こども福祉専門の行政書士として、こども性暴力防止法(日本版DBS)に関する実務Q&A連載をお届けしております。
前編に引き続き、現場が悩む「不適切な行為」と安全確保の線引きについて解説します。後編となる今回は、実際に性暴力や不適切な行為の疑いが発覚した場合の初期対応や、事実関係の調査、そして「1回目の軽微な違反で解雇できるのか?」といった人事労務管理に関わるQ21からQ40までの疑問にお答えします。
いざという時に慌てず、適法かつ迅速にこどもを守るための運用ルールの参考にしてください。


参考:こども家庭庁 こども性暴力防止法(日本版DBS)について

目次
  1. 第7章:「不適切な行為」や性暴力の疑いを把握したときの初期対応
    1. Q21. 従事者が、同僚による性暴力や不適切な行為の「疑い」を見聞きした場合、まず何をすべきですか?
    2. Q22. 管理者へ報告する際、どのような記録を残すべきですか?
    3. Q23. 疑いがある段階で、一人で抱え込まず他の同僚にも相談・共有してもよいですか?
    4. Q24. こどもから「秘密にしてね」と被害を打ち明けられた場合、どう対応すべきですか?
    5. Q25. 被害を訴えるこどもから聴き取りを行う際の注意点は何ですか?
    6. Q26. 聴き取りの際、「被害者には非がない」と伝えることは重要ですか?
  2. 第8章:被害の申告・相談があった場合の暫定措置と保護者・警察との連携
    1. Q27. こどもや保護者から特定の従事者による被害の申出があった場合、管理者はまずどのような措置をとるべきですか?
    2. Q28. 暫定措置として配置転換や自宅待機を命じる際、人事上の注意点は何ですか?
    3. Q29. 被害の疑いが発覚した場合、保護者にはどのタイミングで連絡すべきですか?
    4. Q30. 警察にはどの段階で通報・相談すべきですか?
    5. Q31. 調査の結果、「加害を行っていないこと(無実)」が証明された場合、職場復帰に関する配慮は必要ですか?
  3. 第9章:事実関係の調査と再発防止
    1. Q32. 事実関係の調査はどのように進めるべきですか?
    2. Q33. 事案発生後の再発防止策はどのように検討すべきですか?
    3. Q34. 調査の結果、「重大な不適切な行為」があったと判断されるのはどのようなケースですか?
  4. 第10章:「不適切な行為」が認められた場合の指導と懲戒(防止措置)
    1. Q35. 初回で軽微な「不適切な行為」が認められた場合、すぐに解雇等の厳しい処分を行うべきですか?
    2. Q36. 軽微な違反に対する研修等では、どのようなことを行うのですか?
    3. Q37. 指導を行っても同様の「不適切な行為」を繰り返す場合はどうなりますか?
    4. Q38. 「重大な不適切な行為」と判断された場合はどう対応すべきですか?
    5. Q39. 就業規則に「懲戒事由」として定めていない行為で処分を行うことはできますか?
    6. Q40. 労働トラブルのリスクを減らすために、事前にできる就業規則の見直しについて教えてください。
  5. 第2回(後編)のまとめと次回予告

第7章:「不適切な行為」や性暴力の疑いを把握したときの初期対応

Q21. 従事者が、同僚による性暴力や不適切な行為の「疑い」を見聞きした場合、まず何をすべきですか?

A. 「記録作成、証拠の保存」「管理者への報告・相談」「管理者の指示による対応」の3つのステップに沿って対応します。ただし、性暴力が実際に行われそうになっている場合には、こどもを直ちに守ることを第一に考える必要があります。

Q22. 管理者へ報告する際、どのような記録を残すべきですか?

A. 報告者が見聞きした情報について、推測や解釈を加えず、「だれが、どこで、どうしたか」「報告者がいつ、どこで見聞きしたのか」を正確に記録しましょう。被害にあったこどもの心身の安全を第一としつつ、可能な範囲で録音や撮影などにより客観的な証拠を保存し、その後の組織的な対応につなげることが重要です。

Q23. 疑いがある段階で、一人で抱え込まず他の同僚にも相談・共有してもよいですか?

A. 情報漏えいや二次被害を防ぐため、他の同僚へ安易に情報を共有してはいけません。報告を受けた管理者等には、うわさが発生・拡大しないように厳格な情報管理を行い、関係者のプライバシーを保護することが求められます。

Q24. こどもから「秘密にしてね」と被害を打ち明けられた場合、どう対応すべきですか?

A. いのちに関わることや法に触れ得ることについては、秘密にはしておけないことをこどもに丁寧に説明してください。「私一人ではあなたの安全を守ることができない」「一緒にあなたを守ってくれる人と相談したい」と伝え、こどもを安心させることが大切です。

Q25. 被害を訴えるこどもから聴き取りを行う際の注意点は何ですか?

A. 聴き取る内容は最小限にし、こどもの心身に負担をかけたり記憶の汚染を防ぐことを意識して、「なぜ」「いつ」「何回」と質問攻めにせず、こどもが自発的に話す言葉をそのまま受け止めましょう。また、正確に記録を残すため、本人の同意を得た上で録音等を用いることも推奨されます。

Q26. 聴き取りの際、「被害者には非がない」と伝えることは重要ですか?

A. 非常に重要です。性被害にあったこどもは「自分が悪いのではないか」と自分を責めている場合があります。こどもには非がないことや、「被害にあったこどもの安全を守りたいと思っている」ことを明確に伝えてください。

第8章:被害の申告・相談があった場合の暫定措置と保護者・警察との連携

Q27. こどもや保護者から特定の従事者による被害の申出があった場合、管理者はまずどのような措置をとるべきですか?

A. 事実関係の調査が完了する前であっても、被害拡大防止のため、被害が疑われるこどもと加害が疑われる従事者との「接触の回避」を行います。具体的には、当該従事者を一時的に対象業務から外し、自宅待機や別業務に従事させるなどの暫定的な防止措置を講じます。

Q28. 暫定措置として配置転換や自宅待機を命じる際、人事上の注意点は何ですか?

A. この段階では事実関係が確定していないため、加害が疑われる従事者の人権などにも配慮し、公正・中立に対応する必要があります。自宅待機等を命じる理由については、調査の時点から必要最小限の者の間でのみ情報を共有し、うわさ等で当該従事者が不当な不利益を被らないように配慮してください。

Q29. 被害の疑いが発覚した場合、保護者にはどのタイミングで連絡すべきですか?

A. 保護者による性暴力の疑いがあるといった特段の事情がなければ、速やかに保護者に連絡することが望ましいと考えられます。第一報では、事業者が把握している範囲で被害内容を説明し、こどもの安全を守るために厳正に対処する方針を伝えます。

Q30. 警察にはどの段階で通報・相談すべきですか?

A. 犯罪の疑いがある事案については、事案究明や再被害・被害拡大防止のために、速やかに警察と連携することが適切な対応です。通報をためらう保護者がいる場合でも、警察への通報や相談が適切であることを丁寧に説明し、理解を得るよう努めることが重要です。

Q31. 調査の結果、「加害を行っていないこと(無実)」が証明された場合、職場復帰に関する配慮は必要ですか?

A. はい。一時的に接触回避等の措置を講じたものの、無実が証明された対象業務従事者が職場復帰するに当たっては、偏見等が生じないような最大限の配慮が必要です。調査の段階から情報統制を徹底し、根拠のないうわさが広がらないようにすることが、スムーズな職場復帰の鍵となります。

第9章:事実関係の調査と再発防止

Q32. 事実関係の調査はどのように進めるべきですか?

A. 調査は、こどもの人権や特性に配慮し、名誉や尊厳を傷つけないよう注意して行うとともに、加害が疑われる従事者の人権などにも配慮し、公正・中立に行うことが求められます。必要に応じて、医療機関や児童相談所などの専門家と適切に連携することも重要です。

Q33. 事案発生後の再発防止策はどのように検討すべきですか?

A. 個別事案の原因を踏まえて再発防止策を検討するだけでなく、その背景にある要因や、組織・運営等における根本的な課題等も踏まえる必要があります。個人の責任追及に終始するのではなく、客観的にどのようにすれば再発を防止できるかを議論し、組織文化や体制の改善につなげることが重要です。

Q34. 調査の結果、「重大な不適切な行為」があったと判断されるのはどのようなケースですか?

A. 「重大な不適切な行為」とは、不適切な行為が執拗に行われたり、こどもや保護者の意に反することを認識しながら行われたりといった、悪質性が高まる要素が加わった場合を指します。

第10章:「不適切な行為」が認められた場合の指導と懲戒(防止措置)

Q35. 初回で軽微な「不適切な行為」が認められた場合、すぐに解雇等の厳しい処分を行うべきですか?

A. いきなり重い処分を行うことは推奨されません。調査の結果、初回かつ比較的軽微な不適切な行為であると判断された場合は、まずは当該行為を繰り返さないように指導や「研修受講命令」を行い、注意深くその後の経過観察を行うなど、段階的な対応を行うことが考えられます。

Q36. 軽微な違反に対する研修等では、どのようなことを行うのですか?

A. ガイドラインでは、初回かつ比較的軽微な不適切な行為をした従事者に対して、こども性暴力防止法に基づく防止措置の一環として、そのような行為が性暴力につながり得ることへの理解を促し、未然防止を図るための研修を受講させることが求められています。

Q37. 指導を行っても同様の「不適切な行為」を繰り返す場合はどうなりますか?

A. 指導したにもかかわらず同様の行為を繰り返した場合には、児童対象性暴力等が行われたと判断される場合に準じて、より厳格な対応(原則として対象業務に従事させない、配置転換等の措置)を行うことが考えられます。

Q38. 「重大な不適切な行為」と判断された場合はどう対応すべきですか?

A. 重大な不適切な行為である場合には、児童対象性暴力等が行われた場合に準じた対応を行います。すなわち、原則として当該教員等を対象業務に従事させず、就業規則に沿った対応(懲戒処分等)を行うとともに、それが防止措置として不十分な場合には、対象業務以外への配置転換などを講じます。

Q39. 就業規則に「懲戒事由」として定めていない行為で処分を行うことはできますか?

A. 労働法制上、企業が労働者を懲戒処分にするためには、あらかじめ就業規則等において「どのような行為が懲戒事由に該当し、どのような懲戒処分につながるか」を明記している必要があります。定めのない行為を理由に処分を行うことは、労働トラブルや不当解雇等のリスクにつながります。

Q40. 労働トラブルのリスクを減らすために、事前にできる就業規則の見直しについて教えてください。

A. 法の施行前に、就業規則において「児童対象性暴力等や不適切な行為」を禁止事項として明確に定め、これに違反した場合には「懲戒処分」につながる旨を明記しておくことが非常に重要です。また、採用時の重要な経歴の詐称(性犯罪前科の秘匿など)も懲戒解雇や内定取消しの事由として定めておくことが、事案発生時に適法かつ迅速に防止措置を講じるための根拠となります。

第2回(後編)のまとめと次回予告

前編・後編の全40問にわたり、「不適切な行為」と事案発生時の実務対応について解説しました。
性暴力や不適切な行為の疑いが生じた場合、事業者は「こどもの安全確保」を最優先としつつも、「加害が疑われる従事者の人権」にも配慮した公正な初期対応と、労働法制に則った適法な懲戒・配置転換を行うという、極めて高度なバランスが求められます。
いざという時に慌てないためにも、今の段階から「報告・対応ルールの策定」と「就業規則の改定」を進めておくことが不可欠です。
次回、第3回は【犯罪事実確認(日本版DBS)の仕組みと実務フローQ&A】をお届けします。いよいよ本制度の核心となる「特定性犯罪前科の確認」に関する実務的な疑問にお答えします。どうぞご期待ください。