2026年12月25日の「こども性暴力防止法(日本版DBS)」施行が目前に迫る中、学習塾、スポーツクラブ、各種習い事教室、認可外保育施設などの民間教育保育等事業者(認定対象事業者)の皆様にとって、最も関心の高い実務が「犯罪事実確認(犯歴照会)」の具体的な申請手順と、緊急採用時に現場を崩壊させないための例外措置である「いとま特例」の運用です。
本制度は、こどもの安全確保を最優先としつつ、働く従事者のプライバシーや労働法上の権利にも配慮した極めて緻密な二重・三重の設計(事前通知、訂正請求、中止要請など)がなされています。そのため、実務の手順を正しく理解しておかなければ、採用スケジュールの遅延や不当な労働トラブル、最悪の場合は情報漏えいによる刑事罰といった致命的なリスクを負うことになります。
本記事では、専門の行政書士が「犯罪事実確認の申請から結果受領までの完全プロセス」と、現場の救済措置である「いとま特例」を適法に適用するための「やむを得ない事情」の具体的要件、さらには行政の立入検査に耐えうる「証明書類の保存実務」までを解説します。
- 第1章:犯罪事実確認(日本版DBS)の申請から結果交付までの完全プロセス
- 第2章:従事者の人権とプライバシーを守る「事前通知」「訂正請求」「中止要請」
- 第3章:緊急採用時の救済措置「いとま特例」の適用条件と「やむを得ない事情」のすべて
- 第4章:いとま特例適用における「3ヶ月ルール」と「最長6ヶ月の延長要件」
- 第5章:【実務担当者必見】やむを得ない事情を客観的に証明する「社内保存書類」の整備
- 第6章:確認が完了するまでの間に義務付けられる「厳格な3つの安全措置」
- 第7章:やむを得ず「一対一」が発生する場合の例外規定と「事前誓約プロセス」
- 第8章:季節限定・超短期スタッフに最適!「意向確認書面」を用いた犯歴照会の超簡略化実務
- まとめ:適法な「事前準備」と「いとま特例」の計画的運用が企業の命運を分ける
第1章:犯罪事実確認(日本版DBS)の申請から結果交付までの完全プロセス
事業者が「こまもろうシステム」を利用して従事者の犯罪事実確認を行うプロセスは、事業者が一方的に申請して国が回答するような単純な仕組みではありません。機微な個人情報である「犯歴」を取り扱うため、事業者と従事者双方がシステム上で段階的に手続きを進める「共同連携型」のフローが採用されています。
以下に、実務上不可欠な6つのステップを時系列で解説します。
犯罪事実確認(犯歴照会)の基本実務フロー
- [事業者]GビズIDでログインし、従事者にアカウント登録を依頼
- [従事者]案内メールからアカウント登録・本人確認書類を提出
- [従事者]現在・過去の「4情報」および戸籍・除籍情報を登録
- [事業者]国(こども家庭庁)へ「犯罪事実確認書」の交付申請
- [ 法務省 ]戸籍情報等に基づき、検察庁のデータベースで犯歴を照会(※特定性犯罪前科が「ある」場合のみ、まず本人へ事前通知・本人の訂正請求・中止要請期間:2週間)
- [事業者]システム上で「犯罪事実確認書」を受領・確認(印刷・ダウンロードは厳禁)
【STEP 1】事業者による「アカウント登録依頼」
事業者は、事前に取得した「GビズID(プライム)」を用いて「こまもろうシステム」にログインします。新規採用者、あるいは確認期限を迎えた現職者などの対象従事者の「氏名」および「メールアドレス」をシステムに入力し、アカウント登録依頼を送信します。この際、CSVファイルを用いたシステム一括登録も可能です。
【STEP 2】従事者本人による「アカウント登録と本人確認」
依頼メールを受け取った従事者は、メールに記載された専用URLから「従事者マイページ」にアクセスし、アカウントを登録します。本人の氏名や住所などを入力の上、厳格な本人確認を行うため、以下の書類をスマートフォン等で撮影、またはICカードリーダーを用いて提出(アップロード)します。
- 日本国籍の従事者: マイナンバーカード(公的個人認証等)
- 在留資格のある外国籍の従事者: 在留カード、またはマイナンバーカード
- 在留資格のない外国籍の従事者: パスポート(旅券)
※日本語の読み書きやシステムの操作に不慣れな外国籍の従事者については、事業者が本人の発音等から「カナ氏名」の読み方を確認し、登録をサポート・代行することが認められています。
【STEP 3】従事者本人による「国籍情報・戸籍情報の登録」
犯罪事実確認を確実に行うためには、同姓同名の別人との取り違えを防ぎ、過去に氏名(旧姓など)や本籍地、国籍を変更した履歴も含めて完全に照会する必要があります。
- 日本国籍の従事者: 現在および過去のすべての情報をカバーするため、「戸籍謄本(除籍謄本含む)」をシステム上にアップロードします。
- 外国籍の従事者: 本国における「戸籍相当書類」の写し、来日履歴、重国籍情報などを登録します。
【STEP 4】事業者による「交付申請」の実行
従事者の登録手続きが完了すると、事業者の管理画面に「申請可能」な状態として表示されます。事業者は、申請従事者ごとに以下の項目を確認・入力し、国(こども家庭庁)へ「犯罪事実確認書」の交付申請を行います。
- 対象事業者の名称、所在地、代表者氏名
- 申請従事者の氏名、住所、生年月日、性別
- 従事する認定事業の概要、施設・事業所の名称および所在地
- 従事者が行う具体的な業務内容
- 対象業務への従事予定日
- 申請区分(新規採用、いとま特例適用者、5年ごとの再確認など)
【STEP 5】法務省・検察庁での「犯歴照会」と「標準処理期間」
交付申請を受けたこども家庭庁は、法務省(民事局・刑事局)とシステム連携し、検察庁が管理する「特殊な犯歴データベース」に照会をかけます。
- 日本国籍の従事者の場合: 申請から確認書受領までの標準処理期間は「概ね2週間程度」です。
- 外国籍の従事者の場合: 各国の政府機関等への確認や翻訳などのプロセスが発生するため、「1〜2ヶ月程度」の時間を要する見込みです。採用スケジュールを組む際は、この処理期間を逆算して余裕を持って手続きを開始する必要があります。
【STEP 6】犯罪事実確認書の受領と「画面上でのみ確認」の徹底
照会の結果、特定性犯罪前科が「なし」であった場合、事業者にシステムを通じて「特定性犯罪事実は確認されなかった」旨の「犯罪事実確認書」が交付されます。事業者はこの結果を確認し、対象業務への配置を行います。
ここで極めて重要な実務上の注意点は、「結果をPDFでダウンロードしたり、紙に印刷して社内の書庫に保管したりすることを極力避ける」という点です。前科情報は極めて機微な情報であり、万が一社内ネットワークから漏えいしたり、紙の資料が盗難に遭ったりした場合、事業者は「情報管理措置違反」として重大なペナルティを受けることになります。原則として「必要な都度、こまもろうシステムの画面上でログインして閲覧する」という運用を徹底してください。
第2章:従事者の人権とプライバシーを守る「事前通知」「訂正請求」「中止要請」
こども性暴力防止法では、こどもを性暴力から守るための強力な権限が事業者に与えられる一方で、従業員のプライバシーや人権、憲法上の職業選択の自由を侵害しないよう、国が事業者に結果を開示する前に、従事者本人の保護プロセスが必ず介在する仕組みになっています。
犯歴照会の結果、特定性犯罪前科が「あり」と判定された場合、事業者へ通知が行われる前に、以下の「3つのステップ」が実行されます。
1. 従事者本人に対する「事前通知」
照会結果が「該当あり(前科あり)」の場合、国は事業者へ確認書を交付する前に、「従事者本人のマイページにのみ」システムを通じて「事前通知」を行います。この段階では、事業者はまだ前科の有無を知ることはできません。事業者に知られる前に、本人に自らの身の振り方を決める機会を与えるためです。
2. 事実と異なる場合の「訂正請求」(2週間の猶予)
事前通知を受けた本人が、「同姓同名の別人である」「すでに法定の就業制限期間を経過している」など、国の通知内容が事実と異なると判断した場合、事前通知を受けた日から2週間以内に、国に対して書面で「訂正請求」を行うことができます。国(こども家庭庁および法務省)は、訂正請求に理由があると認める場合は、内容を修正した上で、正しい結果を事業者に交付します。これにより、国の誤った登録によって従業員が不当に解雇されたり、前科があると誤解されたりする人権侵害を防ぎます。
3. 自ら身を引くための「中止要請」(最大のセーフティネット)
事前通知を受けた本人が犯歴を自覚しており、「事業者に前科を知られたくない」と考えた場合、本人から国に対して犯罪事実確認の「中止要請」を行うことができます。中止要請がなされると、国は事業者への犯罪事実確認書の交付手続きを即座にストップします。これにより、事業者に「犯歴情報」そのものが渡ることを防ぐことができます。
【事業者における実務上の変化】
中止要請が行われた場合、事業者の管理画面には「特定性犯罪事実あり」と表示されるのではなく、**「申請が本人の意思により中止されました」**といったステータスのみが表示されます。当然、犯罪事実確認書が受領できない以上、事業者はその者を「こどもと接する業務」に配置することはできません。
しかし、本人が「中止要請」を選択したということは、「これ以上手続きを進めると前科が会社に知られてしまうため、自ら採用を辞退するか、別の職種(裏方等)への配置を希望する、あるいは退職する」という意思表示と同義です。事業者は、このシステム上の挙動を理解し、「中止」となった者に対しては、前科を問いただすのではなく、採用辞退の手続きや、こどもと一切接しない他部署への配置転換手続きを淡々と進めることになります。
第3章:緊急採用時の救済措置「いとま特例」の適用条件と「やむを得ない事情」のすべて
犯罪事実確認は「従事開始前」に完了することが大原則ですが、「明日から講師が急病で来られなくなった」「開校直前に内定者が辞退した」といった突発的なトラブルは、民間事業の現場で日常茶飯事です。このような極限状態において、確認書の交付を待つ間(約2週間)クラスを完全に閉鎖せざるを得ないとなれば、事業の継続は不可能です。
この現場の現実を救済するために設けられたのが、従事開始「後」の犯歴照会を認める「いとま特例」です。しかし、本特例は「手続きが面倒だから」「忘れていたから」といった理由で安易に利用できる抜け道ではありません。以下の「やむを得ない事情(全9類型)」のいずれかに客観的に該当する場合のみ、厳格に適用が認められます。
「やむを得ない事情」の全9類型と民間事業での具体例
① 新規採用における予見不可能な欠員
- 該当する具体例: 在籍中の講師や保育士が、交通事故、突然の急病、精神的疾患等により、明日から出勤できなくなった。内定していた採用予定者が、入社日の直前(数日前〜前日)になって突然「内定を辞退する」と連絡してきた。または、数ヶ月前から継続的に募集活動を全力で行ってきたが、直前になってようやく採用が決まった(採用活動を怠っていなかった客観的な証明が必要)。
- 対象外となる例: 数ヶ月前から「定年退職」や「産休・育休の取得」が決まっていたにもかかわらず、計画的な求人・採用活動を先延ばしにし、直前になって慌てて採用・配置した場合。
② 直前の人事異動(事業者の責めに帰すことのできない事情)
- 該当する具体例: 自治体や連携機関等との共同事業において、国や地方公共団体の予算案・事業計画の決定が3月下旬にずれ込み、それに伴う異動内示が4月1日の従事開始直前にならざるを得なかった場合。
- 対象外となる例: 自社内の人事異動において、特に外的な制約がないにもかかわらず、社内の慣行(異動の1週間前内示など)を優先して直前に配置転換を行った場合(※法施行後は、犯歴照会にかかる2週間を逆算した「内示の前倒し」が企業努力として義務付けられます)。
③ 事業者間契約の遅れ(派遣・業務委託・請負)
- 該当する具体例: スポーツクラブの水泳指導を外部の委託会社へ数ヶ月前から依頼していたが、調整が難航し、実際に派遣されるインストラクターが決定・通知されたのが指導開始日の前日であった場合。
- 対象外となる例: 委託契約や派遣契約の締結自体が遅れ、かつその遅延の原因が自社の手続きの遅れや交渉の引き延ばしによるものである場合。
④ 組織変更(合併、事業分割、事業譲渡等)
- 該当する具体例: 他社が運営していた学習塾の1教室を、事業譲渡契約に基づき引き継ぐことになった。契約の最終合意が3月中旬であったため、全員分の事前照会が4月1日までに物理的に間に合わない場合。
⑤ 許認可等の遅れ(新規事業の開始時)
- 該当する具体例: 新規の認可外保育施設を開設するにあたり、自治体の審査窓口の混雑により、開設予定日の直前になるまで正式な受理・証明書交付がなされず、スタッフの犯罪事実確認の申請手続きを行う時間が十分に確保できなかった場合。
⑥ 国による審査遅延(標準処理期間を確保して申請した場合)
- 該当する具体例: 従事開始日の「3週間前(標準処理期間を上回る時期)」にシステムでの申請を完璧に完了していた。しかし、こども家庭庁側の審査が混雑し、従事開始日になっても確認書が交付されなかった場合(※事業者側に落ち度がないため、最も典型的な救済対象となります)。
⑦ その他、災害や緊急事態によるもの
- 該当する具体例: 台風、地震、火災などの災害により近隣の教室が被災したため、急遽こどもたちを一箇所に集めて合同授業を行うことになり、被災した他教室のスタッフを緊急で応援に配置する場合。
第4章:いとま特例適用における「3ヶ月ルール」と「最長6ヶ月の延長要件」
いとま特例を適用して、犯罪事実確認が完了していない状態の従事者を現場に配置する場合、事業者は「いつまでも未確認のまま働かせておいてよいわけではない」という厳格な期限(時間的限界)を遵守する必要があります。
原則は「従事開始から3ヶ月以内」
いとま特例を適用して従事者に対象業務を行わせる場合、事業者は従事開始日から起算して3ヶ月以内に、犯罪事実確認の手続き(申請、照会、確認書の受領)をすべて完了させなければなりません。この3ヶ月の間に、国から「該当なし」の確認書を受領するか、あるいは「該当あり」を検知して必要な防止措置(配置転換等)を講じる必要があります。
最長「6ヶ月以内」への延長が認められる例外ケース
ただし、事業者および従事者が最大限の努力をしているにもかかわらず、物理的・環境的な理由により3ヶ月以内の完了が困難な場合、最長6ヶ月以内まで期限の延長が認められます。具体的な延長要件は以下のとおりです。
- 大規模な災害等の発生: 地震や台風、感染症の爆発的流行等により、事業者の事務所が物理的に損壊した場合や、国のシステムが長期間にわたって停止した場合。
- 一度に大量の確認が必要となる場合(組織変更等): 法人の合併、広範な事業譲渡、フランチャイズ本部の一斉認定取得などにより、数百人〜数千人規模の従事者について一斉に確認手続きを行わなければならず、システムへの入力や戸籍謄本の収集に物理的な時間を要する場合。
- 外国籍従事者における国籍情報等の照会遅延: 本国からの戸籍相当書類や犯罪経歴証明書(ポリスピランス)の取り寄せ、翻訳、認証に数ヶ月を要する場合。事業者が速やかに指示を出し、本人が遅滞なく申請しているにもかかわらず本国政府の事務遅延等により3ヶ月以内に書類が揃わない場合は、6ヶ月までの延長が認められます。
- 国の審査システム側の長期遅延: 事業者は3ヶ月の期限内に余裕を持って申請を完了させていたが、国のシステム障害等により3ヶ月以内に結果が交付されない場合。
事業者は、いとま特例の適用が「3ヶ月(または6ヶ月)という法的な時限付きの極めてデリケートな状態」であることを認識し、特例を適用したその日から、システム上での進捗確認と本人に対する書類提出の督促を毎日行う姿勢が求められます。
第5章:【実務担当者必見】やむを得ない事情を客観的に証明する「社内保存書類」の整備
いとま特例は、こども家庭庁への「事前申請や事前許可」は必要ありません。システムで交付申請をする際に、「いとま特例を適用する」という区分を選択し、画面上で「やむを得ない事情」の該当項目にチェックを入れ、講じている安全措置の内容を入力すれば、そのまま申請を進めることができます。
しかし、これは「事後審査が不要」という意味ではありません。こども性暴力防止法および施行規則により、いとま特例を適用した事業者は、「やむを得ない事情のいずれかに該当していたことを客観的に証明できる書類(証拠)」を自社のオフィス(事業所等)に保存しておく法的義務(社内保存義務)を負っています。
後日、都道府県やこども家庭庁による「立入検査(監査)」や「報告徴収(指導)」が入った際、これらの客観的な証拠書類を提示できなければ、「いとま特例の不正適用(事前確認義務違反)」とみなされ、認定の取り消しや事業者名の公表といった極めて重い社会的ペナルティを科されることになります。
実務上、どのような書類を「証明書」として保存すべきか、ケース別にファイリングすべきリストを以下に示します。
証明書類の社内ファイリング・リスト
| いとま特例の適用理由 | 保存すべき客観的証明書類の具体例(ファイリングすべきもの) |
| ① 従事者の急病・突然の退職 | ・前任者の「退職届(辞職願)」の写し(退職日が直近であること) ・急病やケガを示す「医師の診断書」または「休職願」 ・無断欠勤・蒸発等の場合は、業務日誌や連絡を試みたメール・架電履歴 |
| ② 内定者の直前辞退 | ・採用内定を出していたことを示す「内定通知書」の控え ・内定者から「辞退したい」と申し出があったことを示すメール、手紙、聴き取りメモ(日付が従事開始直前であること) |
| ③ 採用活動の難航 | ・数ヶ月前から求人を行っていたことを示す「求人サイトの掲載契約書・画面コピー」 ・ハローワークへの「求人申込書(受付印あり)」の控え ・「求人は出していたが、直前まで採用できなかった」という努力の証拠となる選考プロセス記録 |
| ④ 派遣・委託スタッフの直前確定 | ・派遣会社や委託会社と交わした「基本契約書」および「人員手配依頼書」の写し ・派遣元から「人員の確定が直前になった」ことが明記された「通知書(紹介状)」や確定連絡メールの控え |
| ⑤ 組織変更・事業譲渡 | ・「事業譲渡契約書」「合併契約書」の写し(譲渡実行日等が明記された部分) ・契約交渉のタイムライン記録 |
| ⑥ 許認可等の遅れ | ・自治体へ新規設置の申請等を行った際の「申請書・届出書の控え(受付印あり)」 ・実際に交付された「認可書」「適合証明書」の写し |
| ⑦ 国のシステムや審査の遅延 | ・システム上で交付申請を完了した際の「申請受付完了メール」の控え ・システムの「申請履歴画面」のスクリーンショット(申請日付が標準処理期間より前であること) |
【行政書士の実務アドバイス:特例適用管理台帳の作成】
いとま特例を適用する際は、対象となる従事者ごとに専用のフォルダを物理的(またはサーバー上のセキュアなフォルダ内)に作成し、「①いとま特例を適用した理由書(社内起案)」「②上記の客観的証明書類」「③確認書の交付を受けるまでの間のシフト表(一対一にさせていない証拠)」の3点をセットにしてファイリングしておく運用を、人事ルールとして確立してください。これを行うだけで、行政の監査が入った際の心象は劇的に良くなり、コンプライアンス体制の強固さを証明できます。
第6章:確認が完了するまでの間に義務付けられる「厳格な3つの安全措置」
いとま特例は、あくまで「犯歴の有無が分からない者」を暫定的に現場に立たせる例外措置です。そのため、事業者はその従事者を「性犯罪前科があるかもしれないリスクを秘めた人物」として扱い、結果が判明するまでの間、以下の「厳格な3つの安全措置(すべての実施が必須)」を講じなければなりません。
- 措置1:原則として、こどもと「一対一」にさせない最も重要かつ物理的な対策です。いとま特例適用中の従事者を、個室、死角、送迎車内、放課後の教室などでこどもと二人きり(一対一)にさせてはいけません。必ず、確認済みの他の職員が同席する、ガラス張りの開放されたスペースで業務を行わせる、あるいは集合授業にアシスタントとして入らせるなどの配慮を行います。(※相手が未就学児や障害児等の場合、周囲に他の大人の目がない環境であれば、たとえ「1対多」であっても支配性・閉鎖性が生じるため、一対一と同等のリスクがあるとみなされます。必ず「他の大人の目(第三者の同席)」を維持してください。)
- 措置2:業務開始前(配置前)の「事前の特例研修」の受講対象業務に従事させる「前」に、本人に対して、いとま特例の趣旨や、自園・自社が定める安全確保措置のルールについての研修を受講させなければなりません。こども家庭庁が提供する「要点動画」等を視聴させ、「受講管理表」に記録します。
- 措置3:管理者による「定期的な巡回・声掛け等のチェック」現場に丸投げにするのではなく、園長、教室長、施設長といった管理者が、いとま特例適用中の従事者の業務状況を、毎日意識的に巡回・視察し、組織的な牽制機能(監視の目)を働かせる必要があります。
第7章:やむを得ず「一対一」が発生する場合の例外規定と「事前誓約プロセス」
原則は「一対一の禁止」ですが、個別指導塾や、特別支援を要するこどもの対応、カウンセリング、突発的な体調不良時の別室救護など、現場の実務上、どうしても一対一の状況が発生せざるを得ない場合があります。ガイドラインでは、このような場合に限り、以下の手順を踏むことで例外的に一対一を認めています。
例外的に一対一になる場合の厳格な対応手順
- [従事者]事前に管理職(教室長・園長等)へ理由を報告・合意を得る(※時間・場所・必要性を明確にする)
- [従事者]視認性の高い環境(ガラス張りの部屋、防犯カメラのある部屋等)で対応
- [従事者]対応完了後、速やかに管理職へ完了報告を行う
- [管理職]報告内容を記録・保存し、不自然な点がないか客観的に確認・検証する
このように、例外対応を「行う前」と「行った後」の組織的な承認・記録プロセスを設けることで、密室化による暴走や不適切な言動を確実に防止します。
「いとま特例適用時の事前誓約プロセス」
いとま特例を適用するにあたり、最も大きな人事・法務リスクは、「従事開始から数週間後に確認書が届き、前科がある(該当あり)と判明した時」に発生します。前科が判明した以上、事業者は法律上、直ちにその者をこどもと接する業務から外さなければなりません。しかし、事前に何の取り決めも行わずに採用してしまっていた場合、本人が「不当な配置転換だ」「解雇は無効だ」と労働契約上の権利を主張し、深刻な労働紛争に発展するおそれがあります。
これを適法にクリアし、事業者を守るために、採用時に必ず「いとま特例の適用に関する誓約書」を本人から取得してください。
【誓約書(内定通知書)に盛り込むべき必須事項の例】
- 本業務(こどもと接する業務)に従事するにあたり、こども性暴力防止法に基づく犯罪事実確認が必要であることの合意。
- 現在は「いとま特例」の適用により、暫定期間として業務上の制限(一対一の禁止等)に服することへの同意。
- 採用選考時において、特定性犯罪前科(特定性犯罪事実)がないことを自ら表明・誓約し、会社に虚偽の申告を行っていないことの再確認。
- 万が一、国からの確認書において特定性犯罪事実該当者であることが判明した場合、または本人が手続きの中止要請を行った場合は、「重要な経歴の詐称」および「雇用条件の不成就」に該当し、会社は適法に「内定の取消し」「試用期間の解約(本採用拒否)」「別部署への無条件の配置転換」を行うことができる旨の合意。
この誓約書を従事開始日の前に必ず本人と取り交わしておくことが、いとま特例という「リスク期間」を運用する民間事業者にとって最大の防御盾となります。
第8章:季節限定・超短期スタッフに最適!「意向確認書面」を用いた犯歴照会の超簡略化実務
学習塾の「夏休み・冬休み限定の講習講師」や、スポーツクラブ主催の「季節限定のスキーキャンプ指導員」など、数日〜数週間の超短期契約のスタッフを毎年同じメンバーで回しているケースは非常に多いかと思います。これらのスタッフに対しても犯罪事実確認が必要となる場合、雇用契約を締結するたびに毎回システム入力や照会(2週間待ち)を行うとなれば、現場の事務負担はパンクしてしまいます。
この「有期契約・季節限定スタッフ」の事務負担を劇的に軽減するために用意されているのが、「意向確認書面」の実務です。
「意向確認書面」の実務とは?
「意向確認書面」とは、事業者と従事者の間で、「同一の事業者において、最大6ヶ月の間に、再度対象業務に従事する(雇用契約を結ぶ)可能性があること」を双方で確認し、合意した書面をあらかじめ締結しておく手続きです。これを締結しておくことで、以下の絶大な実務上のメリットが得られます。
- 照会結果の「使い回し(保持)」が可能になる:通常、従業員が一度「退職」すると、事業者は犯罪事実確認記録等を速やかに消去・廃棄しなければなりません。しかし、意向確認書面を締結しておくことで、雇用契約が一旦終了しても「意向確認済期間(最大6ヶ月)」の間は、記録を適法に保持・管理し続けることが認められます。
- 毎回の犯歴照会が不要(即日勤務可能):これにより、夏休みの指導を終えて一度退職したスタッフが、4ヶ月後の冬休みのキャンプで再び働く際、「改めて犯罪事実確認を行う必要が全くなく、初日からすぐに現場に立たせることができる」ようになります。
「意向確認書面」を活用するための3つの条件
この超便利な簡略化実務を適用するためには、以下の条件をすべて満たす必要があります。
- 同一の事業者(同じ法人・経営主体)での再雇用であること(他社での結果の使い回しは不可)。
- 再雇用の間隔が「最大6ヶ月以内」であること(これを超える場合は、改めて書面を締結し、再度の照会が必要)。
- 事業者と従事者の双方が署名・捺印した「意向確認書面」を確実に作成し、社内で保管していること。
【行政書士の実務アドバイス】
夏休みや冬休みの単発スタッフ、登録型の非常勤講師を多く抱える事業者様は、最初の雇用契約を結ぶ段階で、必ずこの「意向確認書面」を同時に締結しておくことを強くお勧めします。これ一枚で、年間を通じた犯歴照会の事務コストは数分の1に削減されます。
まとめ:適法な「事前準備」と「いとま特例」の計画的運用が企業の命運を分ける
こども性暴力防止法における犯罪事実確認のシステム実務フローと、緊急時の「いとま特例」の適用方法、そして超短期スタッフへの「意向確認書面」の活用法について解説しました。
いとま特例は現場の崩壊を防ぐための素晴らしい救済措置ですが、その本質は「確認結果が出るまでの間、事業者側に厳格な監視義務と人事法務上のリスクを負わせる時限措置」です。したがって、特例を適用する際は、「やむを得ない事情を証明する書類を確実にファイリングしておくこと」、そして「万が一前科があった場合に適法に対処するための誓約書を交わしておくこと」の2点がセットでなければ、企業としての防衛は成り立ちません。
法律の施行に向けて、まずは自社の採用スケジュールに「犯歴照会の2週間(外国籍は1〜2ヶ月)」を組み込んだ新しい人事カレンダーを策定し、いざという時の「いとま特例用フォルダ」と「意向確認書面テンプレート」を今すぐ整備してください。
次回連載予告
次回は、いざという時の現場の判断基準となる「『不適切な行為(グルーミング等の前兆)』の線引きと、現場の保育士・講師が萎縮しないための社内ルールの策定方法」をテーマにお届けします。こどもの安全を確保しつつ、健全なスキンシップや教育活動を維持するための「現場ガイドライン」の作り方を解説しますので、ご期待ください。