2026年(令和8年)12月25日に施行される「こども性暴力防止法(日本版DBS)」は、保育園を運営するすべての事業者にとって、避けては通れない最優先の人事労務・運営課題です。
この法律(正式名称:学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律)は、教育・保育などの「こどもに接する場」での性暴力を未然に防ぎ、こどもたちの心と身体を守るために制定されました。
特に保育園は、こどもの健やかな成長を支える最重要の場である一方、職員が「保育する立場(支配性)」にあり、「日常的かつ継続的に接し(継続性)」、かつ「周囲の監視の目が届きにくい環境(閉鎖性)」で業務を行うため、性暴力のリスクや「不適切なスキンシップ」に関する法的・実務的整備が極めて重要となります。
本記事では、専門の行政書士の視点から、認可保育所、小規模保育園、認定こども園、認可外保育施設、ベビーシッター事業など、すべての保育施設が今すぐ実践すべき対応策を、最新のガイドラインや国が提供する各種「別紙ひな型」に即して徹底解説します。
- 1. 保育施設における「義務対象」と「認定対象(任意)」の決定的な違い
- 2. 誰が対象?保育園における「対象業務従事者」の特定基準
- 3. 保育園が絶対に把握しておくべき「特定性犯罪」の範囲と就業制限
- 4. 現場が萎縮しない「不適切な行為」の具体的線引きとスキンシップの境界線
- 5. 【2026年8月以降の時系列対応】保育園が今すぐ行うべき「施行前ロードマップ」
- 6. 万が一の事態に備える「安全確保措置」と「対処規程(別紙1)」の実務
- 7. 厳格なペナルティが伴う「情報管理措置」の鉄則
- 8. 保育園で頻発する「急な欠員」に対応する「いとま特例」の適法実務
- 9. 登録型有期・単発スタッフの負担を劇減させる「意向確認書面」の活用法
- 10. 既存の保育スタッフ(現職者)に対する「分散申請」スケジュール
- 11. まとめ:すべての保育事業者が「今なすべきこと」の総点検
1. 保育施設における「義務対象」と「認定対象(任意)」の決定的な違い
こども性暴力防止法において、保育施設はその設置形態や認可区分によって、「義務対象事業者」と「認定対象事業者」の2つに厳格に分かれます。
| 区分 | 主な対象施設・事業 | 法的義務の範囲 | 認証マーク(こまもろうマーク) |
| 義務対象事業者 | 認可保育所、認定こども園、小規模保育事業、家庭的保育事業、事業所内保育事業等 | 犯罪事実確認、安全確保措置、情報管理措置などのすべてが完全な義務(違反には勧告・公表等のペナルティあり) | 桃色の「こまもろうマーク(法定事業者)」を施設やホームページに掲示可能 |
| 認定対象事業者 | 認可外保育施設、一時預かり事業、病児保育事業、ベビーシッター(児童福祉法上の届出対象施設) | 任意で国の「認定」を取得。認定取得後は、義務対象事業者と同様の確認義務・措置義務を負う | 青色の「こまもろうマーク(認定事業者)」を掲示可能(保護者への強力な差別化) |
認可外保育施設が「認定(青マーク)」を取得するメリット
認可外保育施設やベビーシッター事業者が国の認定を受けることは任意ですが、取得による社会的メリットは絶大です。
認定事業者となれば、施設の入口やパンフレット、ウェブサイト上に国公認の「こまもろうマーク(認定)」を掲示できるようになります。これは、保護者に対して「当園は国の厳格な安全基準をクリアし、全スタッフの性犯罪前科を適法にチェックしている安心な園である」という客観的な信頼性を証明する強力なツールとなり、他園との決定的な差別化につながります。
2. 誰が対象?保育園における「対象業務従事者」の特定基準
保育園で働くスタッフのうち、雇用形態(正社員、契約社員、パート、アルバイトなど)に関わらず、過去の特定性犯罪前科を確認する「犯罪事実確認(犯歴照会)」を行わなければならない「対象業務従事者」は、業務の実態が以下の「3つの要件」をすべて満たす者と定義されています。
- 支配性: 指導や保育などを通じて、こどもに対して優越的な立場・影響力を持つこと。
- 継続性: 業務として、一時的ではなく繰り返し継続してこどもと接すること。
- 閉鎖性: 第三者や保護者などの監視の目が届きにくい、密室や死角が生じる環境。
職種別:保育園における判定シミュレーション
- 園長・主任・常勤保育士・保育補助者(一律に対象):日々の保育を通じて園児と1対1、あるいは1対多で密接に関わり、3要件のすべてを満たすため必ず犯罪事実確認の対象となります。
- 調理員・栄養士(実態判断):
- 対象となる例: 給食の配膳時や、食育イベントなどで日常的にこどもたちと直接触れ合い、保育士の同席がない時間帯が生じる場合。
- 対象外となる例: 調理室から一歩も出ず、園児との直接的な接触が一切想定されない場合。
- 事務員・受付スタッフ(実態判断):
- 対象となる例: 夕方の延長保育時や保護者の面談時などに、保育士の代わりに一時的に園児を別室で預かる、あるいは送迎バスの添乗などを日常的に行う場合。
- 対象外となる例: バックオフィスでの書類整理や電話応対のみに専念し、園児の保育や接触が皆無である場合。
- 教育実習生・保育実習生(実態判断):単なる見学ではなく、実際に「責任実習(実習生が主体となってこどもを保育する)」などを行い、指導教諭の同席がない死角や密室でこどもと接する可能性がある場合は、対象として扱う必要があります。
⚠️【超重要】派遣保育士・委託スタッフの確認義務は「保育園」が負う
保育園の現場で最も誤解されやすいのが、派遣会社から受け入れている「派遣保育士」や、外部委託している「体操・英語の講師」の確認義務です。
「雇用契約を結んでいるのは派遣会社(委託会社)だから、前科のチェックも相手企業がやるべきだ」と考えるのは法律上の重大な誤りです。
こども性暴力防止法において、派遣保育士等の犯罪事実確認および必要な措置を講じる義務は、派遣元ではなく、こどもと接する現場を提供する「派遣先・発注元(=保育園)」が負うと明確に定められています。
したがって、派遣保育士等を現場に入れる前に、保育園側が主体となってシステムの登録や確認申請手続き(または、本人の同意に基づく他事業者での確認結果の有効利用手続き)を確実に行わなければ、保育園側が犯罪事実確認義務違反に問われます。
3. 保育園が絶対に把握しておくべき「特定性犯罪」の範囲と就業制限
犯罪事実確認において、こども家庭庁から「前科あり(特定性犯罪事実該当者)」と判定される「特定性犯罪」には、以下のような罪名が含まれます。
- 刑法上の「不同意性交等罪」「不同意わいせつ罪」
- 児童ポルノ禁止法違反(製造・所持など)、児童買春
- 性的姿態撮影等処罰法違反(人の意思に反するわいせつな撮影、いわゆる「盗撮行為」。カメラを設置した未遂の段階も含む)
- 各都道府県の迷惑防止条例や青少年健全育成条例に基づく「痴漢」や「盗撮」、「わいせつな言動」など
被害者制限のルール(被害者が成人でもアウト)
極めて重要な点として、過去に犯した「性的姿態撮影(盗撮)」や「痴漢」などの前科は、「被害者が成人(18歳以上)であった場合」でもすべて特定性犯罪前科として国に照会され、該当者として判定されます。成人に対する性加害歴であっても、こどもを預かる保育現場への就業は厳格に制限されます。
(※ただし、入職後に「保育現場で新たに発生した児童対象性暴力等」として即座に防止措置をとるべき定義においては、「児童等(こども)に係る行為に限る」と規定されています。)
前科の効力が存続する「就業制限期間」
一度有罪判決を受けた者が、再びこどもと接する業務に就くことができるようになるまでの期間(就業制限期間)は、刑の重さに応じて以下の通りに設定されています。
- 拘禁刑(実刑)の場合: 刑の執行を終えた日(または執行を受けることがなくなった日)から起算して「20年間」
- 拘禁刑(執行猶予)の場合: 裁判が確定した日(執行猶予期間の開始日)から起算して「10年間」
- 罰金刑(盗撮や痴漢等に多い)の場合: 刑の執行を終えた日から起算して「10年間」
これだけの長期にわたり、該当者は保育園での「対象業務」に従事することが法律上禁止されます。
4. 現場が萎縮しない「不適切な行為」の具体的線引きとスキンシップの境界線
こども性暴力防止法では、前科の有無だけでなく、日々の保育の中で性暴力の「芽」を摘むために、事業者自身が「不適切な行為」の範囲を独自に策定し、周知徹底・服務規律化することを義務付けています。
「不適切な行為」の基本的な定義
「不適切な行為」とは、その行為自体は直ちに刑法等に触れる性暴力とは言えないものの、業務上必ずしも必要とは言えず、その行為が継続・発展することで、こどもの心理を支配する「グルーミング(性的手なずけ)」や、重大な性暴力に繋がり得るリスクの高い行為を指します。
保育園の現場で発生しやすい具体例は以下の通りです。
- 私的なコミュニケーション: 園児やその保護者と、私用のスマホでLINEやSNS等のアカウントを交換し、私的にやり取りをすること。休日や勤務時間外に、園児と2人きりで私的に会うこと。
- 不適切な撮影: 私物のスマートフォンやカメラ等を使用し、園独自のルール(業務上の撮影手順)を外れて園児の写真・動画を撮影・保管すること。
- 密室化: 保育業務上の用事がないにもかかわらず、園内の個室や死角になる部屋に特定の園児を連れ込み、2人きりになろうとすること。
- 排せつ介助・おむつ交換の逸脱: こどもの発達段階や自分でやりたいという意思表示を無視して、不必要な介助を強いること。また、おむつ交換の際、衣類の上から不必要に陰部を触るなど、周囲やこどもに誤解を与える不自然な方法で確認を行うこと。
- 特別扱い: お気に入りのおもちゃを優先的に与えるなど、正当な理由なく特定の園児のみを過度に贔屓したり、その子の世話ばかりを理由なく独占しようしたりする行為。
乳幼児保育における「適切な身体接触(スキンシップ)」との境界線
未就学児を預かる保育園において、「抱っこする」「おんぶする」「膝に乗せる」「着替えを介助する」といった行為は、こどもの情緒の安定や発達を支えるための「業務上必要かつ適切な、行うべき行為」です。 ガイドラインでも、「未就学児に対する膝に乗せる、おんぶするといった行為は、業務として適切に行い得るものである」と明確に留保されています。
「不適切な身体接触」とみなされるのは、以下のように、業務上の必要性を大きく逸脱したケースです。
- こどもが嫌がっている、あるいは泣き止んでいるにもかかわらず、「必要以上に長時間にわたって強く抱きしめ続ける」
- 寝かしつけの際、特段の理由(こどもの極度な興奮状態のケア等)がないのに、「特定のこどもとだけ添い寝をしようとする」
- 一般的ではない、客観的に見て不自然な抱き方や触り方をしている
行政書士がアドバイスする「ルールの決め方」
「あれもダメ、これもダメ」と過剰に禁止項目を増やしすぎると、現場の保育士が「こどもを抱っこするのも怖い」と過度に萎縮し、質の高い保育が崩壊してしまいます。
ルールを策定する際は、園長や経営層だけで一方的に決めるのではなく、必ず現場の保育士等と十分にディスカッションを重ね、「この場面ではこの介助が必要」「この触れ合いは保育の範囲内である」という共通認識を作り上げた上で、園の「服務規律」に反映させてください。
5. 【2026年8月以降の時系列対応】保育園が今すぐ行うべき「施行前ロードマップ」
法律の施行(2026年12月25日)に向け、保育園の経営者や実務担当者が「いつまでに、何を終えていなければならないか」のロードマップは、現在(2026年8月)の時系列において以下のようになります。
- 【2026年7月31日まで】(※既に終了)
- 認可保育所などの「事業者情報一括まとめ登録」の提出期限
- 【2026年8月〜10月】 ★今ここ
- GビズID(プライム)のオンライン申請と取得
- まとめ登録を逃した園の「リカバリー(個別登録準備)」
- 就業規則の改定案作成、誓約書ひな型の整備
- 現場を巻き込んだ「不適切な行為」の基準検討・明文化
- 【2026年11月〜12月上旬】
- こまもろうシステム上での「権限設定(誰が犯歴結果を閲覧するか)」の決定
- 「情報管理規程」の最終作成
- 【2026年12月中旬(システム暫定稼働)】
- システムへの「情報管理規程」のアップロード・提出
- システム上でのユーザー権限の設定
- 【2026年12月25日(法律施行・システム本格稼働)】
- 新規採用予定者の「犯罪事実確認」の交付申請の開始
まとめ登録の期限(7月31日)を逃した未登録園のリカバリー方法
認可保育所や認定こども園などの義務対象事業者は、国による「まとめ登録(一括事業者登録)」の手続きが2026年7月31日をもって締め切られています。
もし、所轄の自治体からの案内を見落としていた、あるいは新設されたばかりの園でまとめ登録が完了していない場合、12月25日の施行日当日にシステムから新規採用者の犯歴照会を行うことができなくなるという、極めて深刻な事態に陥ります。
今すぐ所轄の自治体のこども福祉担当課、またはこども家庭庁の専用窓口(こども性暴力防止法施行準備室)に連絡を入れ、「まとめ登録から漏れてしまったが、施行日までに事業者登録を完了させるための個別登録手続きの手順」を確認してください。
GビズID(プライム)のオンライン取得
システムの利用に不可欠な「GビズID(プライム)」の申請は、すでにオンライン上で開始されています。ただし、株式会社や社会福祉法人などの「法人形態」によっては、オンライン申請の最終段階で、法人の「印鑑証明書(発行から3ヶ月以内)」の原本を郵送するプロセスが求められます。IDの発行には概ね2週間〜4週間を要するため、11月のシステム設定に間に合わせるよう、8月中(遅くとも9月中)には必ずプライムアカウントの取得を完了させておいてください。
労働トラブルを防ぐ「就業規則(別紙5)」と「誓約書(別紙4)」の整備
前科があることが後から発覚した際、法的リスク(不当解雇としての訴訟リスク)を完全に回避して適法に対象業務から外す(解雇・配置転換する)ためには、施行前の今、以下の書式整備を終わらせておくことが絶対条件です。
- 採用募集要項・求人票の改定(別紙3): 特記事項や採用条件欄に、「当園はこども性暴力防止法の対象事業者(認定事業者)であるため、採用時に犯罪事実確認(日本版DBS)を行うこと」「特定性犯罪の前科がないことが必須の採用条件であること」を明記します。
- 採用誓約書の整備(別紙4): 採用内定を出す段階で、履歴書の賞罰欄の記入と合わせて、「私はこども性暴力防止法で定める特定性犯罪前科(罰金刑以上、猶予期間内)がないことを誓約します」という旨の書面(誓約書)を差し入れさせます。
- 就業規則の改定(別紙5): 就業規則の「試用期間の解約事由(本採用拒否)」および「懲戒事由」の中に、「重要な経歴(犯罪歴、誓約事項など)を詐称して雇用されたことが判明したとき」という規定を明確に記載します。あわせて、服務規律に「不適切な行為を行ってはならないこと」「それらの防止措置に誠実に協力しなければならないこと」を追加します。
この3ステップを確実に踏んでおくことで、入職後にシステムから「前科あり」の通知が届いた際、「採用時に虚偽の誓約をした」=「重大な経歴詐称」という労働法上の正当な理由をもって、適法に内定取消や懲戒処分を下すことが可能となります。
6. 万が一の事態に備える「安全確保措置」と「対処規程(別紙1)」の実務
保育園が安全な保育環境を自律的に維持するため、法律上およびガイドライン上求められる具体的な実務は以下の通りです。
① 早期把握(日常観察・面談・保護者ケア)
園児は被害を自発的に訴えることが極めて困難であるため、園独自のチェック体制を構築します。
- 日常観察: 登園時や着替え時、おむつ交換時などに、衣服の乱れ、身体の傷や不自然なあざ、あるいは「特定の職員を過度に怖がる・逆に特定の職員に異常に密着する」といった行動の異変がないかを、複数の保育士で注意深くチェックします。
- 面談・アンケートの実施: 乳幼児主体の保育園においては、「保護者への丁寧なヒアリング・連絡帳を通じた異変の確認」、および「連絡帳や面談での日常の家庭での様子の聞き取り」をもって、早期把握のための実務に代える運用が極めて現実的かつ有効です。
- 相談窓口(ポスター等)の掲示: 園の玄関や事務室前、お便り、保護者向けの「入園のしおり」などに、園の相談担当窓口だけでなく、警察や児童相談所、性犯罪被害相談電話(#8891)といった外部の公的窓口の連絡先を大きく明記して周知します。
② 従事者向け研修の実施
園内のすべての保育スタッフや対象業務従事者に対し、国が提供する「こども性暴力防止法に関する標準研修動画(約30分)」を受講させることが義務付けられています。実務上、園長は以下の2つの社内書類を必ず作成し、5年間保管してください。
- 研修実施計画書(別紙様式1): いつ、どのような方法で、誰を対象に研修を行うかを定めた計画書。
- 受講管理表(別紙様式2): スタッフごとの「受講完了日」「署名」を記録した管理簿。
③ 被害の疑いが発生した際の「初期対応」と「対処規程(別紙1)」
園内で「特定の保育士から身体を不自然に触られた」といった相談や不適切な行為の報告があった場合、以下の手順(対処規程に沿った動き)を徹底します。
- 最優先:被害児と疑わしいスタッフの「接触回避」事実が確定していなくとも、被害の拡大を防ぐため、該当スタッフを「即座に保育現場(園児と接する業務)から外す」措置を講じます。具体的には、一時的な自宅待機命令や、園児のいない別室での事務作業などを命じます。
- 事実関係の調査と「記憶の汚染」防止公平・中立なポジションで慎重にヒアリングを行います。※この際、乳幼児に対して「いつ、どこで、何回、誰にやられたのか?」と大人が誘導的に尋問することは絶対に避けてください。こどもの記憶は脆弱であり、質問攻めにすることで「記憶の汚染(大人の言う通りのストーリーに記憶が書き換わること)」が起き、後の刑事裁判などで証拠能力を失うおそれがあります。「誰が、何をしたか」をこども自身の言葉で優しく聞き取るに留め、専門的な追及は児童相談所や警察に速やかにバトンタッチします。
7. 厳格なペナルティが伴う「情報管理措置」の鉄則
犯罪事実確認によって得た「特定性犯罪の前科がある(またはない)」という結果(犯歴情報)は、最高度の機微情報(要配慮個人情報)です。これを取り扱うにあたり、保育園には極めて厳格な情報管理のルールが課されます。
情報管理規程の作成とシステムへの提出(別紙8、9、10)
保育園は、こまもろうシステムを通じて初めて犯罪事実確認書の交付申請を行う「前」に、自園の「情報管理規程」をシステム上で国(こども家庭庁)に提出する義務があります。規程には、情報を取り扱う責任者を限定し、漏えい時の報告体制を定める必要があります。
- 【別紙8】情報管理規程ひな型①: 情報を閲覧する責任者が1名のみで、システム外での「記録保存を一切行わない(画面上での閲覧確認のみ)」という、小規模園に最も推奨されるセキュアな規程。
- 【別紙9】情報管理規程ひな型②: 情報の取扱責任者が複数おり、システム外での記録保存は行わない規程。
- 【別紙10】情報管理規程ひな型③: システム外(PC内のパスワード付きフォルダや鍵付きキャビネットなど)に、犯罪事実確認書の内容を「記録・保存する」場合の規程(高度な安全管理措置が必要となり、実務上の管理負担が激増するため極力避けるべきとされています)。
【行政書士の実務アドバイス】
情報漏えいリスクを極限まで低減させるため、保育園における実務は「画面上でのみの閲覧確認に留め、PDFをダウンロードしたり紙に印刷してキャビネットに保管したりすることを一切行わない(別紙8または別紙9の採用)」という運用を強くお勧めします。
「第三者提供の禁止」と重い刑事罰(秘密保持義務)
犯罪事実確認記録等や、ヒアリング等で得た犯歴に関連する情報を、本法の目的(防止措置等の実施)以外の用途に利用したり、他のスタッフ、保護者、ましてや外部に漏らすことは、いかなる理由があっても法律で完全に禁止されています。
これに違反し、情報を漏えいした個人に対しては、以下の重い刑事罰が直接科されます。
- 不正な利益を得る目的で性犯罪歴を他人に提供した場合: 2年以下の拘禁刑、または100万円以下の罰金(あるいはその両方)
- 業務上知り得た情報をみだりに他人に提供した場合: 1年以下の拘禁刑、または50万円以下の罰金(あるいはその両方)
万が一、データ漏えいや書類紛失が発生した場合は、発覚からただちにこども家庭庁へ「重大事態の報告(速報・確報)」を提出する法的義務が生じます。
8. 保育園で頻発する「急な欠員」に対応する「いとま特例」の適法実務
犯罪事実確認の申請から結果が届くまでは、標準処理期間として日本国籍で2週間〜1ヶ月程度、外国籍で1ヶ月〜2ヶ月程度の時間を要します。原則として、この確認結果が届くまでは、そのスタッフを園児と接する業務に配置することはできません。
しかし、保育園の現場では「前日に保育士が急病で倒れた」「明日から新しい保育補助者を入れなければ園が回らない」という限界状況が発生します。このような場合に、一時的に現場の稼働を継続させるための救済措置が「いとま特例」です。
特例を適用できる「やむを得ない事情」の具体例(全9類型)
いとま特例は、「手続きを忘れていた」「採用スケジュールが遅れた」といった園側の怠慢では絶対に適用できません。適用が認められるのは、以下の「客観的かつやむを得ない事情」がある場合に限定されます。
| 事情の類型 | 認められる具体例(〇) | 認められない具体例(×) |
| 新規採用の急な欠員・増員 | ・保育士の急病、突発的な辞職、内定者の直前辞退により、急遽代わりの人員を雇用して従事させる場合 ・予定外の園児の受け入れ急増により緊急配置が必要な場合 | ・定年退職や産休など、数ヶ月前から欠員が予測できていたにもかかわらず、計画的な採用活動を怠った場合 ・別のこどもと接しない業務(事務作業など)に暫定配置して結果を待つ余裕がある場合 |
| 国による審査遅延 | ・従事開始の「1ヶ月前」等に申請を完了させていたのに、こども家庭庁からの交付が遅れている場合 | ・本人が戸籍謄本の取得をサボるなどして申請が遅れ、従事開始1週間前に滑り込みで申請を行った場合 |
| 事業者間契約の遅れ | ・派遣契約自体は余裕を持って結んでいたが、派遣元企業の都合により実際のスタッフ確定の通知が直前になった場合 | ・派遣契約の締結自体が遅れ、標準処理期間を考慮しても余裕がない時期に採用が決定した場合 |
行政の検査に耐えうる「証明書類」のファイリング実務
いとま特例を適用して結果が出る前のスタッフを現場に入れる場合、国への事前届出は不要ですが、「やむを得ない事情があったことを証明する書類」を各対象者ごとに社内でファイリング・保存しておく義務があります。
- 急な退職・病休の場合: 前任の保育士の「退職届の写し」や、急病・怪我を示す医師の「診断書」
- 採用難航の場合: 求人広告の掲載履歴やハローワークへの申込控え
- 事業者間契約の場合: 派遣会社からの「人員確定の通知メール」の受信日時記録
- 審査遅延の場合: システム上での「交付申請完了画面のスクリーンショット(申請日と従事開始予定日の時間差が証明できるもの)」
これらの書類がファイリングされていない場合、所轄庁(自治体)の立入検査の際に「いとま特例の不正適用(義務違反)」とみなされる重大なリスクがあります。
特例期間中に義務付けられる「3つの安全確保措置」
いとま特例を適用して結果を待つ間、事業者はそのスタッフを「特定性犯罪前科があるかもしれない者」とみなして、以下の措置をすべて同時に講じなければなりません。
- 原則一対一の禁止: 常に他の保育士等の第三者が同席する環境で業務を行わせ、おむつ交換や着替え補助などを含め、園児と密室や死角で2人きりにしてはなりません。
- 事前研修の受講: 実際に保育現場に入る前に、特例の趣旨や制限措置について本人に研修を受講させ、誓約させます。
- 管理職による巡回・声掛け: 園長や主任保育士が、該当スタッフの保育業務の状況を定期的に巡回し、牽制と見守りを行います。
9. 登録型有期・単発スタッフの負担を劇減させる「意向確認書面」の活用法
保育園では、夏休みのプール指導や、季節限定のイベント、不定期の単発アルバイト、登録型のベビーシッターなど、有期契約で都度雇用するスタッフが多数存在します。通常、契約がいったん終了して「離職」すると、次回の雇用(たとえば3ヶ月後)のたびに、システム上で高額な申請手数料を払い、再び2週間〜1ヶ月の犯歴結果を待つという、実務上・金銭上耐え難い負担が生じます。
これを解決する画期的なセーフティネットが、国が様式を提供する「意向確認書面(別紙2)」です。
意向確認書面の仕組みとメリット
単発・有期契約の終了時(または事前に)、「今後一定の期間(最大6ヶ月以内)、再び当園において保育業務(対象業務)に従事する可能性がある」という旨を記載した「意向確認書面」をスタッフ本人と取り交わしておきます。
この書面を締結しておくことで、雇用契約自体は一度終了しても法律上の「離職」とはみなされなくなります。その結果、締結から最大6ヶ月間は、犯罪事実確認記録等の廃棄・消去を行う必要がなく、次回の単発雇用の際にも、前回の確認結果をそのまま流用して即時に現場に立たせることが可能になります。
季節雇用のプール指導員や、登録型の保育補助者を抱える保育園の運営者は、この「意向確認書面」のひな型(別紙2)を必ず採用・労務管理体制に組み込んでおきましょう。
10. 既存の保育スタッフ(現職者)に対する「分散申請」スケジュール
法律が施行される2026年12月25日時点で、すでに自園で稼働している、または内定している既存のスタッフ(施行時現職者)についても、全員の犯罪事実確認が必要です。
ただし、一斉申請によるシステムサーバーのダウンや業務麻痺を防ぐため、義務対象事業者の現職者については、「法施行後3年以内(2029年12月24日まで)」の猶予期間と、都道府県ごとに割り振られた「分散申請スケジュール(令和9年4月〜令和11年6月までの27か月間)」が定められています。
- 申請の流れ:園長は、所轄の都道府県(または市区町村)から自園が属する「申請対象月(1か月間)」の指定通知を受け取ります。その指定された月(前後1か月を含む最大3か月のバッファー期間あり)に、既存スタッフ全員の犯罪事実確認申請をシステムから一括で行う必要があります。
- 注意点:万が一、指定された申請月に対象者の申請を漏らしてしまった場合、令和11年12月24日の最終猶予期限を待たずに「速やかな申請義務違反」となります。指定月を確実に手帳や管理カレンダーに記録しておき、申請対象の現職者リストを事前に整備しておきましょう。
11. まとめ:すべての保育事業者が「今なすべきこと」の総点検
「こども性暴力防止法(日本版DBS)」の施行は、保育園の信頼性と安全性を国の基準で強固に証明し、保護者から心から選ばれる園であり続けるための、非常に前向きな転換点です。
法施行日である2026年12月25日当日に、園の運営が麻痺するのを防ぐため、経営層・園長は以下の「今すぐなすべき実務」を大至急で総点検してください。
- GビズID(プライム)のアカウント取得申請を完了させる(オンライン取得手続の開始)
- まとめ登録の状況を確認する(万が一漏れている場合は自治体に大至急連絡)
- 就業規則を改定し、「重要な経歴の詐称」や「不適切な行為の禁止」を懲戒事由に盛り込む
- 今後の採用に備え、「採用誓約書」や求人募集要項(別紙3、別紙4)のひな型を用意する
- 現場の保育士と対話し、過度な萎縮を招かない「不適切なスキンシップ」の園内線引き(サービスマニュアル)を決定する
- 国の標準動画を使った、スタッフ全員向けの「年間研修計画書(別紙様式1)」を作成する
- 「児童対象性暴力等対処規程(別紙1)」と「情報管理規程(別紙8、9、10)」を作成し、社内体制を整備する
安心・安全な保育環境は、たった一人の「事前の完璧なルール設計」から始まります。本マニュアルを参考に、すべての保育施設の運営者の皆様が、施行に向けたロードマップを確実なものにされることを願っています。