こども福祉専門の行政書士として、こども性暴力防止法(日本版DBS)に関する実務Q&A連載をお届けしております。
本制度において、事業者が日常的に取り組まなければならない最重要課題が「不適切な行為」の防止です。しかし、教育・保育の現場からは「どこまでがスキンシップで、どこからがルール違反になるのか?」「業務に支障が出ないか?」といった不安の声が多く寄せられています。
本記事では「不適切な行為」の具体的な線引きについて、全40問のQ&A(前編・後編)で徹底解説いたします。前編となる今回は、SNSのやり取りや身体接触など、日常の業務で発生しやすい20の疑問にお答えします。現場が過度に萎縮することなく、こどもたちを守るための運用ルールの参考にしてください。
第1章:「不適切な行為」の基本的な考え方
Q1. そもそも「不適切な行為」とは何ですか?性犯罪とは違うのですか?
A. 「不適切な行為」とは、行為そのものは不同意わいせつ等の性暴力(犯罪等)には該当しなくとも、業務上必ずしも必要な行為とは言えず、その行為が継続・発展することにより児童対象性暴力等につながり得る行為を指します。いわゆる「性的手なずけ(グルーミング)」の初期段階となり得る行為のことです。
Q2. なぜ犯罪ではない「不適切な行為」の段階から厳しく管理する必要があるのですか?
A. 不適切な行為が日常化すると、従事者とこどもの間の公私の区別が不明確になり、適切な距離感が失われて性暴力に至るリスクが高まるためです。また、性暴力には至らずとも、不必要な身体接触などがこどもの尊厳を侵害し得るという認識に立ち、その「芽」の段階で対処し未然に防ぐことが本制度の核心です。
Q3. ガイドラインに載っている「不適切な行為の例」を行ったら、すべての施設で一律にルール違反になるのですか?
A. いいえ、すべての事業者で一律に不適切と判断されるわけではありません。
「不適切か否か」は、事業内容、こどもの発達段階や特性、現場の状況等によって変わり得ます。そのため、国が定めた例を参考にしつつ、最終的には事業者が現場の従事者と話し合い、自社の実態に即してルールを決定することが求められます。
第2章:SNSや私的なコミュニケーションについて
Q4. こどもとSNS(LINEなど)やオンラインゲームでやり取りをするのは不適切な行為ですか?
A. はい。業務上の必要性がないのに、こどもと私的な連絡先を交換し、私的なやり取りを行うことは、不適切な行為の典型例として挙げられています。
Q5. 部活動や学習塾の連絡ツールとして、SNSやメールを使わざるを得ない場合はどうすればよいですか?
A. 業務上の必要性からSNS等を用いること自体は禁止されていません。ただし、可能な限り一対一(密室状態)とならないよう、連絡用のチャットグループに保護者や他の職員も宛先に入れる、個人的な相談が寄せられた場合は必ず上司に報告するなど、第三者が確認できる状況を作る工夫が求められます。
Q6. 休日に、こどもと二人きりで会うのは不適切な行為ですか?
A. はい。休日や放課後にこどもと二人きりで私的に会うことや、保護者の承諾なくこどもの自宅で二人きりになること、児童を自分の自宅に招くことは不適切な行為とされます。偶然街で会って挨拶を交わす程度は問題ありませんが、そこから私的な交流に発展しないよう注意が必要です。
Q7. 運動会や発表会などで、自分のスマートフォンでこどもの写真を撮るのはダメですか?
A. 業務上必要な範囲外で撮影することや、私物のスマートフォン等の「ルール外の方法」でこどもの写真・動画を撮影・管理することは不適切な行為に当たります。撮影が必要な場合は法人支給のカメラ・端末を使用し、撮影データの管理ルールを厳格に定める必要があります。
第3章:スキンシップと身体接触の境界線
Q8. 面談などでこどもと密室で二人きりになるのは不適切な行為ですか?
A. 用務がないのに別室に呼び出すなど、不必要に密室で二人きりになろうとすることは不適切な行為です。業務上個別面談が必要な場合は、ドアを開けたままにする、ガラス窓付きの部屋を使うなど、第三者の目に触れる環境(死角の解消)を整えることが推奨されます。
Q9. スポーツクラブやダンス教室で、フォーム指導のためにこどもの身体に触れるのも不適切になりますか?
A. スポーツ、水泳、バレエ等においては、こどもや保護者の理解を得た範囲で身体接触を伴う指導はあり得るとされています。ただし「理由もなく体を触る」ことは不適切です。指導の都度「ここを触って直すよ」と声をかけるなど、業務上必要な範囲にとどめる工夫が必要です。
Q10. 未就学児の保育では抱っこやおんぶは日常的ですが、これも不適切と言われてしまうのでしょうか?
A. 未就学児に対する膝に乗せる、おんぶするといった行為は、業務として行い得るものであるとガイドラインでも明記されています。しかし、未就学児であっても「必要以上に長時間抱きしめる」「一般的な抱き方ではない」といった行為は不適切となる可能性があります。
Q11. 愛着に課題があるこどもの方から抱きついてきた場合は、無下に断らなければなりませんか?
A. スキンシップを無下に断ることが適切ではない場面も想定されます。そのような場合は、例えば「お膝の上じゃなくて隣に座ろうね」と声をかけて隣に座らせる、膝に乗せる場合でも他の職員から見える方向を向くなど、密室化や誤解を防ぐためのその場に応じた工夫を行うことが求められます。
Q12. 視覚障害児の誘導を行う場合も、身体の接触に気をつけるべきですか?
A. 障害児の療育や誘導において身体的接触は必要不可欠ですが、ガイドラインでは「視覚障害児の誘導時に必要以上に距離が近い」といった行為が不適切な行為の例として挙げられています。必要な支援の範囲を超えていないか、事業所内で共通の基準を持つことが大切です。
第4章:排せつ介助・更衣・送迎等の場面
Q13. 保育現場での「おむつ交換」や「排せつ介助」は、どのような場合が不適切になりますか?
A. こどもの発達段階から考えて不必要な入浴・排せつ介助を行おうとすることや、こどもが一人でやりたいと意思を示しているのにわざわざ介助に入ること、また「衣服の上から陰部を触るようにおむつ交換をする」など誤解を受けるような仕方は不適切とされます。特段の必要性がないのに特定のこどもだけの排せつ介助を行おうとする行為も対象です。
Q14. こどもが着替えている部屋(更衣室)に入るのは不適切な行為ですか?
A. 不必要に更衣室や更衣中の部屋に入室することは不適切です。また逆に、不特定多数の人の目がある中でこどもに更衣をさせることも不適切とされます。更衣を伴う活動では、不必要にこどもと従事者が二人きりにならないような運用(複数名での見守り等)が必要です。
Q15. 災害や急病などの緊急時に、やむを得ず自分の車に乗せてこどもを送迎するのはルール違反になりますか?
A. 日常的な送迎と、災害等の緊急事態の送迎を同等に扱うことはできません。日常的に不必要にこどもを一人で車に乗せることは不適切な行為ですが、緊急的・一時的にやむを得ず行う場合は、事前・事後にその経過を上司や組織内で共有するなど、性暴力につながらないための歯止めをかけるルールを定めておくことが必要です。
第5章:「特別扱い」と「重大な不適切な行為」
Q16. 特定のこどもをよく褒めたり、ご褒美をあげたりするのは不適切ですか?
A. はい。「特定のこどもに高価な金品を与える」「正当な理由なく声掛けや態度を変える」「容姿を過度に褒める」「特定のこどもの保育・介助を理由なく担当しようとする」といった行為は、特別扱いとして不適切な行為に当たります。
Q17. 従事者がこどもの前で露出度の高い服を着ることも、不適切な行為になるのですか?
A. はい。従事者が過度に肌を露出するという行為は、肌を露出することへのこどもの抵抗感や警戒心を徐々に低減させ、性暴力が起きやすい状況を生み出し得るため、「性的手なずけ」につながり得る行為として不適切な行為の例に挙げられています。
Q18. 「重大な不適切な行為」とは何ですか?通常の不適切な行為と何が違いますか?
A. 不適切な行為に「執拗に」「こどもや保護者の意に反することを認識しながら」といった悪質性が高まる要素が加わった場合、「重大な不適切な行為」に該当し得ます。
例えば、保護者の意に反することを認識しながらこどもの自宅等で二人きりになる、こどもの意に反して必要以上に長時間抱きしめるといった行為であり、この場合は配置転換や解雇といった厳格な「防止措置」の対象となります。
第6章:ルール策定と周知に関する実務
Q19. 自社の「不適切な行為」のルールは、経営者や管理職だけで決めてしまってよいですか?
A. 現場で業務を担う対象業務従事者としっかりコミュニケーションを図り、実態に即して決定することが非常に重要です。上層部が一方的に決めると現場が過度に萎縮し、本来必要な教育や保育に支障が出るおそれがあります。日々のミーティング等で「この場面の対応に迷う」といった事例を出し合い、共通認識を作っていくプロセスが求められます。
Q20. 決定したルールは、こどもや保護者にも伝える必要がありますか?
A. はい、伝える必要があります。従事者への周知(就業規則等への明記)だけでなく、こどもや保護者に対しても、各事業者が定めた「不適切な行為」について十分に周知徹底を行い、理解を得て業務を行うことがガイドラインで求められています。
第2回(前編)のまとめと「後編」の予告
前編では、現場の最前線で迷いやすい「不適切な行為」の具体的な線引きについて解説しました。最も大切なのは、ガイドラインの例をそのまま規則にするのではなく、「自社の事業ではどこまでが必要な業務で、どこからが不適切か」を職員間で話し合い、明文化することです。
続く【第2回(後編)】では、これらの「不適切な行為」が実際に起きてしまった・発覚してしまった場合の初期対応や、「1回目の軽微な違反で解雇できるのか?」「どのように指導・懲戒を行うべきか」といった、より人事労務管理に踏み込んだQ21からQ40の疑問にお答えします。どうぞご期待ください。