目次
  1. はじめに
  2. 法改正の背景と通報義務等の創設に関する制度の全体像
    1. 法改正の目的と改正法の枠組み
    2. 通報義務の対象となる施設と事業の広範な拡大
    3. 虐待の定義における4つの類型と現場での具体例
      1. 身体的虐待
      2. 性的虐待
      3. ネグレクト
      4. 心理的虐待
    4. 不適切な保育の概念の再整理と日々の振り返りの重要性
    5. 各種基準省令と内閣府令における虐待等の禁止の明確化
  3. 保育現場における実務対応と通報制度に関する法的留意点
    1. 虐待と疑われる事案を発見した場合の対応と通報義務の絶対性
    2. 通報者の保護の徹底と公益通報者保護法との連携
    3. 守秘義務と通報の優先関係における法的解釈
    4. 個人情報保護法との関係と情報提供に対する事業者の対応
    5. 教員性暴力等防止法との関係と制度の交錯
    6. 市町村等の指導等を踏まえた事後の事業者のフォローアップ
  4. 所管行政庁の対応プロセスと関連制度の一般化および支援事業
    1. 所管行政庁の定義と都道府県および市町村間の緊密な連携
    2. 通報の受理と事実確認の実施および立入調査権限
    3. ガイドラインに基づく虐待の判断プロセス
      1. プロセス1 行為ベースでの検討による即時判断
      2. プロセス2 行為の強度と頻度による判断
      3. プロセス3 保育士の意図とこどもの状況への影響による判断
    4. 虐待と判断された場合の厳格な行政措置と警察連携
    5. 事案の透明性を担保する児童福祉審議会等への報告と公表制度
    6. 保育人材確保に向けた支援体制の法定化と地域限定保育士の一般制度化
    7. 体制強化を後押しする保育所等虐待防止対策支援事業の創設
  5. おわりに
    1. 保育施設の虐待通報義務化ルールと施設長が知っておきたい法的リスク
    2. いよいよスタート!令和8年度「保育ICT推進加算」の要件と特例措置を行政書士が徹底解説
    3. 【第3回】国と自治体の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜保育政策の歴史的転換と目指すべき未来のグランドデザイン〜

はじめに

近年、全国各地の保育所等において、職員による虐待などの不適切事案が相次いで発生しており、こどもや保護者が不安を抱えることなく安心して施設に通うことができる環境の整備が社会的な急務となっていました。これまで、児童養護施設等や障害児者施設、高齢者施設においては、職員による虐待が発見された際の通報義務の仕組みが法的に整備されていましたが、保育所等についてはこれまで同様の法的仕組みが存在せず、各施設の自主的な対応や自治体ごとのガイドラインに委ねられている状態が続いていました。

こうした背景を受け、児童福祉法等の一部を改正する法律(令和7年法律第29号)が成立し、令和7年(2025年)10月1日より施行されました。この法改正により、保育所等や幼稚園等の職員による虐待の通報義務が新たに法定化され、厳格なルールが適用されることとなります。あわせて、虐待の未然防止や発生時の対応に関する国が定めるガイドラインも大幅に改訂および拡充されました。

本コラムでは、この法改正の背景と制度の全体像から、保育現場で直面する実務対応のポイント、そして所管行政庁の対応プロセスや関連制度の変更に至るまで、施設運営を担う事業者の皆様に向けて網羅的かつ詳細に解説いたします。適法かつ安全な施設運営のためのガイドポストとしてご活用ください。

法改正の背景と通報義務等の創設に関する制度の全体像

法改正の目的と改正法の枠組み

今回の改正法は、現行の児童福祉法に規定される被措置児童等虐待の防止等の枠組みを最大限に活用し、児童養護施設等と同様に、保育所等や幼稚園等の職員による虐待に対する法的な対応スキームを構築するものです。具体的には、施設内で発生した事案を確実に可視化し、こどもの安全を守るために以下の規定が新たに設けられました。

  • 虐待を受けたと思われる児童を発見した者の通報義務の法定化
  • 都道府県や市町村等の所管行政庁による事実確認の実施、および児童の安全な生活環境を確保するために必要な措置(指導や助言等)の義務付け
  • 所管行政庁が行った措置に対する児童福祉審議会等への報告および意見聴取の義務付け
  • 都道府県知事による毎年度の虐待の状況等に関する情報の公表
  • 国による虐待防止等に関する調査研究の実施

また、この重大な改正は児童福祉法にとどまりません。就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(認定こども園法)および学校教育法の一部改正も同時に伴っており、幼保連携型認定こども園や幼稚園、特別支援学校幼稚部についても全く同様の厳格な仕組みが適用されることになります。

通報義務の対象となる施設と事業の広範な拡大

改正法では、もっぱら保護者と離れた環境下において、児童に保育や居場所の提供等の支援を行う多岐にわたる施設や事業が、新たに通報義務等の対象として追加されました。これは、こどもを預かるあらゆる環境において死角をなくすための措置です。対象となるのは以下の20種類の施設および事業です。

  • 保育所
  • 幼保連携型認定こども園
  • 幼稚園
  • 特別支援学校幼稚部
  • 家庭的保育事業
  • 小規模保育事業
  • 居宅訪問型保育事業
  • 事業所内保育事業
  • 認可外保育施設
  • 一時預かり事業
  • 病児保育事業
  • 乳児等通園支援事業
  • 児童自立生活援助事業
  • 放課後児童健全育成事業
  • 子育て短期支援事業
  • 意見表明等支援事業
  • 妊産婦等生活援助事業
  • 児童育成支援拠点事業
  • 母子生活支援施設
  • 児童館

これにより、就学前のこどもを預かるほぼ全ての施設において、虐待の早期発見と行政への通報が法律上の義務として課されることとなりました。対象外となる施設は極めて限定的であり、事業者は自らの運営する施設が対象に含まれることを前提に体制整備を進める必要があります。

虐待の定義における4つの類型と現場での具体例

保育所等における虐待とは何かについて、児童福祉法において以下の4つの類型に明確に定義されています。なお、これらの行為は、就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(認定こども園法)においても同様に虐待と定められています。現場の職員が「これはしつけの一環だ」と認識していたとしても、客観的にこれらの類型に該当すれば虐待とみなされます。

身体的虐待

保育所等に通うこどもの身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えることを指します。具体例としては、首を絞める、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、熱湯をかける、布団蒸しにする、溺れさせる、逆さ吊りにする、異物を飲ませる、ご飯を押し込む、戸外に閉め出す、縄などにより拘束する行為が挙げられます。また、意図的にこどもを病気にさせる行為や、打撲傷や骨折などの外見的に明らかな傷害を生じさせる行為も含まれます。これらは行為の大小を問わず、直ちに重大な虐待として扱われます。

性的虐待

こどもにわいせつな行為をすること、又はこどもをしてわいせつな行為をさせることです。具体例としては、下着のままで放置する、着替えや排泄時など必要の無い場面で裸や下着の状態にする、こどもの性器を触る又は触らせる、性器を見せる、わいせつな言葉を発する、こどもへの性交や性的暴行、ポルノグラフィーを見せることや強要する、わいせつな目的で裸や下着の状態を撮影する等の行為が含まれます。こどもの尊厳を深く傷つける行為であり、極めて厳格に対処されます。

ネグレクト

こどもの心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置、他の職員やこどもによる虐待行為の放置、その他の業務を著しく怠ることです。具体例としては、体調を崩しているこどもに必要な看護を行わない、おむつや汚れた服を長時間替えない、泣き続けるこどもを放置する、視線を合わせず声もかけない、適切な食事を与えない、別室に閉じ込める行為などが該当します。また、他の職員による不適切な指導を見て見ぬふりをして放置することもネグレクトに当たります。なお、幼保連携型認定こども園等においては、短時間の利用において食事が提供されないこと等をもって直ちに虐待となるわけではありませんが、園児の心身に重大な危険が生じるおそれがある場合に業務上必要な注意を怠ることも虐待とされます。

心理的虐待

こどもに対する著しい暴言、著しく拒絶的な対応、その他こどもに著しい心理的外傷を与える言動を行うことです。具体例としては、ことばや態度による脅かし、著しい差別的な扱い、こどもを無視する行為が挙げられます。また、日常的に侮蔑的な言葉を投げかける、失敗を執拗に責める、食べこぼしを嘲笑する、こどもの大切にしているものを乱暴に扱うことや壊す、他のこどもと接触させない孤立的な扱い、感情のままに大声で叱責することなども含まれます。外傷が残らないため発覚が遅れがちですが、こどもの心に深い傷を残す重大な権利侵害です。

不適切な保育の概念の再整理と日々の振り返りの重要性

従前の手引きやガイドラインでは、不適切な保育という広い枠組みの中に虐待が含まれ得るものとして整理されていました。しかし、本改訂版のガイドラインでは、虐待の概念を軸に対応が再整理されました。日々の保育現場において行われる行為の1つ1つが直ちに虐待に該当しなくても、その行為の繰り返しや延長線上に虐待が存在すると解すべきであると強く指摘されています。

そのため、現場の保育士や保育教諭等は、自身の行動がこどもにとってどうなのかという視点から、こどもの人権と人格を尊重する意識を常に共有し、日々の保育実践を定期的に振り返ることが強く求められます。施設長等のリーダー層は、チェックリスト等の積極的な活用や、職員間のオープンな対話が生まれる職場環境の構築、定期的な自己評価の実施を推進する重大な責任を負います。風通しの悪い職場環境が、結果として虐待のリスクを高めることを深く認識する必要があります。

各種基準省令と内閣府令における虐待等の禁止の明確化

改正法の施行に伴い、児童福祉施設の設備及び運営に関する基準や、家庭的保育事業等の設備及び運営に関する基準、放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準等の各施設基準においても、職員がこどもに対して心身に有害な影響を与える行為をしてはならない旨の規定が明確に整備されました。これにより、各事業者は施設の単なる努力目標ではなく、運営基準として法的に虐待防止を遵守する厳格な義務を負うこととなります。運営基準違反は、行政指導や事業停止などの処分の根拠となります。

保育現場における実務対応と通報制度に関する法的留意点

虐待と疑われる事案を発見した場合の対応と通報義務の絶対性

改正法により、虐待を受けたと思われるこどもを発見した者は、保護者であるか職員であるかにかかわらず、速やかに都道府県又は市町村に通報する法的義務を負います。保育所等内で虐待が疑われる事案が発生した場合、まずは施設内で状況を正確に把握し、自治体の担当窓口へ速やかに相談と通報を行う必要があります。

実務上最も注意すべき点は、施設長等に相談し、施設内の話し合いで状況が改善し事態が解決したと自己判断される場合であっても、法律上の通報義務は一切免除されず、速やかな行政への通報が求められるということです。事業者には、事態を隠さないこと、事実について嘘をつかないことという誠実な対応が強く求められます。こどもや保護者への適切なケアを含め、管理者の初動対応の遅れや隠蔽体質は、こどもに大きな不利益を与え続けるだけでなく、施設自体の存続を危うくする致命的なリスクとなります。また、法改正前の施行日以前に生じた事案であっても、施行日以降に通報を受け付けた場合は、所管行政庁は事実確認等の措置を講じる義務があります。

通報者の保護の徹底と公益通報者保護法との連携

通報を行う職員は、施設内で孤立する不安や、管理者から責任を問われる懸念を抱くことが少なくありません。この点について、児童福祉法において、被措置児童等虐待を通告した施設職員等は通告をしたことを理由に解雇その他不利益な取扱いを受けないことが明記されています。

また、公益通報者保護法によっても、公益通報を理由とした降格、減給、退職の強要等の不利益取扱いは厳格に禁止されています。事業者が、通報した職員を特定しようと犯人探しを行ったり、損害賠償請求を行ったりすることは、通報制度そのものを萎縮させるものであり、法の趣旨に著しく反するとガイドラインでも厳しく指摘されています。事業者は、内部通報窓口を整備するとともに、通報者が不利益を被らない環境づくりを法的義務として進める必要があります。

守秘義務と通報の優先関係における法的解釈

地方公務員法等で定められる公務員の守秘義務と、虐待の通報義務の関係についても法的に整理されています。児童福祉法に基づく通報は、法令による正当な行為として位置付けられており、職務上の守秘義務違反や秘密漏示には当たりません。

また、児童福祉法において、通報を受けた自治体の職員に対しては、通報者を特定させる事項を漏らしてはならないという極めて厳格な守秘義務が課されており、通報者の匿名性や安全は法的に保護されます。行政窓口は、匿名希望の通報であっても門前払いすることなく丁寧に対応し、事実確認に必要な情報の収集に努めることとされています。事業者は「外部に漏らすことは守秘義務違反だ」と職員の通報を牽制してはなりません。

個人情報保護法との関係と情報提供に対する事業者の対応

虐待の通報やその後の事実確認の過程において、施設側はこどもや保護者、さらには職員の個人情報を取り扱うことになります。所管行政庁が事実確認のために民間事業者からシフト表や保育日誌などの情報を収集する際、事業者は個人情報保護法の第三者提供の制限の例外に該当するかを検討する必要があります。

同法では、法令に基づく場合や、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合等において、本人の同意を得ずに第三者提供を行うことが認められています。児童福祉法に基づく行政の立入検査等に対して、保育所等がこどもや虐待が疑われる職員の個人情報を提供することは、この法令に基づく場合に該当し、適法に情報提供が可能です。事業者は個人情報保護法を楯にして行政の調査を拒むことはできず、誠実に協力する義務があります。

教員性暴力等防止法との関係と制度の交錯

幼保連携型認定こども園や幼稚園等においては、教育職員等による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律もあわせて適用されます。同法では、児童生徒性暴力等の事実があると思われる場合、学校の設置者等への通報や、設置者による事実確認、被害児童の保護措置が義務付けられています。

性的虐待が発生した場合、本ガイドラインに基づく対応と教員性暴力等防止法に基づく対応の双方が求められることになりますが、発見者が都道府県または市町村へ通報を行うことで、同法に規定する適切な措置をとったものとみなされます。両制度が交錯し複雑になるため、学校の設置者と所管行政庁は平時から密接に連携を図り、いざという時に重複なく迅速に事実確認を行う体制を構築することが強く推奨されています。

市町村等の指導等を踏まえた事後の事業者のフォローアップ

所管行政庁による調査の結果、当該事案が法的に虐待と判断されたか否かにかかわらず、事業者はその事態を重く受け止め、今後のより良い保育に向けた改善計画を策定し、組織全体で取り組む必要があります。不適切な事案が発生した場合、個別の職員の資質のみを責めるだけでなく、その背景にある組織的な課題(職員の配置不足、過度な業務負担、研修体制の不備、風通しの悪さ等)を根本から見直すことが重要です。

また、対象となったこどもや他の園児、関係していない職員の心のケアを最優先で行うとともに、保護者に対して事案の客観的な経緯や今後の再発防止策に関する対応方針を丁寧に説明し、失われた信頼の回復に努めることが事業者の社会的責任として求められます。

所管行政庁の対応プロセスと関連制度の一般化および支援事業

所管行政庁の定義と都道府県および市町村間の緊密な連携

改正法では、各施設や事業に対する指導監督権限を有する行政機関を所管行政庁と定義し、責任の所在を明確化しています。

  • 都道府県知事が所管行政庁となる施設:保育所、一時預かり事業、病児保育事業、認可外保育施設、児童養護施設等の児童福祉施設など。また、幼保連携型認定こども園以外の認定こども園(就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律に基づく施設)についても都道府県が対応します。
  • 市町村長が所管行政庁となる事業:地域型保育事業、乳児等通園支援事業、放課後児童健全育成事業、子育て短期支援事業など。
  • 幼稚園等:公立幼稚園は都道府県の教育委員会、私立幼稚園は都道府県知事が所管します。

なお、指定都市、中核市、児童相談所設置市については、都道府県知事の権限が移譲されている場合、当該指定都市等が所管行政庁となります。施設によって所管行政庁が異なりますが、例えば保育所の場合、都道府県が所管行政庁である一方で、市町村も子ども子育て支援法に基づく指導監督権限を有しています。そのため、都道府県と市町村が情報共有を行い、立入調査時には市町村担当者が同行するなど、行政側の緊密な連携が求められます。

通報の受理と事実確認の実施および立入調査権限

通報を受けた自治体は、速やかにこどもの状況や虐待の内容を把握し、緊急性の判断を行います。こどもの生命や身体に重大な危険が生じるおそれがある場合は、原則として目視によりこどもの安全を確認し、必要に応じて警察への通報を即座に行います。

事実確認においては、関係者への徹底した聞き取り、保育日誌や連絡帳の閲覧、録音データや防犯カメラ映像の確認などが実施されます。児童福祉法に基づき、都道府県は保育所等へ立ち入り、強制的に設備の検査や帳簿書類、カメラ映像等の確認を行う強力な権限を有しています。幼稚園等については立入調査の権限はないものの、学校教育法等に基づく管理権限や行政指導の範囲で厳格な事実確認が行われます。

ガイドラインに基づく虐待の判断プロセス

調査の結果、行われた行為が虐待に該当するか否かの判断は、ガイドラインで示された客観的なプロセスに沿って慎重に行われます。

プロセス1 行為ベースでの検討による即時判断

叩く、蹴る、逆さ吊りにする、性交等の行為は、その意図(しつけのつもりであった等)や状況に関わらず、その行為の事実のみをもって直ちに重大な虐待と判断されます。ここに弁明の余地はありません。

プロセス2 行為の強度と頻度による判断

行為自体は直ちに虐待と言えなくても、例えばこどもを強く引っ張り身体を痛める、毎日嫌がるこどもに無理やり食べさせるなど、過度な強度や執拗な反復がある場合は、その深刻度から虐待と判断されます。

プロセス3 保育士の意図とこどもの状況への影響による判断

こどもを落ち着かせるために短時間別室で一人にするという意図の妥当性や、他の園児の面前で感情的に長時間叱責する等、その背景やこどもへの影響(登園を極度に嫌がるようになる、夜泣きなどの心身に不調をきたす等)を総合的に勘案して判断されます。

虐待と判断された場合の厳格な行政措置と警察連携

所管行政庁は、虐待が事実と認定された場合、保育所等に対して児童福祉法等に基づき、改善勧告や改善命令などの行政指導を行います。悪質なケースや改善が見込まれない場合は事業停止命令や認可の取り消し等の極めて厳格な措置を講じます。また、こども家庭庁等への重大事案の報告も求められます。

さらに、身体的虐待や性的虐待に該当し、暴行罪や不同意わいせつ罪などの犯罪と思料される場合には、刑事訴訟法に基づき、行政として躊躇なく警察へ告発を行う義務があります。事案は行政内部にとどまらず、刑事事件として立件されるリスクを伴います。

事案の透明性を担保する児童福祉審議会等への報告と公表制度

所管行政庁が事実確認や指導等の措置を講じた場合、事案の透明性と客観性を担保するため、速やかに児童福祉審議会等の第三者機関へ以下の事項を詳細に報告しなければなりません。結果的に虐待と認定されなかった事案であっても、事実確認等を行った場合は報告の対象となります。ただし、虐待と認定されなかった職員の個人情報は報告不要です。

  • 施設等の名称、所在地、種別
  • 児童の性別、年齢、その他の心身の状況
  • 虐待の種別、内容、発生要因
  • 虐待を行った施設職員等の氏名、生年月日、職種
  • 所管行政庁が講じた措置の内容
  • 施設等において採られている改善措置の内容

さらに、都道府県知事は、毎年度、域内の虐待の状況等をとりまとめ、ウェブサイトにて広く一般に公表することが義務付けられました。この公表は単なる制裁目的ではなく、地域全体で再発防止の取組に反映させることが最大の目的です。

保育人材確保に向けた支援体制の法定化と地域限定保育士の一般制度化

虐待防止等の保育の質向上のためには、職場環境の改善と保育人材の確保・定着が不可欠です。改正法により、これまで予算事業として実施されていた保育士および保育所支援センターが法定化され、都道府県における広報、職業紹介、研修、就業継続支援等の体制整備が義務付けられました。

また、国家戦略特別区域法に基づく特例であった地域限定保育士制度が一般制度化されました。これにより、保育士不足が特に深刻な都道府県等は、内閣総理大臣の認定を受け、地域試験科目を含む独自の保育士試験を実施できるようになります。地域限定保育士は、登録から3年経過後、1年以上実務に従事した要件を満たせば、全国で働くことができる一般の保育士として登録可能になります。この一般化に伴い、各種施設の運営基準上の保育士の数に、地域限定保育士を含める内閣府令等の整備も行われました。

体制強化を後押しする保育所等虐待防止対策支援事業の創設

国は、各自治体および事業者の体制強化を財政面から支援するため、保育所等虐待防止対策支援事業を新たに創設しました。この事業により、自治体における心理職や弁護士等の専門人材の積極的な活用、虐待対応実務者会議の運営、自治体職員の対応力強化研修が推進されます。また、事業者側にとっても、保育士や施設長等に対するメンタルヘルス・ストレス対策や人権擁護に関する外部研修の実施が財政的に支援される仕組みとなっています。

おわりに

本コラムで詳細に解説いたしましたとおり、令和7年10月施行の改正法により、保育所等における虐待防止のルールは極めて厳格かつ明確なものとなりました。事業者の皆様におかれましては、日々の保育実践の自己評価や職員研修の徹底による未然防止への取り組みはもちろんのこと、万が一の疑わしい事案発生時における行政への迅速な通報体制の構築など、コンプライアンスの強化がこれまで以上に強く求められます。

法改正への対応遅れは、行政処分による事業継続の危機だけでなく、地域の保護者からの信頼失墜という取り返しのつかない事態を招きます。行政の立入調査や改善命令等への適切な対応、ガイドラインに準拠した社内規定の整備、さらには根本的な組織風土の改革において、法的な視点からの専門的なアドバイスが必要な際は、ぜひ許認可とコンプライアンスの専門家である行政書士にご相談ください。施設の適正な運営と、こどもたちの安全な環境づくりを法務の力でサポートいたします。