保育施設で働く職員が長く安心して働ける環境を作るための「処遇改善等加算」。令和7年度に旧加算(Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ)が「区分1・2・3」へと一本化されましたが、その中でも施設のベースアップの土台となるのが「区分1(基礎分)」です。
令和8年度(2026年度)からは、移行のための経過措置が終了し、要件を満たさない施設は「区分1」の認定自体が受けられなくなるという非常に重要な変更が待ち受けています。
本記事では、区分1の目的や算定の仕組み、そして必須となる「キャリアパス要件」の詳細について、こども家庭庁の最新FAQに基づき20問のQ&A形式でわかりやすく解説します。
1.区分1(基礎分)の基本と対象者
Q1. 区分1(基礎分)とはどのような加算ですか?
A. 職員の経験に応じた昇給の仕組みの整備や、職場環境の改善を目的とした加算です。旧制度の「処遇改善等加算Ⅰ(基礎分)」に相当し、施設が適切にキャリアパスを構築していることを評価するものです。
Q2. 区分1の加算率はどのように決まりますか?
A. 施設に在籍する職員の「平均経験年数」に応じて、公定価格の基本分単価に対して「2%〜12%」の加算率が設定されます。
Q3. 区分1の賃金改善の対象職員は、保育士や幼稚園教諭だけですか?
A. いいえ。保育士や幼稚園教諭だけでなく、事務職員、調理員、栄養士やスクールバスの運転手等を含め、通常の教育・保育に従事するすべての職員が対象になります。非常勤職員(パートタイム等)も含まれます。
Q4. 平均経験年数の算定にあたり、派遣労働者や育児休業中の職員の期間は含まれますか?
A. はい。施設の平均経験年数の算定にあたっては、派遣労働者や、育児休業・産前産後休業を取得している職員の経験年数も算定の対象になります。
Q5. 病気等により「無給で休職」している期間は、経験年数に含まれますか?
A. 原則として含まれません。育児休業等の場合は特例として無給でも経験年数に含められますが、病気等による無給での休職の場合は、「当該年度中に復帰することが明らかに見込まれる場合」を除き、平均経験年数や加算額算定の人数には含めないこととされています。
Q6. 年度途中に職員の採用や退職があった場合、経験年数は毎月計算し直すのですか?
A. いいえ。個々の職員の勤続年数の算定や、施設全体の平均経験年数は、原則として各年度の「4月1日現在」の状況によって算定します。
Q7. 法人の役員を兼務している「施設長」は加算の対象になりますか?
A. 通常の教育・保育に従事する職員として、施設・事業所が定めた給与規程に基づき給与が支払われている施設長であれば、法人役員を兼務していても加算の対象とすることができます。
2.キャリアパス要件と令和8年度の重要変更点
Q8. 区分1を取得するための「必須要件」は何ですか?
A. 施設が「キャリアパス要件」に適合していることが必須となります。旧制度では一部の加算要件に過ぎませんでしたが、新制度では区分1(基礎分)を取得するための前提条件として位置づけられています。
Q9. 「キャリアパス要件」とは具体的にどのような内容ですか?
A. 大きく分けて以下の3つの要件をすべて満たし、就業規則等で明文化して全職員に周知する必要があります。
- 職員の職位、職責又は職務内容等に応じた勤務条件等の要件や、それに応じた賃金体系を定めていること。
- 職員との意見交換を踏まえた資質向上のための目標や計画を策定し、研修機会の提供や技術指導等を実施し、そのフィードバックを行うこと。
- 資格取得のための支援を実施すること。
Q10. 令和8年度から、キャリアパス要件の扱いはどのように変わるのですか?
A. 令和7年度までは、キャリアパス要件を満たしていなくても加算率を「2%減算」するだけで区分1を取得できる経過措置がありましたが、令和8年度からはこの特例が終了します。 要件を満たしていない施設・事業所は、区分1の認定自体が受けられなくなります。
Q11. 要件を満たしていないため年度当初は区分1が取得できませんでした。年度途中から認定を受けることは可能ですか?
A. はい。キャリアパス要件を満たしたのち、必要な届出を行うことで、年度途中から新たに区分1の認定を受けることは可能です。
Q12. キャリアパス要件の「研修」は、どの程度のものを実施すれば認められますか?
A. 職員の職位や職務内容等に応じた研修を実施、又は研修の機会を確保していればよく、社会通念上明らかに職員の研鑽目的でないものを除き、施設の実情に応じて取り組んでいれば認められます。
Q13. 研修後の「フィードバック」は、職員ごとに5段階評価などをつける必要がありますか?
A. いいえ、5段階評価等を行うことまでは求められません。研修や技術指導の効果が職員の資質向上に繋がっているかどうかについて、個別面談をするなどにより確認することでも足ります。
Q14. 「資格取得のための支援」は、例示されている全メニュー(休暇の付与、交通費・受講料の援助等)を満たす必要がありますか?
A. いいえ。幼稚園教諭免許状や保育士資格等の取得を促すための支援であればよく、必ずしも例示されている全ての取組を網羅して満たすことまでは想定されていません。
Q15. 旧制度の就業規則に「加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲ」と記載されていますが、「区分1・2・3」へ書き換えないと要件違反になりますか?
A. 令和6年度に就業規則等を整備して旧加算を取得しており、令和7年度以降も実質的に運用変更が生じていないような場合は、旧加算の記載を適宜「区分」に読み替えて就業規則等が整備されているものとして取り扱って差し支えありません。
3.認定手続きと運用ルール
Q16. キャリアパスが未整備で区分1の認定を受けられない場合、区分2(賃金改善分)や区分3(質の向上分)の認定も受けられないのですか?
A. いいえ。加算の認定自体は区分1、区分2、区分3それぞれで個別に行います。そのため、区分2や区分3の認定は受ける一方で、要件を満たさず区分1は認定されない、といったケースもあり得ます。
Q17. 区分1の認定手続きのスケジュールはどうなりますか?
A. 処遇改善等加算を受けようとする施設・事業者は、都道府県知事や市町村長が定める日までに必要書類を提出することになります。具体的な日程は各自治体のスケジュールによります。
Q18. 加算の認定手続きが年度途中になった場合、認定の効果は年度当初(4月)に遡及されますか?
A. はい。市町村において加算の認定にまで至っていない場合等であっても、事業者からの申請をもって暫定的に支給し、認定が行われた後に確定し遡及して適用する(給付費等の支払いが遅れることで施設の運営に支障が生じないようにする)運用が示されています。
Q19. 区分1の加算は、児童が月の途中で入退所した場合、日割り計算の対象になりますか?
A. 区分1(および区分2)の加算は「各月初日の利用子どもの単価に加算」される性質のものであるため、月途中での入退所があった場合でも日割り計算の対象から外れます。月初日に在籍していれば全額加算され、月途中の入所にはその月は加算されません。
Q20. 加算額の「1/2以上」を基本給や毎月の手当で改善しなければならないルールは、区分1にも適用されますか?
A. いいえ。「基本給・決まって毎月支払われる手当による1/2以上の改善ルール」は、区分2と区分3を合わせた加算額に対して適用されるものであり、区分1の加算見込額はこの計算式には含まれません。区分1はあくまで施設の昇給制度や職場環境を整備するための基礎的な財源となります。
まとめ
令和8年度より、区分1の取得にあたって「キャリアパス要件」が完全に必須化されます。就業規則や賃金規程が未整備であったり、研修計画や面談等の運用実態が伴っていなかったりすると、大きな財源である区分1の加算率がゼロになってしまうリスクがあります。
施設運営者の皆様は、これを機に自園の給与体系や人材育成の仕組みを改めて見直し、職員が将来に希望を持って長く働き続けられる職場環境の構築を進めてください。