こども福祉専門の行政書士として、こども性暴力防止法(日本版DBS)に関する実務Q&A連載をお届けしております。
第3回となる今回は、いよいよ本制度の核心部分である「犯罪事実確認(日本版DBS)」の基本と、新たに導入される「こまもろうシステム」を利用した採用実務について解説いたします。
採用担当者や人事部門の方から寄せられる具体的な疑問にお答えすべく、前編では、確認の対象となる犯罪の基本から、システムへの登録、そして万が一犯歴があった場合の通知フローまで、実務に直結する20の疑問(Q1からQ20)を取り上げます。採用スケジュールの見直しやシステム導入の準備にぜひご活用ください。
第1章:犯罪事実確認の基本と対象犯罪
Q1. 「犯罪事実確認(日本版DBS)」とは具体的に何を行う制度ですか?
A. こどもと接する業務の従事者について、過去に「特定性犯罪」を犯し、再犯リスクが高いとされる期間内にある者(特定性犯罪事実該当者)でないかどうかを、事業者が国(こども家庭庁・法務省)のシステムを通じて照会し、確認する制度です。
Q2. 確認の対象となる「特定性犯罪」にはどのような犯罪が含まれますか?
A. 刑法犯(不同意性交等、不同意わいせつ等)、児童福祉法違反(淫行をさせる罪)、児童ポルノ法違反、性的姿態撮影等処罰法違反(盗撮)のほか、各都道府県の迷惑防止条例等で定められている「痴漢」や「卑わいな言動」なども含まれます。
Q3. 「こどもに対する性犯罪」だけでなく、成人に対する性犯罪も対象ですか?
A. はい、対象となります。被害者がこどもであるか成人であるかを問わず、定められた特定性犯罪のすべてが確認の対象となります。
Q4. 何十年前の犯罪でも確認の対象になるのでしょうか?
A. 未来永劫対象となるわけではありません。刑の重さに応じて、再犯リスクが高いとされる以下の「一定期間内」にある者が「特定性犯罪事実該当者」として就業制限の対象となります。
| 受けた刑罰の種類 | 確認対象となる期間 |
|---|---|
| 拘禁刑(旧懲役・禁錮)の実刑 | 刑の執行終了等から「20年」を経過していない者 |
| 拘禁刑の執行猶予判決 | 裁判確定から「10年」を経過していない者 |
| 罰金刑 | 刑の執行終了等から「10年」を経過していない者 |
第2章:確認のタイミングと採用選考
Q5. 新規採用者の場合、犯罪事実確認はどのタイミングで行うのですか?
A. 原則として、「対象業務の従事開始日(こどもと接する業務を行わせる日)まで」に確認を完了させ、犯罪事実確認書を受領しておく必要があります。
Q6. 面接の段階など、内定を出す前にシステムで照会をかけることはできますか?
A. できません。犯歴は極めて機微な個人情報であるため、求人応募の段階など、真に確認が必要かどうかわからない段階での申請は不可能です。内定や異動内示等を受けて、対象業務に従事することが決定してから(本人の承諾を得た上で)行います。
Q7. 求人票や募集要項には、何を記載すべきですか?
A. 採用募集要項の採用条件等において、「特定性犯罪前科がないこと(本制度に基づく犯罪事実確認の対象となること)」を明記し、求職者に事前に周知することが求められます。
Q8. 面接の時に、前科の有無を直接質問してもよいですか?
A. はい、確認を行ってください。事前のスクリーニングや後の労働トラブルを防ぐため、採用面接等を通じて、特定性犯罪前科の有無を書面(誓約書・履歴書等)で明示的に確認・申告させることが極めて重要です。これを隠していた場合は「経歴詐称」に問うための根拠となります。
Q9. 内定者が「犯罪事実確認のための戸籍提出等」を拒否した場合はどうなりますか?
A. 犯罪事実確認の手続きが完了しない限り、事業者はその者を対象業務(こどもと接する業務)に従事させることはできません。内定の取消しや、対象外業務(こどもと接しない業務)への配置などを検討することになります。
第3章:従事者の情報提出と「こまもろうシステム」
Q10. 犯罪事実確認の手続きは、どのような流れで進みますか?
A. 手続きは、事業者と従事者本人の双方で以下のステップを踏んで進められます。
- 事業者が「こまもろうシステム」に従事者の氏名・連絡先を登録し、案内メールを送信。
- 従事者本人がシステムでアカウントを作成し、戸籍等の必要情報を提出。
- 事業者がシステム上で国へ交付申請を実施。
- こども家庭庁から法務省への照会を実施。
- 照会結果がシステム上で事業者に交付される。
Q11. 事業者がシステムを利用するために、事前に何の準備が必要ですか?
A. 法人の共通認証基盤である「GビズID(プライム等)」の取得が必須となります。これを用いて、システムへの事業者アカウントの登録や担当者の権限設定を行います。
Q12. 従事者は、システムで具体的に何を提出するのですか?
A. 本人確認と犯歴照会のため、日本国籍の場合は「現在および過去のすべての戸籍・除籍情報」を提出します。また、マイナンバーカード等を用いた厳格な本人認証が必要です。
Q13. マイナンバーカードを持っていない従事者はどうすればよいですか?
A. マイナンバーカードを利用しない方法での手続きも用意される予定ですが、本人確認の手間や時間が余計にかかる可能性があります。スムーズな手続きのため、可能な限りマイナンバーカードの取得を促すことが推奨されます。
Q14. 申請から犯罪事実確認書が交付されるまで、何日くらいかかりますか?
A. 標準処理期間として、日本国籍の従事者の場合は「2週間程度」の期間を要する見込みです。外国籍の場合はさらに時間を要するため、この期間を逆算して余裕のある採用スケジュールを組む必要があります。
Q15. 交付された犯罪事実確認書は、紙で印刷して社内で保管すべきですか?
A. いいえ、保管しないでください。犯歴情報の漏えいを防ぐため、確認書の内容を紙に印刷したり、ローカルPCにダウンロード保存したりすることは極力避けるべきです。原則として「こまもろうシステム」の画面上でのみ確認する運用が求められます。
第4章:外国人対応と、犯歴「あり」の場合の通知フロー
Q16. 外国籍の人は、戸籍がないのに何を提出するのですか?
A. 戸籍の代わりに「在留カード」や「パスポート(旅券)の写し」、本国が発行する氏名や国籍等の変更を示す「戸籍相当書類」の提出等が求められます。
Q17. 日本語に慣れていない外国人に対して、事業者が代行してシステム入力してもよいですか?
A. はい、一定のサポートは可能です。カナ氏名の登録等において、対象事業者が申請従事者本人の発音から氏名の読み方を確認した上で、サポートや代行してシステムへ登録することは認められています。
Q18. 照会の結果、犯歴「あり」と判明した場合、すぐに事業者へ結果が通知されるのですか?
A. いいえ、すぐには通知されません。犯歴がある場合、事業者に結果が知らされる前に、まずは「従事者本人に対してのみ」システムを通じて事前通知が行われる仕組みになっています。
Q19. 本人への事前通知後に行われる「訂正請求」とは何ですか?
A. 事前通知を受けた本人が、「同姓同名の別人である」「すでに期間が経過している」など、通知内容が事実ではないと思われる場合に、通知から2週間以内に国に対して内容の訂正を求めることができる権利保障の仕組みです。
Q20. 本人が自ら辞退するための「中止要請」とは何ですか?
A. 事前通知を受けた本人が犯歴を自覚しており、「事業者に前科を知られたくない」と考えた場合、事業者へ内定辞退や退職を申し出た上で、国に対して確認手続きの中止を求めることができる仕組みです。この中止要請が行われると、事業者へ犯歴が通知されることは一切ありません。
第3回(前編)のまとめと次回予告
前編では、犯罪事実確認の基本ルールと、採用からシステム申請までの実務フローについて解説しました。事業者にとっては、「採用時の前科の有無の書面確認」と「GビズID等のシステム準備」が、施行に向けた喫緊の課題となります。
続く【第3回(後編)】では、派遣社員や実習生、ボランティアといったイレギュラーな雇用形態での取扱いと、例外措置である「いとま特例」、現職者の経過措置(分散申請)といった、Q21からQ40の疑問にお答えします。どうぞご期待ください。