これまでの連載を通じて、制度の対象範囲、不適切な行為の線引き、犯罪事実確認の仕組み、そして労働法制上の対応について解説してまいりました。
本記事では、前編に続き2026年12月25日の施行に向けた総仕上げとして、現職者の確認スケジュール(分散申請の仕組み)、社内研修の進め方、そして就業規則等の最終チェック事項について、Q21からQ40の疑問にお答えします。
施行までの残された期間、事業者として「何を・いつまでに」準備すべきか、ロードマップの確認にご活用ください。
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犯罪事実確認(後編):様々な雇用形態と「いとま特例」の実務はこちら
- 第5章:現職者の確認スケジュール(分散申請の仕組み)
- Q21. 法の施行時点(2026年12月25日)ですでに働いている「現職者」の犯罪事実確認は、いつ行えばよいですか?
- Q22. 義務対象事業者の現職者の申請時期を指定する「分散申請」とはどのような仕組みですか?
- Q23. 割り当てられた申請対象月の1か月間で、全員分の申請手続きを完了させるのが難しい場合はどうなりますか?
- Q24. 施行の時点で「休職中」の教員等については、復職時に確認を行えばよいですか?
- Q25. 施行時現職者ですが、例えば2027年3月に任期を終えて退職することが既に分かっている場合、それまでに確認を行う必要はありますか?
- Q26. 同一法人内で、施行時現職者が犯罪事実確認を受ける前(分散申請の時期が来る前)に、別の事業所に異動した場合はどうなりますか?
- 第6章:安全確保措置と社内研修の進め方
- Q27. 従事者に対する「研修」は、いつ、誰に対して行う必要がありますか?
- Q28. 研修は自社で独自に資料を作成して実施しなければならないのですか?
- Q29. 極めて短期間だけ従事するスポットワーカーやボランティアにも、長時間の研修を受けさせるのですか?
- Q30. 公立学校において、県費負担教職員と、それ以外の市町村採用職員がいる場合、研修の実施主体は分かれますか?
- Q31. 学校設置者等の他に、指定管理や委託を受けて施設を運営する「施設等運営者」がいる場合、どちらが研修を実施しますか?
- Q32. 研修を受けさせる以外に、事業者が行う「安全確保措置(体制整備)」には何が含まれますか?
- Q33. こども性暴力防止法の趣旨や対応について、こどもや保護者にも説明すべきですか?
- 第7章:システム権限と情報管理の準備
- 第8章:就業規則見直しと施行に向けたアクションプラン
- おわりに
第5章:現職者の確認スケジュール(分散申請の仕組み)
まずは、法律の施行時点で既に勤務している従業員(現職者)に対する確認のスケジュールと、独自のルールについて解説します。
Q21. 法の施行時点(2026年12月25日)ですでに働いている「現職者」の犯罪事実確認は、いつ行えばよいですか?
A. 事業者の種別によって期限が異なります。
| 事業者の種別 | 対象者 | 確認完了の法定期間 |
| 義務対象事業者 | 学校、認可保育所などの現職者 | 施行後3年以内(2029年12月24日まで) |
| 認定対象事業者 | 民間塾などの現職者 | 認定を受けてから1年以内 |
Q22. 義務対象事業者の現職者の申請時期を指定する「分散申請」とはどのような仕組みですか?
A. 施行時現職者の確認対象は約280万人に上るため、システムのパンクを防ぐ目的で申請時期が分散されます。具体的には、公立学校以外の施設・事業(私立学校や児童福祉施設等)については、各都道府県を27区分(27か月)に割り振り、事業所が所在する都道府県に指定された「申請対象月(1か月間)」に犯罪事実確認書の交付申請を実施します。
Q23. 割り当てられた申請対象月の1か月間で、全員分の申請手続きを完了させるのが難しい場合はどうなりますか?
A. 指定された1か月間での申請が難しい場合は、その前後1か月を含め、最大3か月の間に申請を行うことが認められています。所轄庁は期限までに確認が完了するよう進捗管理を行います。
Q24. 施行の時点で「休職中」の教員等については、復職時に確認を行えばよいですか?
A. いいえ。法の施行時点で休職している教員等については、復職時ではなく、他の施行時現職者と同じタイミング(割り当てられた申請対象月)で犯罪事実確認を行うことになります。
Q25. 施行時現職者ですが、例えば2027年3月に任期を終えて退職することが既に分かっている場合、それまでに確認を行う必要はありますか?
A. 会計年度任用職員等で、従事期間を終えることが分かっている者については、それまでに犯罪事実確認を行う必要はありません。ただし、その後も再任用する場合などは、引き続き従事する前に犯罪事実確認を行うこととなります。
Q26. 同一法人内で、施行時現職者が犯罪事実確認を受ける前(分散申請の時期が来る前)に、別の事業所に異動した場合はどうなりますか?
A. まだ分散申請の時期が来ていないために犯罪事実確認が行われていない事業所に異動した場合でも、異動の際に改めて犯罪事実確認を行う必要はありません。
第6章:安全確保措置と社内研修の進め方
事業者に義務付けられている「児童対象性暴力等の防止に関する研修」と、相談窓口の設置などの安全確保措置について確認します。
Q27. 従事者に対する「研修」は、いつ、誰に対して行う必要がありますか?
A. 対象事業者は、対象業務への従事者に対して、児童対象性暴力等の防止に関する研修を受講させる義務があります。原則として、対象業務に従事する前に受講させる必要があります。
Q28. 研修は自社で独自に資料を作成して実施しなければならないのですか?
A. いいえ。こども家庭庁や文部科学省などから、こどもの人権や性暴力の特性などを網羅した「標準教材(標準動画等)」が提供されており、原則としてこの標準動画を用いた研修を受講させることが求められます。
Q29. 極めて短期間だけ従事するスポットワーカーやボランティアにも、長時間の研修を受けさせるのですか?
A. 従事期間が極めて短期間であるスポットワークの従事者やボランティア等に対しては、標準動画の要点をまとめた「要点動画」を用いた研修を行うことも可能とされています。
Q30. 公立学校において、県費負担教職員と、それ以外の市町村採用職員がいる場合、研修の実施主体は分かれますか?
A. 分かれません。県費負担教職員、県費負担以外の県採用の市町村立学校職員のどちらについても、こどもと接する現場を所管する「市町村教育委員会」が受講させる義務を負います。
Q31. 学校設置者等の他に、指定管理や委託を受けて施設を運営する「施設等運営者」がいる場合、どちらが研修を実施しますか?
A. 学校設置者等の他に施設等運営者がある場合は、こども性暴力防止法に基づく義務を共同して履行することとなっています。研修についても連携して実施してください。一律のルールはありませんが、あらかじめ両者の役割分担を定めておくことが必要です。
Q32. 研修を受けさせる以外に、事業者が行う「安全確保措置(体制整備)」には何が含まれますか?
A. こどもや保護者が相談しやすい「相談窓口の設置・周知」や、性暴力の疑いが発生した際の「報告ルール」および「対応ルール」をあらかじめ策定し、組織内に周知しておくことが求められます。
Q33. こども性暴力防止法の趣旨や対応について、こどもや保護者にも説明すべきですか?
A. はい。安全確保措置の一環として、こどもや保護者向けに制度の趣旨や相談窓口等の周知・啓発を行うことが求められています。
第7章:システム権限と情報管理の準備
「こまもろうシステム」を利用するにあたり、社内で行うべき権限設定と情報管理のポイントを解説します。
Q34. 現場の従事者だけでなく、情報管理規程の作成や情報管理体制の整備について、担当者向けの研修も必要ですか?
A. はい。情報管理規程の「人的情報管理措置」として、犯罪事実確認記録等を取り扱う担当者等に向けた研修の実施が求められています。
Q35. 施行に向けたスケジュールとして、11月から12月上旬に行うべき「権限設定準備」とは何ですか?
A. 12月中旬のこまもろうシステムの暫定稼働に向けて、システム上で誰にどのような権限(全ての権限、犯歴の確認ができる権限、事務のみができる権限など)を設定するかをあらかじめ社内で検討・決定しておく作業のことです。
Q36. 一度権限を設定すれば、その後は変更しなくてもよいですか?
A. いいえ。対象事業者ごとにこまもろうシステム利用者の権限設定が必要であり、人事異動等で担当者が変わる度に必要な権限設定を変更しなければなりません。
Q37. 犯罪事実確認書の交付申請はCSVデータ等で一括取り込みができるとのことですが、結果(犯歴の有無など)もCSVで出力・保存できますか?
A. こまもろうシステムでは、従事者の犯罪事実確認書の内容をCSVデータ等で出力・印刷できる仕様にする予定はありません。特定性犯罪前科に関する機微な情報は、原則としてシステム上でのみ確認する運用となります。
第8章:就業規則見直しと施行に向けたアクションプラン
最後に、労働トラブルを防ぐための就業規則改定と、施行までの最終チェック事項についてまとめます。
Q38. 労働トラブルを防ぐための「就業規則の見直し」は、いつまでに行うべきですか?
A. こども性暴力防止法の施行日(2026年12月25日)までに完了させておく必要があります。不適切な行為の範囲や懲戒事由、重要な経歴の詐称等を就業規則に規定し、労働者に周知しておかなければ、いざという時に適法な処分が行えません。
Q39. 採用選考時に前科の有無を確認するための「誓約書」や募集要項の見直しは、いつから適用すべきですか?
A. 施行日以降に採用・入職する予定の者を対象とする募集・採用活動から、速やかに適用すべきです。求職者に対して、特定性犯罪の前科がないことを採用条件として明示し、書面等で確認・伝達するプロセスを確実に回してください。
Q40. ルールの策定や就業規則の見直しにおいて、参考になる資料はどこで入手できますか?
A. こども家庭庁のウェブサイトにおいて、「各種ひな型・参考例 リンク集」や「事業者向けチェックリスト(こども性暴力防止法の施行までに必要な対応)」が公開されています。これらの資料を活用し、施行までのロードマップに漏れがないか最終確認を行ってください。
おわりに
「こども性暴力防止法(日本版DBS)」に関する事業者の実務対応を解説いたしました。
本制度の目的は、単に「前科をチェックすること」ではなく、こどもたちが安心して過ごせる環境を社会全体で構築することにあります。日頃からの不適切な行為を防ぐ風通しの良い職場づくりと、機微な個人情報を厳格に守り抜く体制の整備が、事業者に課せられた最も重要な使命です。
いよいよ迎える2026年12月25日の施行に向け、本Q&A集が皆様の準備の一助となれば幸いです。