こども福祉専門の行政書士として、事業者の皆様に向けた「こども性暴力防止法(日本版DBS)」の徹底解説連載をスタートいたします。

2026年12月25日の施行が迫る中、教育・保育・福祉等の現場では、実務に即した具体的な対応準備が急務となっております。本連載では、こども家庭庁から公表されている数百ページに及ぶ「こども性暴力防止法施行ガイドライン」やQ&A、研修資料などの公式資料を基に、制度の内容を省略することなく、実務の視点から非常に詳細に解説してまいります。

第1回となる本記事では、ガイドラインの「Ⅰ. 目的・責務等」「Ⅱ. 定義」、そして「Ⅲ. 対象事業・対象業務」のうち「対象事業者の範囲」について深く掘り下げていきます。

参考:こども家庭庁 こども性暴力防止法(日本版DBS)について

目次
  1. はじめに:こども性暴力防止法(日本版DBS)とは?
  2. 第1章:法律の目的と事業者の責務(ガイドライン Ⅰ)
    1. 1. 法の目的(法第1条)
    2. 2. 事業者と国の責務(法第3条)
  3. 第2章:法律における重要な定義の徹底理解(ガイドライン Ⅱ)
    1. 1. 「児童等」の範囲(法第2条第1項関係)
    2. 2. 「児童対象性暴力等」とは何か(法第2条第2項関係)
    3. 3. 最重要概念「不適切な行為」の考え方と実務対応
    4. 4. 「特定性犯罪」と「特定性犯罪事実該当者」(法第2条第7項・第8項)
  4. 第3章:対象事業者の範囲(ガイドライン Ⅲ)
    1. 1. 学校設置者等(義務対象事業者)
    2. 2. 民間教育保育等事業者(認定対象事業者)
    3. 3. 民間教育事業が認定を受けるための「4要件」
  5. 行政書士の実務Q&A:対象事業者に関する現場の疑問
    1. Q. 児童館は義務対象ですか?認定対象ですか?
    2. Q. 放課後等デイサービスはどちらになりますか?
    3. Q. 図書館で行う絵本の読み聞かせや、科学館の子供向け教室は対象ですか?
    4. Q. ボランティアベースで運営している「こども食堂」や「学習支援施設」は対象になりますか?
    5. Q. フランチャイズ(FC)展開している学習塾の場合、本部の直営店とFC加盟店をまとめて認定申請できますか?
    6. Q. 義務対象事業である「認可保育所」を運営しながら、同じ法人で認定対象事業の「一時預かり」や「病児保育」も行っています。それぞれ手続きが必要ですか?
  6. 第1回のまとめと次回予告
    1. 【行政書士が徹底解説】2026年12月施行 こども性暴力防止法(日本版DBS)の「防止措置」と労働法制上の実務対応(連載第4回)
    2. 【行政書士が徹底解説】こども性暴力防止法(日本版DBS)の「犯罪事実確認」の仕組みと実務フロー(連載第3回)
    3. 【行政書士が徹底解説】こども性暴力防止法(日本版DBS)の安全確保措置と「不適切な行為」への実務対応(連載第2回)

はじめに:こども性暴力防止法(日本版DBS)とは?

こどもたちを性暴力から守るための新たな法律、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」(以下、「こども性暴力防止法」)が、2024年(令和6年)6月に成立し、2026年(令和8年)12月25日に施行されます。ニュース等では「日本版DBS」という呼称で報じられることも多い法律です。

この法律が制定された背景には、教育・保育等の現場におけるこどもへの性暴力の事案が後を絶たないという深刻な現状があります。公立学校の教育職員の例を見ても、「性犯罪・性暴力等」を理由として懲戒処分等を受けた者は近年毎年200人以上にのぼり、性別や年齢、学校種を問わず発生しています。

こどもに対して教育、保育等を行う事業は、本来こどもの心身の健やかな育成に資することを目的としています。しかし、こうした事業は、従事者がこどもへの指導などを通じて支配的・優越的立場に立ちやすく、継続的に密接な人間関係を持ち、親などの監視がない閉鎖的な状況の下でこどもを預かるという「特別な社会的関係」が生じます。

このような環境下で発生する性暴力は、こどもの権利を著しく侵害し、生涯にわたり心身の発達に深刻な影響を与え得る極めて悪質な行為です。この法律は、こうした事態を絶対に防ぐという理念と社会の責任を具現化すべく制定されました。

第1章:法律の目的と事業者の責務(ガイドライン Ⅰ)

1. 法の目的(法第1条)

法第1条では、この法律の目的を明確に定めています。性暴力等は当事者の心身に対する重大な加害行為かつ極めて悪質な人権侵害であり、断じて許すことはできません。このため、法律は以下の3点を定め、もって児童等の心身の健全な発達に寄与することを目的としています。

  1. 児童等に対して教育、保育等の役務を提供する事業を行う立場にある事業者(学校設置者等及び民間教育保育等事業者)が、従事者による児童対象性暴力等の防止等をする責務を有することを明らかにする。
  2. 学校設置者等が講ずべき措置、並びにこれと同等の措置を実施する体制が確保されている民間教育保育等事業者を認定する仕組みを定める。
  3. 当該事業者が講ずべき措置について定めるとともに、従事者が特定性犯罪事実該当者に該当するか否かに関する情報を、国が事業者に対して提供する仕組みを設ける。

2. 事業者と国の責務(法第3条)

対象となる事業者(学校設置者等及び民間教育保育等事業者)は、児童等に対して当該役務を提供する業務を行う教員等及び教育保育等従事者による「児童対象性暴力等の防止」に努め、仮に行われた場合には「児童等を適切に保護する」という重い責務を有しています。

具体的には、以下の大きく4つの措置を講じることが求められます。

  • 日頃から講ずべき措置(初犯防止対策):服務規律等のルール作り、環境整備、面談等の実施、相談体制の整備、研修の実施。
  • 被害が疑われる場合の対応:調査の実施、被害児童等の保護・支援。
  • 特定性犯罪前科の有無の確認(再犯防止対策):雇入れ、配置転換等の際に犯罪事実確認を行う。
  • 児童対象性暴力等の防止のための措置(防止措置):上記を踏まえ、性暴力等が行われる「おそれ」があると認められる場合、対象業務に従事させないなどの措置を講じる。

また、国は事業者がこれらの責務を確実に果たせるよう、必要な情報提供や制度の整備を行う責務を負っています。

第2章:法律における重要な定義の徹底理解(ガイドライン Ⅱ)

法律の適用範囲や事業者の実務対応を検討する上で、条文で用いられている言葉の「定義」を正確に理解することが最も重要です。

1. 「児童等」の範囲(法第2条第1項関係)

本法律において安全確保の対象となる「児童等」とは、以下に該当する者を指します。

  • 教員性暴力等防止法に規定する児童生徒等:幼稚園、小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校及び特別支援学校、幼保連携型認定こども園に在籍する幼児、児童又は生徒(18歳以上の高校生等も含む)、並びにこれら以外の18歳未満の者。
  • 高等専門学校の第1学年から第3学年までに在学する者。
  • 専修学校(高等課程)に在学する者。

行政書士の実務的な視点から言えば、基本的には「18歳未満のこども」および「高校生以下の生徒(18歳以上であっても)」が対象になると認識しておけば間違いありません。

2. 「児童対象性暴力等」とは何か(法第2条第2項関係)

対象事業者が防止すべき「児童対象性暴力等」とは、刑法等の犯罪に限定されるものではありません。同意や暴行・脅迫の有無を問わず、また刑事罰が科されなかった行為であっても該当し得る広範な概念です。具体的には以下の行為が該当します。

  • 児童等との性交等(不同意性交等の罪に当たる行為など)。
  • 児童等にわいせつな行為をすること、又はさせること(不同意わいせつの罪に当たる行為など)。
  • 面会要求等、児童買春、児童ポルノの製造・所持・提供、性的姿態の撮影・送信などの罪に当たる行為。
  • 衣服の上から又は直接に人の性的な部位(性器、臀部、胸部など)その他の身体の一部に触れること(痴漢行為を含む)。
  • 通常衣服で隠されている下着又は身体を撮影し、又は撮影する目的で機器を差し向けること(盗撮行為を含む)。
  • 児童等に対し、性的羞恥心を害する言動であって心身に有害な影響を与えるものをすること(悪質なセクシュアル・ハラスメントを含む)。

3. 最重要概念「不適切な行為」の考え方と実務対応

本制度において、事業者が最も頭を悩ませ、かつ日常的に取り組むべきテーマがこの「不適切な行為」の管理です。

「不適切な行為」とは、行為そのものは性暴力(犯罪等)には該当しなくとも、業務上必ずしも必要な行為とは言えず、その行為が継続・発展することにより児童対象性暴力等につながり得る行為を指します。

性加害者の特性として、こどもを手なずけ、信頼関係を醸成し、心情や行動を操作して性暴力に及ぶ「性的グルーミング」という行動が見られます。また、「少し触っただけだ」「こどもも喜んでいる」といった「認知の偏り」も多く見られます。不適切な行為の段階でこれらを察知し、未然に防ぐことが本法の核心です。

ガイドラインや研修資料で示されている具体例を以下にまとめました。

分類不適切な行為の具体例
私的なコミュニケーション等こどもとSNSの私的な連絡先やオンラインゲームのアカウントを交換しやり取りする。休日や放課後に二人きりで会う。保護者の承諾なくこどもの自宅で二人きりになる。
撮影私物のスマートフォン等でこどもの写真を業務外の目的で撮影・管理する。
密室用務がないのに別室に呼び出すなど、不必要に密室で二人きりになろうとする。更衣室やお風呂等を不必要に二人きりで利用する。
身体接触必要以上に長時間抱きしめる。業務上必要がないのに膝に乗せる、おんぶする、マッサージをする・させる、特定のこどもとだけ添い寝をする。
排せつ介助等こどもの発達段階から考えて不必要な排せつ介助を行おうとする。誤解を受けるような仕方(衣服の上から陰部を触るなど)でおむつ交換をする。こどもが一人で排せつ・着替えを行いたいと意思を示しているのにわざわざ介助に入る。
特別扱い特定のこどもに高価な金品を与える。容姿を過度にほめる。特定のこどもの保育・介助を理由なく担当しようとする。
その他従事者がこどもの前で過度に肌を露出する(性的手なずけにつながるため)。

これらの行為が不適切か否かは、事業内容、こどもの発達段階、現場の状況等によって変わり得ます。例えば、未就学児に対する身体接触と中高生に対する身体接触は同等には扱えませんし、スポーツやダンスの指導において保護者の理解を得た上での身体接触はあり得ます。

事業者は専門家に相談しつつ、現場の従事者とコミュニケーションを図り、過度な萎縮につながらないよう、実態に即して自社の服務規律等にルールとして明確に定めることが求められます。

また、上記の例に「執拗に」「保護者の意に反することを認識しながら」といった悪質性が加わると、「重大な不適切な行為」として扱われ、性暴力に至るリスクが極めて高いと判断されるため厳格な対応が必要となります。

なお、これらの行為が「被措置児童等虐待」に該当する場合は、児童福祉法等に基づく通報や対応も並行して求められる点に注意が必要です。

4. 「特定性犯罪」と「特定性犯罪事実該当者」(法第2条第7項・第8項)

本制度の中核である「犯罪事実確認」の対象となる犯罪の範囲です。「特定性犯罪」とは、不同意性交等、不同意わいせつ、面会要求等、盗犯等防止法違反(強盗・不同意性交等)、児童福祉法違反(淫行させる行為)、児童買春・児童ポルノ法違反、性的姿態等撮影処罰法違反、及び都道府県の迷惑防止条例違反(痴漢・盗撮等)などを指します。重要なのは、「こどもに対する性犯罪」だけでなく「成人に対する性犯罪」も全て対象となる点です。

「特定性犯罪事実該当者(性犯罪前科がある者)」とは、特定性犯罪を犯し、以下の期間を経過していない者を指します。

  • 拘禁刑(旧懲役・禁錮)の実刑:刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して20年を経過していない者。
  • 拘禁刑の執行猶予:裁判が確定した日から起算して10年を経過していない者(執行猶予期間が満了しても、確定日から10年は対象となります)。
  • 罰金刑:刑の執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から起算して10年を経過していない者。

第3章:対象事業者の範囲(ガイドライン Ⅲ)

本制度は、こどもに対して教育や保育の役務を提供する事業者を広く対象としていますが、法令による認可の有無等によって「義務対象(学校設置者等)」と「認定対象(民間教育保育等事業者)」の2つに区分されます。

区分義務対象(学校設置者等)認定対象(民間教育保育等事業者)
制度の適用法律に基づく措置の実施が「義務」こども家庭庁の認定を受けることで制度対象となる(任意)
教育関係幼稚園、小学校、中学校、高等学校、特別支援学校など(※大学は除く)専修学校(一般課程)、各種学校(インターナショナルスクール等)など
認定こども園幼保連携型、幼稚園型、保育所型、地方裁量型のすべて該当なし
児童福祉関係児童相談所、認可保育所、乳児院、児童養護施設、児童館など放課後児童クラブ、認可外保育施設、一時預かり事業、病児保育事業など
障害児関係指定障害児通所支援事業(放課後等デイサービス等)指定障害児通所支援以外の事業、障害児に対する指定障害福祉サービスなど
民間教育事業該当なし学習塾、スポーツクラブ、ダンススクール、フリースクールなど

1. 学校設置者等(義務対象事業者)

学校教育法や児童福祉法等に基づき、国や自治体から認可等を受けて事業を行っている事業者は、法に基づく措置を実施することが義務となります。

2. 民間教育保育等事業者(認定対象事業者)

法令による厳格な認可規制がない、あるいは届出等で事業を行える民間事業者は、義務ではありませんが、こども家庭庁の認定を受けることで本制度の対象(認定事業者等)となり、犯罪事実確認システムを利用できるようになります。最も多くの民間企業が関わるのがこの区分です。

3. 民間教育事業が認定を受けるための「4要件」

学習塾やスポーツクラブ、ダンススクール、フリースクールといった「民間教育事業」は、事業内容が多岐にわたるため、以下の4つの要件をすべて満たす場合のみ、認定申請の対象として認められます。

  1. 修業期間要件:技芸や知識を習得するための標準的な修業期間が「6ヶ月以上」であること。期間中に2回以上同じこどもが参加できるプログラムであれば該当します。
  2. 対面要件:児童等に対して「対面」による指導を行うものであること。完全オンラインのみの塾は対象外ですが、オンラインを基本としつつ対面指導も行う場合は対象となります。
  3. 場所要件:「事業者が用意する場所(事業所等)」において指導を行うものであること。家庭教師のようにこどもの自宅に赴くのみの事業は対象外ですが、カフェや貸会議室など、こどもの自宅以外の場所で教えることがある場合は対象です。
  4. 人数要件:当該事業において指導を行う者の人数が「3人以上」であること。個人で1から2名で運営している教室やベビーシッターは対象外です。なお、この人数は雇用・委託・ボランティア等の形態を問いません。

行政書士の実務Q&A:対象事業者に関する現場の疑問

ここで、行政書士としてよくご相談を受ける、対象事業者の範囲に関するQ&Aをご紹介します。

Q. 児童館は義務対象ですか?認定対象ですか?

A. 児童館は児童福祉施設に該当するため、「学校設置者等(義務対象事業者)」となります。

Q. 放課後等デイサービスはどちらになりますか?

A. 児童福祉法に基づく指定障害児通所支援事業として指定を受けているものは「義務対象事業者」です。基準該当通所支援など、指定を受けていないものは「認定対象事業者」となります。

Q. 図書館で行う絵本の読み聞かせや、科学館の子供向け教室は対象ですか?

A. 公立・公営の施設であっても、上記の「民間教育事業」の4要件(修業期間6ヶ月以上など)を満たす場合は、民間教育事業として「認定対象事業者」となり得ます。ただし、1回限りのイベントなどは修業期間の要件を満たさないため対象外です。

Q. ボランティアベースで運営している「こども食堂」や「学習支援施設」は対象になりますか?

A. 学習支援等において継続的な指導を行っており、民間教育事業の4要件を満たせば「認定対象事業者」として申請可能です。ボランティアであっても指導を行う人数にカウントされます。ただし、あくまで認定申請は「任意」です。

Q. フランチャイズ(FC)展開している学習塾の場合、本部の直営店とFC加盟店をまとめて認定申請できますか?

A. できません。FC事業の場合、親元の事業者(本部)と加盟店(個人事業主等)は経営主体が異なるため、それぞれ別個に認定申請を行う必要があります。もし特定のFC加盟店の従事者が3人未満の場合、その加盟店は民間教育事業の要件を満たさず、認定を受けることはできません。

Q. 義務対象事業である「認可保育所」を運営しながら、同じ法人で認定対象事業の「一時預かり」や「病児保育」も行っています。それぞれ手続きが必要ですか?

A. 義務対象事業を運営する法人が、それに付随する認定対象事業を一体的(人事管理や事業運営が一体等)に行っている場合は、認定事業の従事者も含めて義務対象事業の「教員等」として扱い、改めて認定を取得することなく犯罪事実確認等の手続きを行うことが可能です(ガイドラインの一定の要件を満たす必要があります)。

第1回のまとめと次回予告

本記事では、こども性暴力防止法の目的から始まり、本制度で守るべき「児童等」の範囲、事業者が防がなければならない「児童対象性暴力等」と「不適切な行為」の定義、そして義務対象・認定対象となる事業者の区分と要件について、詳細に解説いたしました。

特に「不適切な行為」の管理は、施行前から事業者が自社の服務規律等を見直し、従業員への研修を通じて組織風土を変えていくための重要な要の概念となります。また、民間事業者におかれては、自社の事業が「民間教育事業の4要件」を満たし、認定申請が可能なのかどうかを精査することが第一歩です。

次回、連載第2回では、本記事で特定した事業者のもとで働く「どの従業員(職種)が犯罪事実確認の対象となるのか?」という「対象業務(従事者)の3要件(支配性・継続性・閉鎖性)」による具体的な判断基準や、実習生・ボランティア等の取扱いについて、さらに深く解説していきます。ぜひご期待ください。

(※本記事は、令和8年策定の「こども性暴力防止法施行ガイドライン」及び各種Q&A等の公式資料に基づいて作成しております。最新の法令や制度運用については、こども家庭庁の公式発表をご確認ください。)