こども福祉専門の行政書士として、こども性暴力防止法(日本版DBS)に関する実務Q&A連載をお届けしております。
前編に引き続き、今回は「犯罪事実確認(日本版DBS)」に関する実務の疑問にお答えします。後編となる本記事では、派遣社員や業務委託、実習生といったイレギュラーな雇用形態での取り扱いや、現職者の申請スケジュール(分散申請)、そして採用が間に合わない場合の例外措置「いとま特例」について、Q21からQ40の疑問を解説いたします。
自社の複雑な人員配置や、急な欠員対応に備えるための参考にしてください。
参考:こども家庭庁 こども性暴力防止法(日本版DBS)について

目次
  1. 第5章:派遣・業務委託・実習生などの取扱い
    1. Q21. 派遣社員を受け入れる場合、犯罪事実確認の手続きは「派遣先」と「派遣元」のどちらの事業者が行うのですか?
    2. Q22. 派遣社員について、派遣先での確認の結果、性犯罪歴があると判明しました。派遣元に「前科があったから交代してほしい」と伝えてもよいですか?
    3. Q23. 外部のフリーランス(個人業務受託者)に指導を委託する場合、誰が確認を行いますか?
    4. Q24. 大学や専門学校の学生が実習生として来る場合、犯罪事実確認の対象となりますか?対象となる場合、大学と実習先のどちらが行いますか?
    5. Q25. 実習生について確認を行った結果、性犯罪歴があることが分かりました。実習の受け入れができないことを、実習元の大学等にどのように伝えればよいですか?
  2. 第6章:異動・再雇用・複数施設での取扱い
    1. Q26. 1年間の任期で講師を任用し、任期終了後に再任用(更新)する場合、その都度、犯罪事実確認が必要になりますか?
    2. Q27. 当初は再任用の予定がなかった従事者を、期間を空けて再度任用することになりました。この場合、改めて犯罪事実確認が必要ですか?
    3. Q28. 犯罪事実確認を一度行えば、その後はずっと有効ですか?
    4. Q29. 施行時現職者で犯罪事実確認が済んだ者が、同一法人内の他の事業所(別の学校や保育所など)に異動する場合、異動時に再確認が必要ですか?
  3. 第7章:現職者の経過措置と分散申請
    1. Q30. 法律の施行時(2026年12月予定)にすでに働いている「現職者」は、いつまでに確認すればよいですか?
    2. Q31. 義務対象事業者の現職者の確認は「分散申請」になると聞きましたが、どのような仕組みですか?
    3. Q32. 私立学校や児童福祉施設の現職者も、分散申請の対象ですか?
    4. Q33. 学校法人が複数の都道府県に学校を設置している場合、施行時現職者の申請時期はどうなりますか?
    5. Q34. 割り当てられた申請対象月の1か月間で全員分の申請が難しい場合はどうすればよいですか?
    6. Q35. 施行の時点で「休職中」の教員等については、復職時に確認を行えばよいですか?
    7. Q36. 施行の時点で従事している現職者ですが、施行から3年経つ前の退職することが分かっている場合、それまでに確認を行う必要はありますか?
  4. 第8章:例外措置「いとま特例」の適用と安全確保
    1. Q37. 「いとま特例」とはどのような制度ですか?
    2. Q38. 欠員補充で急いで採用したい場合、事業者の判断で常に「いとま特例」を適用できますか?
    3. Q39. 「いとま特例」を利用して、確認結果が出る前の者を現場に立たせる場合、どのような安全確保が必要ですか?
    4. Q40. いとま特例で従事させた後に、犯罪事実確認の結果、性犯罪歴「あり」と判明した場合はどのように対応すればよいですか?
  5. 第3回(後編)のまとめと次回予告

第5章:派遣・業務委託・実習生などの取扱い

自社の直接雇用ではない人員が現場に入る場合、犯罪事実確認の責任の所在と、個人情報の取り扱いが非常に複雑になります。

Q21. 派遣社員を受け入れる場合、犯罪事実確認の手続きは「派遣先」と「派遣元」のどちらの事業者が行うのですか?

A. こどもと接する現場である「派遣先(対象事業者)」が、自らの責任において犯罪事実確認を実施する義務を負います。派遣元に確認を任せることはできません。

Q22. 派遣社員について、派遣先での確認の結果、性犯罪歴があると判明しました。派遣元に「前科があったから交代してほしい」と伝えてもよいですか?

A. 絶対に伝えてはいけません。過去の性犯罪歴に関する情報を派遣元へ伝えることは、法に基づく「第三者提供の禁止(情報の漏えい)」に違反し、罰則の対象となります。交代を要請する際は、「法に基づく防止措置を講ずる必要があるため」といった、直接的に犯歴を示唆しない表現に留める必要があります。

Q23. 外部のフリーランス(個人業務受託者)に指導を委託する場合、誰が確認を行いますか?

A. 業務を委託している施設・事業者が主体となって確認を行います。あらかじめ業務委託契約書等において、犯罪事実確認に応じる旨や、おそれがある場合は契約解除できる旨を定めておくことが重要です。

Q24. 大学や専門学校の学生が実習生として来る場合、犯罪事実確認の対象となりますか?対象となる場合、大学と実習先のどちらが行いますか?

A. 実習生が児童等と原則「一対一になる(第三者の同席がない等)」ことが想定されるなど、支配性・継続性・閉鎖性の要件を満たす場合は対象となります。その判断と確認手続きを行うのは、大学等ではなく「実習先の対象事業者」です。

Q25. 実習生について確認を行った結果、性犯罪歴があることが分かりました。実習の受け入れができないことを、実習元の大学等にどのように伝えればよいですか?

A. Q22の派遣社員のケースと同様に、性犯罪歴があるという結果そのものを大学等に伝えることは「第三者提供の禁止」に違反します。実習先は大学等に対し、「児童対象性暴力等のおそれがあるため、実習を行わせることができない」という結果のみを伝え、大学側が本人の同意を得て直接面談等を行い事実を確認することになります。

第6章:異動・再雇用・複数施設での取扱い

続いて、有期雇用者の更新や、法人内での異動に伴う確認の要否について解説します。

Q26. 1年間の任期で講師を任用し、任期終了後に再任用(更新)する場合、その都度、犯罪事実確認が必要になりますか?

A. 雇用期間等の終了後も対象業務への従事を継続することが、新たな雇用契約書等の客観性を有する書面等に基づきあらかじめ取り決められている場合は、「離職」に該当しないとみなされるため、再任用のたびに改めて犯罪事実確認を行う必要はありません。

Q27. 当初は再任用の予定がなかった従事者を、期間を空けて再度任用することになりました。この場合、改めて犯罪事実確認が必要ですか?

A. 退職した日から起算して「30日以内」に同一事業者に再就職し、かつ事業者がまだ犯罪事実確認記録等を廃棄・消去していない場合は、特例として新たな犯罪事実確認は不要とされています。

Q28. 犯罪事実確認を一度行えば、その後はずっと有効ですか?

A. いいえ。継続して対象業務に従事している場合、事業者は原則として「5年ごと」に犯罪事実確認(再確認)を実施することが義務付けられています。

Q29. 施行時現職者で犯罪事実確認が済んだ者が、同一法人内の他の事業所(別の学校や保育所など)に異動する場合、異動時に再確認が必要ですか?

A. 同一事業者内の異動であれば、改めての犯罪事実確認は不要です。ただし、人事交流等により「別の事業者(任命権者が異なるなど)」へ異動する場合は、異動先の事業者において改めて犯罪事実確認を行う必要があります。

第7章:現職者の経過措置と分散申請

法の施行時点ですでに働いている「現職者」に対しては、確認を完了させるまでの猶予期間と、システム混雑を避けるための分散スケジュールが設定されます。

Q30. 法律の施行時(2026年12月予定)にすでに働いている「現職者」は、いつまでに確認すればよいですか?

A. 学校や認可保育所などの「義務対象事業者」の現職者(施行時現職者)は、施行から「3年以内(令和11年12月24日まで)」に確認を完了させる猶予期間が設けられています。一方、民間塾などの「認定対象事業者」の現職者は、認定を受けた日から「1年以内」に実施する必要があります。

Q31. 義務対象事業者の現職者の確認は「分散申請」になると聞きましたが、どのような仕組みですか?

A. 約280万人の現職者の申請が一度に集中しシステムがパンクするのを防ぐため、国が各都道府県を27区分(27か月)に割り振ります。各事業所は、自らが所在する都道府県に指定された「申請対象月(1ヶ月間)」に分散して交付申請を行うスケジュールとなります。

Q32. 私立学校や児童福祉施設の現職者も、分散申請の対象ですか?

A. はい。公立学校だけでなく、私立学校や児童福祉施設についても、事業所が所在する都道府県に割り当てられた「申請対象月」に合わせて申請を行うことになります。

Q33. 学校法人が複数の都道府県に学校を設置している場合、施行時現職者の申請時期はどうなりますか?

A. 原則として、各学校(事業所)が所在する都道府県に割り当てられた申請対象月にそれぞれ申請を行います。ただし、私立の通信制高校については、サテライト施設を含むすべての教員等の交付申請を「本校が所在する都道府県」の申請対象期間にまとめて行うこととされています。

Q34. 割り当てられた申請対象月の1か月間で全員分の申請が難しい場合はどうすればよいですか?

A. 原則として指定された1ヶ月間で申請を行いますが、どうしても対応が難しい場合には、その申請対象月の前後1ヶ月を含めた「最大3ヶ月の間」に交付申請を行うことが認められています。

Q35. 施行の時点で「休職中」の教員等については、復職時に確認を行えばよいですか?

A. いいえ。休職中の者であっても、復職時ではなく、他の施行時現職者と同じタイミング(その事業所に割り当てられた申請対象月)で犯罪事実確認を行うことになります。

Q36. 施行の時点で従事している現職者ですが、施行から3年経つ前の退職することが分かっている場合、それまでに確認を行う必要はありますか?

A. 従事期間を終えることが決まっている者については、退職するまでに犯罪事実確認を行う必要はありません。ただし、退職予定日以降も再任用して対象業務に継続従事させる場合には、継続して従事する前に犯罪事実確認を行う必要があります。

第8章:例外措置「いとま特例」の適用と安全確保

犯罪事実確認は「従事開始前」に行うのが大原則ですが、急な欠員等でどうしても間に合わない場合の例外措置として「いとま特例」があります。

Q37. 「いとま特例」とはどのような制度ですか?

A. 急な欠員等により、犯罪事実確認を行う時間的余裕(いとま)がなく、直ちに従事させなければ事業運営に著しい支障が生じる場合に限り、例外的に「従事開始後」に確認を行うことを認める特例です。

Q38. 欠員補充で急いで採用したい場合、事業者の判断で常に「いとま特例」を適用できますか?

A. 認められません。特例が適用されるのは「予見不可能な急な退職」など、ガイドラインで示された事業者の責めに帰すことのできない「やむを得ない事情」に該当する場合のみです。計画的な採用活動を怠った結果の直前申請などは特例の対象外です。

Q39. 「いとま特例」を利用して、確認結果が出る前の者を現場に立たせる場合、どのような安全確保が必要ですか?

A. 確認が終わるまでの間、事業者は以下の厳格な措置をすべて講じなければなりません。

  1. 原則としてこどもと一対一にさせない(第三者が同席する)
  2. 業務開始前に特例に関する研修を受講させる
  3. 管理職が定期的にチェック・巡回する

Q40. いとま特例で従事させた後に、犯罪事実確認の結果、性犯罪歴「あり」と判明した場合はどのように対応すればよいですか?

A. 直ちにこどもと接する対象業務から外し、接触を回避させます。その上で、採用条件として前科がないことを明示し、かつ面接等で前科がないことを事前に書面で確認していたことを根拠に、就業規則に沿って「経歴詐称による内定(試用期間)取消し」や「懲戒処分」といった適法な防止措置を速やかに講じます。

第3回(後編)のまとめと次回予告

前編・後編の全40問にわたり、犯罪事実確認の仕組みから例外的な運用までを解説いたしました。
採用における最大の防衛策は、「面接の段階から、前科の有無を書面で明示的に申告させること」です。これを怠ると、万が一後から前科が判明した際、適法に解雇等の措置をとることが非常に困難になります。
次回、第4回では、この非常に重要な【防止措置・労働法制編】として、特定性犯罪前科が判明した場合や、不適切な行為が発覚した場合に、事業者がいかにして労働法制に則り、適法に処分や配置転換を行うべきかについてのQ&Aをお届けします。どうぞご期待ください。