こども性暴力防止法で不適切な行為が発覚した場合、どう対応すべきか。暫定措置から就業規則の改定ポイント、派遣社員への対応まで、現場の労働トラブルを防ぐための実務Q&Aを行政書士が解説します。

第4回(後編)となる今回は、前編に引き続き「防止措置と労働法制上の実務対応」について解説します。

実際に施設内で性暴力の疑いや不適切な行為が発覚した場合の「暫定措置」から、就業規則の見直し、派遣社員への対応など、現場で直面しやすい20の疑問(Q21からQ40)を取り上げます。

参考:こども家庭庁 こども性暴力防止法(日本版DBS)について

目次
  1. 第5章:性暴力の疑いの発生と暫定的な対応・事実認定時の措置
    1. Q21. 在籍するこどもや保護者から、特定の従事者による性暴力の被害の申出があった場合、事業者はまず何をすべきですか?
    2. Q22. 接触回避のための「暫定措置」としては、具体的にどのような対応をとりますか?
    3. Q23. 暫定措置として「自宅待機」を命じる場合の留意点は何ですか?
    4. Q24. 調査により、被害の申出が事実でなかった(無実だった)ことが証明された場合、職場復帰の際に配慮すべきことはありますか?
    5. Q25. 調査の結果、児童対象性暴力等が行われたと「合理的に判断される場合」、どのような防止措置を講じますか?
  2. 第6章:「不適切な行為」発覚時の段階的処分ルール
    1. Q26. 性暴力には該当しないものの、「不適切な行為」が行われたと判断される場合、すぐに厳しい処分となりますか?
    2. Q27. 初回で軽微な不適切な行為に対する「研修受講命令」は、労働時間に含まれますか?
    3. Q28. 指導や研修受講命令を行ったにもかかわらず、同様の不適切な行為を繰り返した場合はどうなりますか?
    4. Q29. 不適切な行為であっても、「重大な不適切な行為」であると判断された場合はどう対応すべきですか?
    5. Q30. どのような行為が「重大な不適切な行為」に当たりますか?
  3. 第7章:就業規則の見直しと懲戒処分の法的要件
    1. Q31. 就業規則において、「不適切な行為」を懲戒事由として明記していなくても、問題が起きた際に処分できますか?
    2. Q32. こども性暴力防止法の施行に向けて、就業規則には具体的にどのような規定を追加・明記すべきですか?
    3. Q33. 「児童対象性暴力等の禁止」といった規定は、既存の「公序良俗に反する行為の禁止」などの一般的な規定で代用できませんか?
    4. Q34. 対象業務から外すための「配置転換」を命じようにも、自社には事務職などこどもと接しないポストがありません。この場合、普通解雇は可能ですか?
    5. Q35. 防止措置(配置転換や解雇など)の有効性を巡って労働者とトラブルになった場合、事業者はどこに相談できますか?
  4. 第8章:派遣社員等の対応と労働トラブルの相談窓口
    1. Q36. 派遣社員に「不適切な行為」が発覚した場合、事業者が直接懲戒処分を行ってもよいですか?
    2. Q37. 派遣労働者が「特定性犯罪事実該当者」であることが分かり、防止措置を講じる場合、派遣元にどのように交代を求めますか?
    3. Q38. 「特定性犯罪事実関連情報」とは何ですか?防止措置の調査等で知り得た情報も厳格な管理が必要ですか?
    4. Q39. 性暴力の疑いを把握した際の「初期の聴き取り」において、事業者(従事者)が絶対にやってはいけないことは何ですか?
    5. Q40. いよいよ2026年12月25日の施行が迫っています。事業者が労働トラブルを防ぐために、施行前に必ず終えておくべき人事労務の「2大準備」は何ですか?
  5. 第4回(後編)のまとめ

第5章:性暴力の疑いの発生と暫定的な対応・事実認定時の措置

Q21. 在籍するこどもや保護者から、特定の従事者による性暴力の被害の申出があった場合、事業者はまず何をすべきですか?

A. 事実関係の調査が完了する前であっても、被害拡大防止のため、被害が疑われるこどもと加害が疑われる従事者などの「接触の回避」を最優先で行う必要があります。

Q22. 接触回避のための「暫定措置」としては、具体的にどのような対応をとりますか?

A. 加害が疑われる従事者を一時的に対象業務(こどもと接する業務)から外し、自宅待機を命じたり、別業務(事務作業など)に従事させたりするといった措置を講じます。

Q23. 暫定措置として「自宅待機」を命じる場合の留意点は何ですか?

A. 調査の段階では事実が確定していないため、対象業務従事者の人権などにも配慮し、公正・中立に対応する必要があります。自宅待機の理由などについては、調査の時点から必要最小限の者の間でのみ情報を共有し、うわさ等によって特定の従事者が不利益を被らないように厳重に管理することが重要です。

Q24. 調査により、被害の申出が事実でなかった(無実だった)ことが証明された場合、職場復帰の際に配慮すべきことはありますか?

A. 一時的に接触回避等の措置を講じたものの、調査により加害を行っていないことが証明された従事者が職場復帰するに当たっては、偏見等が生じないような最大限の配慮が必要です。日頃から厳格な情報管理を行い、根拠のないうわさが拡散しないように防ぐことが、スムーズな職場復帰の鍵となります。

Q25. 調査の結果、児童対象性暴力等が行われたと「合理的に判断される場合」、どのような防止措置を講じますか?

A. 原則として、当該従事者を対象業務に従事させてはなりません。懲戒事由に該当する場合には就業規則に沿った対応(懲戒処分等)を行うとともに、それが防止措置として不十分である場合には、対象業務以外への配置転換などを講じる必要があります。

第6章:「不適切な行為」発覚時の段階的処分ルール

Q26. 性暴力には該当しないものの、「不適切な行為」が行われたと判断される場合、すぐに厳しい処分となりますか?

A. 行為の悪質性や頻度に応じて段階的な対応が求められます。初回かつ比較的軽微なものであるような場合は、いきなり厳しい処分を行うのではなく、まずは当該行為を繰り返さないように指導や研修受講命令を行い、注意深くその後の経過観察を行うなどの対応が考えられます。

Q27. 初回で軽微な不適切な行為に対する「研修受講命令」は、労働時間に含まれますか?

A. 含まれます。この場合の研修は、事業者が従事者に必ず受講させなければならないものとして業務命令で行われるため、その受講時間は労働時間に含まれます。

Q28. 指導や研修受講命令を行ったにもかかわらず、同様の不適切な行為を繰り返した場合はどうなりますか?

A. 指導したにもかかわらず同様の行為を繰り返した場合には、児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合に準じて、対象業務から外すなどのより厳格な対応を行うことが考えられます。

Q29. 不適切な行為であっても、「重大な不適切な行為」であると判断された場合はどう対応すべきですか?

A. 重大な不適切な行為である場合には、初回であっても児童対象性暴力等が行われたと合理的に判断される場合に準じた厳格な対応(配置転換や懲戒処分等)を行うことになります。

Q30. どのような行為が「重大な不適切な行為」に当たりますか?

A. 不適切な行為に、執拗に行われたり、こどもや保護者の意に反することを認識しながら行われたりといった、悪質性が高まる要素が加わった場合を指します。

第7章:就業規則の見直しと懲戒処分の法的要件

Q31. 就業規則において、「不適切な行為」を懲戒事由として明記していなくても、問題が起きた際に処分できますか?

A. できません。労働法制の原則として、企業が労働者を懲戒処分にするためには、あらかじめ就業規則に懲戒の種別と懲戒事由を定めておき、労働者に周知している必要があります。規定がない行為を理由に処分を行うことは、不当解雇や不当処分として無効となるリスクがあります。

Q32. こども性暴力防止法の施行に向けて、就業規則には具体的にどのような規定を追加・明記すべきですか?

A. 施行に向けて、以下の内容を就業規則に定めることが推奨されます。

追加・明記すべき規定の項目具体的な内容
定義の明確化「児童対象性暴力等」および「児童対象性暴力等につながる不適切な行為」の範囲
禁止事項教育や保育を提供する場において、これらの行為を行ってはならないこと
報告義務これらの行為を行って刑罰を科された場合は、速やかに報告すること
処分内容児童対象性暴力等や不適切な行為を理由として「懲戒処分」や「普通解雇」につながる旨

Q33. 「児童対象性暴力等の禁止」といった規定は、既存の「公序良俗に反する行為の禁止」などの一般的な規定で代用できませんか?

A. 児童対象性暴力等や不適切な行為は、こども性暴力防止法の趣旨や規定に反する行為であり、厳格な懲戒処分の対象になり得るため、一般的な規定で済ませるのではなく、明確な懲戒事由として定めておくことが強く推奨されます。

Q34. 対象業務から外すための「配置転換」を命じようにも、自社には事務職などこどもと接しないポストがありません。この場合、普通解雇は可能ですか?

A. 労働契約法上、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない普通解雇は権利の濫用として無効となります。しかし、こどもの安全確保の観点から対象業務から外す必要があり、かつ他に従事させるポストが自社内に存在しないために解雇以外の選択肢が取り得ないといった事情は、解雇の有効性判断において重要な要素として考慮され得ます。

Q35. 防止措置(配置転換や解雇など)の有効性を巡って労働者とトラブルになった場合、事業者はどこに相談できますか?

A. 万が一、防止措置の内容を巡って労使間でトラブルが生じた場合は、都道府県の労働局などに設置された相談窓口である「総合労働相談コーナー」などを活用して相談することができます。

第8章:派遣社員等の対応と労働トラブルの相談窓口

Q36. 派遣社員に「不適切な行為」が発覚した場合、事業者が直接懲戒処分を行ってもよいですか?

A. できません。派遣社員の雇用主(懲戒権者)は派遣元(派遣会社)であるため、派遣先である事業者が直接懲戒処分を行うことはできません。派遣先は、自社内での接触回避等の防止措置を講じた上で、派遣元に対応(指導や交代等)を要請することになります。

Q37. 派遣労働者が「特定性犯罪事実該当者」であることが分かり、防止措置を講じる場合、派遣元にどのように交代を求めますか?

A. 犯歴情報を派遣元へ伝えることは、法に基づく第三者提供の禁止に違反します。そのため、「こども性暴力防止法に基づく防止措置を講ずる必要があるため」といった、犯歴の有無を直接的に示唆しない表現に留めて、派遣元に交代を要請する必要があります。

Q38. 「特定性犯罪事実関連情報」とは何ですか?防止措置の調査等で知り得た情報も厳格な管理が必要ですか?

A. 特定性犯罪事実関連情報とは、犯罪事実確認記録等を端緒にして、従事者本人と改めて面談の場を設ける等により、追加的に得た特定性犯罪事実に関連する情報を指します。これも犯歴同様に機微な情報であるため、犯罪事実確認記録等と同様の厳格な情報管理が求められます。

Q39. 性暴力の疑いを把握した際の「初期の聴き取り」において、事業者(従事者)が絶対にやってはいけないことは何ですか?

A. こどもから被害を打ち明けられた際、「なぜ」「いつ」「何回」と尋ねることや、「誰先生がやったの?」と誘導するような問いかけをすることは避けてください。これらの質問はこどもの記憶の汚染につながり、その後の裁判などでこどもの証言が証拠として認められなくなる可能性があります。聴き取る内容は誰が何をしたかにとどめ、それ以上の調査は警察等の専門家に委ねてください。

Q40. いよいよ2026年12月25日の施行が迫っています。事業者が労働トラブルを防ぐために、施行前に必ず終えておくべき人事労務の「2大準備」は何ですか?

A. 「就業規則の見直し(重要な経歴の詐称や不適切な行為の懲戒事由化)」と、「採用プロセスにおける前科の事前確認の仕組みづくり」です。この2つの事前準備を怠ると、いざ前科や不適切な行為が判明した際に、適法に労働者を対象業務から外すことができなくなり、こどもの安全確保と労働法制の板挟みという最悪の労働トラブルに発展します。法の施行前から、あらかじめこれらを明確に定め、求職者や現職者に伝達しておくことが事業者を守る最大の防衛策となります。

第4回(後編)のまとめ

第4回の前編・後編を通じて、防止措置と労働法制上の実務対応について解説いたしました。

こどもの安全を第一に考える本法と、労働者の権利を保護する労働関係法令。この2つの法律の要請を同時に満たすためには、事案が発生してから慌てて対応するのではなく、平時からの就業規則の整備と採用時の明示的な同意・確認がすべてを決定づけます。

次回は【情報管理措置・事前準備編】と「2026年12月施行に向けた事業者アクションプラン(ロードマップ)」をお届けします。どうぞご期待ください。