとなっています。
※注意点として、カウントされるのはあくまで「休業している職員本人」の属性であり、その期間中に代わりに雇用された「代替職員」の経験年数等を二重に算定対象とすることはできません。
5. 病気等による休職中の職員の取り扱い
育児休業等とは異なり、病気等によって無給で休職している職員については、原則として算定人数や平均経験年数のカウントに含めることはできません。ただし、「当該年度中に復帰することが明らかに見込まれる場合」という明確な見通しがある例外的なケースに限り、算定に含めることが認められます。
第5章:【令和8年度の超重要変更】「研修修了見込み」特例の完全終了と4月1日基準
ここからが、令和8年度(2026年度)の制度完全実施に向けて、施設運営者が最も警戒すべき最重要ポイントです。
令和7年度までの激変緩和措置(見込み特例)
新制度への移行期であった令和7年度までは、施設側の準備不足や研修機会の不足に配慮し、「年度内に研修を修了する予定の者(研修修了見込みの者)」であっても、あたかも研修を修了した者と同等に扱い、加算額を計算するための人数Aや人数Bのカウントに含めることが許されていました。これにより、多くの施設が実際の研修修了者が不足していても、満額の加算予算を受け取ることができていました。
令和8年度からの厳格化:「4月1日時点での完全修了」が必須に
令和8年度からは、この「研修修了見込み」を算定カウントに含める特例措置が完全に終了します。
区分3の算定人数は、事務手続きの負担軽減の観点から「加算当年度の4月1日時点の人数」で判断し、その年度中は固定して算定を行うという絶対的なルールが存在します。
すなわち、令和8年4月1日の時点で「実際に研修を修了した証明(修了証等)」を持っていなければ、令和8年度の1年間を通じて、その職員を加算額算定のための人数A・Bの枠にカウントすることは一切できなくなります。
「4月10日に研修が終わる予定だ」「秋口には必ず受講させる」といった理由があっても、4月1日時点で未修了であれば算定枠からは完全に除外され、施設が受け取る加算総額が大幅に減額されるという非常にシビアな事態を招きます。
年度途中の増減は考慮されない
「年度の途中で研修を修了したら、その翌月から算定枠を増やせるのではないか?」という疑問を抱く方も多いですが、これも認められていません。こども家庭庁のルールでは、「年度途中に研修修了者の人数に増減があった場合でも、増減を考慮せず、加算当年度の4月1日時点の人数で当該年度中は算定を行う」と明記されています。
(逆に言えば、4月1日時点で研修修了者としてカウントしていた職員が年度途中で退職した場合でも、施設に支給される加算総額の枠自体はその年度末まで維持されることになります。)
したがって、令和8年度に施設の区分3加算枠を最大化(維持)するためには、令和7年度末(令和8年3月31日)までに、対象となる職員に確実にキャリアアップ研修等を受講し終えさせておくという、事前の計画的な人材育成戦略が施設経営の生命線となります。
第6章:加算額の「配分」における柔軟化ルールと注意点
ここまで解説してきた厳しい「算定」のルールを乗り越えて施設に交付された加算額は、今度は施設から職員へ「配分(給与支給)」されなければなりません。配分については、算定とは異なる柔軟なルールが適用されます。
算定に含められなくても「配分」は可能
最も混同しやすいポイントですが、令和8年度以降「研修修了見込み」の職員を「算定(予算獲得)」のカウントに含めることはできなくなりますが、獲得した予算をその職員に「配分(給与支給)」すること自体は引き続き認められています。
施設長から職務命令を受け、年度内に研修を修了する予定の「見込み者」であれば、副主任保育士等や職務分野別リーダー等として発令し、区分3の原資から処遇改善手当を支給することが可能です。
配分額の自由度の拡大
旧制度(加算Ⅱ)では、「月額4万円を支給する職員を必ず1人以上確保する」という施設の実情を無視した硬直的な要件がありましたが、新制度ではこれが完全撤廃されました。
現在のルールでは、施設が受け取った区分3の加算総額を、以下の範囲内で施設の評価基準に基づき柔軟に配分することができます。
- 副主任保育士等(人数A相当の配分対象者): 一人当たり「月額4万円以内」で配分。
- 職務分野別リーダー等(人数B相当の配分対象者): 一人当たり「月額5千円〜4万円未満」の範囲で配分。※ただし、職務分野別リーダー等に対する配分額は、「副主任保育士等の配分額のうち、最も低い額を上回らない範囲」に設定する必要があります。例えば、副主任保育士全員に月額6,000円以上を配分している状況であれば、職務分野別リーダーに月額6,000円を配分することも可能です。
同一法人内の他施設への「充当(配分)」の絶対禁止
旧制度(加算Ⅱ)では、加算額の20%を上限として、法人が運営する他の保育施設の職員の賃金改善に充てることが認められていました。しかし、制度の一本化に伴い、区分3においては他施設への加算額の充当(流用)は一切不可となりました。A園で獲得した区分3の加算額は、必ずA園に所属する職員の賃金改善のみに使用しなければなりません。
配分は「毎月支払われる手当・基本給」で
区分3の加算額の使途について、「余った分は年度末の賞与(一時金)で払えばよい」と誤解されることがありますが、これは重大な違反となります。区分3による賃金改善は、原則として「全額」を基本給や毎月決まって支払われる手当によって行う必要があり、賞与(一時金)等として配分することはできません。
例外として認められるのは、法定福利費等の事業主負担増加額が事前の想定より少なかった等の理由により、加算見込額との間に生じてしまった「差額分」の精算のみです。
第7章:実務における申請手続きの注意点(参考:自治体の運用)
各自治体においては、処遇改善等加算の申請手続きを適正に行うため、厳密なエクセルデータ等を用いた申請システムが導入されています(例:横浜市などの運用マニュアル)。実務担当者は以下の点に留意して申請事務を行う必要があります。
- 「値貼り付け」の徹底: 前年度の職員名簿データを新しい年度の申請用エクセルにコピー&ペーストする際、数式や書式が崩れないよう必ず「値貼り付け」を行うことが指定されているケースが多くあります。誤った貼り付けは算定エラーの原因となります。
- キャリアパス要件挙証資料の確実な提出: 区分3を適用しない施設であっても、区分1を取得するための大前提として「キャリアパス要件」の適合が必須です。就業規則、賃金規程(給与表等)、資質向上のための研修計画や能力評価の仕組みが分かる書類を、年度内に確実に提出する必要があります。
- 退職・異動・休職の正確な入力: 年度途中で勤務時間が短縮され算定対象外となった職員や、育児休業に入る職員のデータは、変更年月日を正確に入力し、給付額の過誤払いが生じないよう徹底した管理が求められます。
第8章:まとめと施設運営者への提言
令和8年度における処遇改善等加算「区分3」は、配分の自由度が確保されている一方で、算定の入り口となる「研修修了要件」において一切の妥協が許されない厳しい制度へと移行します。
【施設運営者が今すぐ取るべきアクションプラン】
- 全職員の研修修了状況の棚卸し: 現在「見込み」として配分している職員を含め、全職員のキャリアアップ研修の修了証の有無、修了分野をリスト化し、二重計上等の誤りがないか確認する。
- 令和8年3月までの駆け込み受講計画の立案: 令和8年4月1日の算定基準日に向けて、不足している分野の研修を、対象となる職員に確実かつ優先的に受講させるようシフトを調整する。
- 就業規則および賃金規程の改定: 職位や職責に応じた手当の支給基準が、柔軟化された配分ルール(4万円以内など)に適合するよう規程を改定し、必要に応じて労使合意や周知を図る。
区分3は、施設の中核を担うリーダー層のモチベーションを高め、質の高い保育を継続的に提供するための不可欠な財源です。「4月1日時点で要件を満たせず、数百万円単位の加算を失った」という最悪の事態を避けるためにも、本記事で解説した算定と配分のメカニズムを深く理解し、先手必勝の人材育成と適正な事務運用を心掛けてください。