「こども性暴力防止法(日本版DBS)」の徹底解説連載の第3回をお届けいたします。
第1回では法律の対象となる事業者・従事者の範囲を、第2回では事業者が日頃から講ずべき「安全確保措置」と「不適切な行為」への対応について解説しました。
第3回となる今回は、いよいよ本制度の核心部分である【犯罪事実確認(日本版DBS)編】として、特定性犯罪前科の確認制度の仕組みと、新たに開発される「こまもろうシステム」を利用した具体的な実務フロー、そして対象者ごとの確認期限について詳細に解説いたします。
採用実務や人事労務に直結する非常に重要なプロセスとなりますので、事業者の皆様は施行に向けてしっかりと全体像を把握してください。
参考:こども家庭庁 こども性暴力防止法(日本版DBS)について
第1章:犯罪事実確認の対象となる「特定性犯罪」と確認期間
過去に性犯罪を犯した者による再犯を防止するため、事業者は、こどもと接する業務の従事者について雇入れや配置転換の際に「性犯罪前科の有無」を確認する義務を負います。この確認の対象となる犯罪と期間は、法律によって明確に定義されています。
1. 対象となる「特定性犯罪」の範囲(法第2条第7項)
本制度における「特定性犯罪」とは、刑法等の法律や都道府県の条例で定められた性犯罪に関する罪を指します。具体的には以下の犯罪が該当します。
| 法律・条例 | 対象となる犯罪の具体例 |
| 刑法犯 | 不同意わいせつ、不同意性交等、監護者わいせつ及び監護者性交等、不同意わいせつ等致死傷、16歳未満の者に対する面会要求等、強盗・不同意性交等及び同致死など |
| 児童福祉法違反 | 淫行をさせる罪 |
| 児童ポルノ法違反 | 児童買春、児童買春周旋、児童買春勧誘、児童ポルノの製造・所持・提供など |
| 性的姿態撮影等処罰法違反 | 性的姿態等撮影(盗撮)、性的影像記録提供等など |
| 都道府県条例違反 | 迷惑防止条例や青少年健全育成条例で定められている、痴漢(みだりに人の身体の一部に接触する行為)、盗撮、みだりに卑わいな言動をする行為、児童と性交・わいせつな行為をする行為(未成年淫行)など |
ここで実務上非常に重要なポイントは、「こどもに対する性犯罪」だけでなく、「成人に対する性犯罪」も全て確認の対象に含まれるという点です。
一方で、窃盗罪や傷害罪など、性犯罪以外の犯罪による前科は本制度の確認対象にはなりません。また、不起訴処分や示談で終わったケースなど、刑事裁判による有罪判決(事実認定)を受けていないものも対象外となります。
2. 「特定性犯罪事実該当者」となる期間(法第2条第8項)
特定性犯罪を犯した者が、未来永劫こどもと接する業務に就けないわけではありません。以下の「一定の期間」内にある者が「特定性犯罪事実該当者」として扱われ、就業制限の対象となります。
- 拘禁刑(旧懲役・禁錮)の実刑を受けた者:刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して20年を経過しない者。
- 拘禁刑の執行猶予判決を受けた者:裁判が確定した日から起算して10年を経過しない者(※執行猶予期間が満了しても、裁判確定から10年間は対象となります)。
- 罰金刑を受けた者:刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して10年を経過しない者。
第2章:対象者別の犯罪事実確認の「期限」と「いとま特例」
事業者が従事者に対して犯罪事実確認を行わなければならない「期限」は、対象者が「新規採用者」か「現職者」かによって異なります。
1. 新規採用者・配置転換者の期限:原則「従事開始まで」
新たに採用する者や、社内の配置転換等で新たに対象業務に従事することとなる者については、原則として「当該業務の従事開始日(こどもと接する業務を行わせる日)まで」に犯罪事実確認を完了し、犯罪事実確認書を受領していなければなりません。
ただし、犯罪歴に関する情報は極めて機微性の高い個人情報であるため、求人募集の段階など、真に確認が必要かどうかわからない段階での申請はできません。内定や異動内示等を受けて、対象業務に従事することが決定してから(本人の承諾を得た上で)犯罪事実確認を行うことになります。
2. 「いとま特例」:やむを得ず間に合わない場合の例外措置
現実の事業運営においては、急な欠員が生じた場合など、従事開始までに確認を終えることが物理的に不可能なケースがあります。そのような場合、例外的に従事開始「後」の確認を認めるのが「いとま特例」です。
いとま特例が適用されるのは、ガイドラインで定められた「やむを得ない事情」に該当する場合のみです。
- 期限:原則として従事開始から3ヶ月以内。ただし、合併・分割などの組織変更のケースや、事業者に責任がない事情により十分な余裕をもって申請したにもかかわらず国からの交付が遅れた場合などは、最大6ヶ月以内となります。
- やむを得ない事情の例:学級数の増加や予見不可能な欠員による急な採用、予算編成上の制約等による直前の人事異動(内示)、労働者派遣契約の遅れなど。
- 特例適用時の安全確保措置(最重要):いとま特例を適用して未確認の者を現場に立たせる場合、事業者は確認が終わるまでの間、その者を特定性犯罪事実該当者とみなして、「原則としてこどもと一対一にさせない」などの厳格な安全確保措置を講じなければなりません。
3. 現職者の経過措置(3年以内・1年以内)
法律の施行時点ですでに対象業務に従事している「現職者」については、一度に全事業者が確認を行うとシステムがパンクするため、猶予期間が設けられています。
| 対象事業者の区分 | 経過措置の期限とスケジュール |
| 義務対象事業者(学校・認可保育所等)の施行時現職者 | 法律の施行日から3年以内(令和11年12月24日まで)。国が各都道府県を27区分に割り振り、地域ごとに指定された「申請対象月(1ヶ月間)」に分散して申請を行います。 |
| 認定対象事業者(学習塾・放課後児童クラブ等)の認定時現職者 | 国から認定を受けた日から1年以内に確認を行う必要があります。 |
4. 5年ごとの再確認
犯罪事実確認が行われた従事者が、その後も継続して対象業務に従事している場合、事業者は「前回の確認日の翌日から5年を経過する日の属する年度の末日まで」に、再度犯罪事実確認(再確認)を実施することが義務付けられています。
第3章:「こまもろうシステム」を利用した交付申請の実務フロー
犯罪事実確認の申請から結果の受領までは、原則としてこども家庭庁が新たに開発する「こども性暴力防止法関連システム(通称:こまもろうシステム)」上でのオンライン手続きとなります。
事前準備として、事業者は法人共通の認証基盤である「GビズID(プライム・メンバー)」を取得し、こまもろうシステムにアカウントを作成しておく必要があります。
犯歴「なし」の場合の基本フロー
- 事業者による対象者の登録と依頼事業者はシステムに対象従事者の氏名・メールアドレスを登録します。システムから対象従事者宛てに「アカウント登録依頼メール」が自動送信されます。
- 従事者本人のアカウント登録と本人認証メールを受け取った従事者はシステムにアクセスし、マイナンバーカード等を用いて厳格な本人認証を行い、自身の「従事者アカウント」を作成します。
- 従事者本人による「戸籍情報等」の提出従事者はスマートフォンに専用アプリ(デジタル認証アプリ)を入れ、マイナンバーカードをかざすことで、自身の過去のすべての戸籍・除籍情報を電子的に提出します。
- 事業者による「交付申請」の実施従事者の登録完了後、事業者は従事開始予定日等の必要事項を入力し、「対象業務に従事することを証する書類(雇用契約書等)」を添付して交付申請を行います。
- 法務省での照会と結果の回答こども家庭庁は法務省に対して犯罪事実の照会を行い、検察総合情報管理システムと照合した結果が回答されます。
- 「犯罪事実確認書」の交付と受領照会結果が「なし」であった場合、その旨の「犯罪事実確認書」がシステム上で事業者に対して直接交付され、手続き完了となります。
【行政書士のワンポイントQ&A:外部講師の取扱いは?】
Q. 学校の水泳授業を民間のスポーツクラブに委託しており、週1回外部から指導者が派遣されてきます。この指導者の犯罪事実確認は誰が行いますか?
A. 学校側(委託元・派遣先)が行う必要があります。学校が自らの事業(カリキュラムの一部等)として実施する場合は、指導者が外部の委託先や派遣労働者であっても、受け入れ先である学校の責任において犯罪事実確認を実施しなければなりません。
第4章:犯歴「あり」の場合のフローと「訂正請求・中止要請」の仕組み
もし、照会の結果として性犯罪前科が「あり」と判明した場合、即座に事業者にその事実が通知されるわけではありません。性犯罪歴は究極のプライバシー情報であるため、「事業者に知られる前に、従事者本人が辞退する権利(中止要請)」を保障するプロセスが設けられています。
犯歴「あり」の場合のフロー
- 従事者本人への「事前通知」法務省からの回答で犯歴ありとされた場合、こども家庭庁はまず、システムを通じて「従事者本人に対してのみ」確認結果の事前通知を行います。
- 従事者による内容の確認と「訂正請求」通知を受け取った従事者は内容を確認し、事実ではないと思料する場合は、通知から2週間以内にこども家庭庁へ「訂正請求」を行うことができます。
- 内定辞退等と「中止要請」の実施本人が犯歴を自覚しており事業者に知られたくない場合、従事者は事業者に対して「内定辞退」や「退職」を申し出ます。それと同時に、システム上でこども家庭庁に対して「犯罪事実確認の中止要請」を行います。中止要請が行われると、事業者への交付手続きはストップします。
事業者に犯歴が通知されるケース
従事者が事前通知を受け取った後、「訂正請求期間(2週間)が経過しても中止要請を行わなかった場合」あるいは「システム上で訂正請求をしない旨の意思表示をした場合」に初めて、事業者に対して「特定性犯罪事実該当者である(犯歴あり)」旨の犯罪事実確認書が交付されます。
事業者はこれを受領した場合、速やかに当該従事者をこどもと接する業務から外すための防止措置(内定取消、配置転換、解雇等)を講じる義務があります。
第5章:標準処理期間と従事者の「戸籍情報提出」に関する留意点
1. 犯罪事実確認に要する標準処理期間
交付申請を行ってから、犯罪事実確認書が事業者に交付されるまでに要する期間の目安は以下の通りです。
- 日本国籍の対象従事者:2週間から1ヶ月程度
- 外国籍の対象従事者:1ヶ月から2ヶ月程度
事業者は、この期間を逆算して余裕を持った採用スケジュールを組むことが必須となります。
2. 従事者が提出すべき「戸籍情報等」の詳細
従事者は本人確認と犯歴照会のために厳格な情報を提出しなければなりません。取得費用は「従事者本人の負担」となります。
- 日本国籍の場合:「全ての戸籍・除籍の抄本等」が必要です。マイナンバーカードを利用して電子取得・提出ができるケースが推奨されますが、自治体が対応していない場合は、窓口で「戸籍(除籍)電子証明書提供用識別符号(16桁のコード)」を取得し、システムに入力する必要があります。
- 外国籍の場合:戸籍制度がないため、「在留カード」「住民票」「パスポート(旅券)の写し」等の提出が必要です。過去に氏名等の変更があった場合は本国が発行する証明書類も求められます。
【行政書士のワンポイントQ&A:プライバシーとシステム管理】
Q. 従事者が提出する戸籍情報等の内容を、事業者の担当者が見ることはできますか?
A. 見ることはできません。戸籍情報等は従事者から直接こども家庭庁へ送信されるため、事業者がその内容を知ることはありません。また、事業者に交付される犯罪事実確認書についても、システム上での画面閲覧が原則となります。情報漏えいを防ぐため、ローカルへのダウンロードや紙での印刷保存は厳しく制限されます。
まとめと次回予告
本記事では、こども性暴力防止法における「犯罪事実確認(日本版DBS)」の仕組みと、こまもろうシステムを用いた具体的な実務フローについて解説いたしました。事業者の皆様にとって重要なポイントは以下の3点です。
- 「内定・内示後」かつ「従事開始前」という限られた期間内に、申請から交付までの手続き(日本国籍で2週間から1ヶ月)を完了させる採用スケジュールを構築すること。
- 従事者本人にマイナンバーカードの準備やシステムへの情報登録を行ってもらう必要があるため、採用選考の段階から制度の趣旨を説明し、協力を得ておくこと。
- 万が一「犯歴あり」となった場合に備え、就業規則や内定通知書に「経歴詐称による内定取消」や「懲戒・配置転換」の規定を事前に整備しておくこと。
施行日(2026年12月25日)にスムーズに制度へ移行できるよう、まずは法人としての「GビズID」の取得手続きを進めておくことを強く推奨いたします。
次回、連載第4回では、本記事でも触れた「犯歴が判明した場合に事業者が講ずべき防止措置」と、それに伴う労働法制上のリスク、そして究極のプライバシー情報を扱うための「情報管理措置」についてさらに深く解説していきます。ご期待ください。
(※本記事は、令和8年策定の「こども性暴力防止法施行ガイドライン」及び各種Q&A等の公式資料に基づいて作成しております。今後のシステム仕様の確定等により詳細な画面遷移等が変更される場合がありますので、最新情報はこども家庭庁のホームページ等でご確認ください。)
