皆様、こんにちは。当行政書士事務所が各種制度を専門家の視点で解説するコラム連載「こども誰でも通園制度のすべて」へようこそ。

令和8年度(2026年度)の4月を迎え、日本の保育のあり方を根本から変える「こども誰でも通園制度」の全国での本格実施がついにスタートしました。第1回では就労要件を問わずに利用できる「利用者(保護者・こども)」の視点から、第2回では新たなやりがいと現場のリアルな課題に向き合う「事業者(保育施設・保育従事者)」の視点から、この新制度の全貌を解説してまいりました。

連載の最終回となる第3回目は、視野をさらにマクロに広げ、「国がこの制度を作った法的な目的と、これからの保育政策のグランドデザイン」、そして「自治体がこの制度を活用して目指す地域社会の姿」にフォーカスします。

これまで「保育に欠ける(保育を必要とする)こども」のみを対象としてきた日本の保育政策・児童福祉政策が、なぜ今、大きく舵を切ろうとしているのか。長年の課題であった待機児童対策を中心とした時代からどのように変化し、今後社会全体にどのような影響をもたらすのか。制度推進におけるメリットやデメリット、そして未来への期待を含め、行政手続きの専門家である行政書士の視点から徹底的に深掘りしていきます。

目次
  1. 1. なぜ今、国はこの制度を作ったのか?(創設の背景と国の目的)
    1. ① 0〜2歳児の約6割が直面する「孤立した育児」への強い危機感
    2. ② 「こども基本法」と「はじめの100か月の育ちビジョン」の実現
    3. ③ 保育政策のパラダイムシフト:「量の拡大」から「質の向上と全てのこどもの支援」へ
  2. 2. これまでとの決定的な変化:制度のシステムと「権利」の発生
    1. ① 「保護者の都合」から「こどもまんなか(こどもの成長の観点)」への転換
    2. ② 令和8年度の「給付化」が意味する利用する法的権利の発生
    3. ③ 居宅訪問型の導入可能性:アウトリーチ型支援による児童福祉の革新
  3. 3. 自治体がこの制度を活用して目指す地域社会の姿と役割
    1. ① 「ポピュレーションアプローチ」から「ハイリスクアプローチ」へのシームレスな接続
    2. ② 情報の一元化と「こども家庭センター」等との緊密な連携
    3. ③ 地域の実情(待機児童・人口減少)に応じた最適な提供体制の整備
  4. 4. 制度推進におけるメリットとデメリット(課題)
    1. 【社会全体におけるメリット】
    2. 【デメリットと立ちはだかる今後の課題】
  5. 5. これから期待されること(本格実施と目指す未来)
    1. ① ICT活用による圧倒的な利便性の向上と業務効率化(保育DX)
    2. ② 「こどもまんなか社会」の実現に向けた国民の意識変革
  6. おわりに
    1. 【行政書士事務所コラム連載 第3回】国と自治体の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜保育政策の歴史的転換と目指すべき未来の…
    2. 【第2回】事業者(保育施設・保育者)の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜新たな地域支援の形と現場のリアル〜
    3. 【第1回】利用者(保護者・こども)の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜これまでの一時預かりとの違いと未来への期待〜

1. なぜ今、国はこの制度を作ったのか?(創設の背景と国の目的)

国(こども家庭庁)が「こども誰でも通園制度」を創設した背景には、現代の日本社会が抱える深刻な子育て環境の変化と、それに対する強い危機感、そして新たな理念の構築があります。

① 0〜2歳児の約6割が直面する「孤立した育児」への強い危機感

現在、日本の0〜2歳児の約6割(約134万人)は、保育所等の施設に通っていない「未就園児」に該当します。核家族化や地域コミュニティの希薄化が急速に進む中、これらのこどもを持つ子育て家庭の多くが、日中こどもと一対一で向き合う「密室化・孤立化した育児」の中で、誰にも相談できずに強い不安や悩みを抱えています。

これまで、保育所等の児童福祉施設は主に「共働き等で保育を必要とする家庭」に向けた支援を提供してきたため、専業主婦(夫)や育児休業中の家庭は、継続的な専門的支援(保育士等との関わり)につながりにくいという構造的な分断の課題がありました。国は「こども未来戦略」などの重要方針において、この支援の分断を解消し、保護者の働き方やライフスタイルに関わらず、全ての子育て家庭に対する包括的な支援を強化する必要性を強く打ち出しました。

② 「こども基本法」と「はじめの100か月の育ちビジョン」の実現

令和4年(2022年)に成立し、令和5年(2023年)に施行された「こども基本法」は、「全てのこどもの権利を守ること」を基本理念として明確に定めています。これにより、保育を必要とする家庭の支援だけでなく、「全てのこどもに適切な養育や健やかな成長・発達の機会を法的に保障していく」ことが国や自治体の重大な責務となりました。

また、国の有識者会議で提言された、こどもの誕生前から小学校就学前までの期間を指す「はじめの100か月の育ちビジョン」では、こどもが特定の大人との安定した「アタッチメント(愛着)」を安心の土台とし、多様な人やモノ・環境と関わる豊かな「遊びと体験」を通して外の世界へ挑戦していく「安心と挑戦の循環」が極めて重要であるとされています。こども誰でも通園制度は、在宅で育つこどもたちにも、この「安心と挑戦の循環」を社会の責任として保障するための具体的な国の施策なのです。

③ 保育政策のパラダイムシフト:「量の拡大」から「質の向上と全てのこどもの支援」へ

これまでの国の保育政策は、女性の社会進出に伴う「待機児童対策」を中心とした「保育の受け皿(量)の拡大」が長らく最優先課題とされてきました。しかし、国と自治体による保育インフラの整備が進んだことや、想定を超える少子化の影響により、待機児童数は平成29年の約2.6万人から令和6年には約2,500人へと大幅に減少しました。一方で、過疎地域や一部の地方都市などでは保育所の定員充足率が76.2%に低下するなど、施設を持続的に運営すること自体が新たな課題となっています。

国はこうした状況を受け、政策の軸を「待機児童解消」から、「地域の多様なニーズに対応した質の高い保育の確保・充実」と、「全てのこどもの育ちと子育て家庭を切れ目なく支援する取組の推進」へと歴史的な転換を図りました。こども誰でも通園制度は、この新たな保育のグランドデザインの中核をなす中枢事業として位置づけられています。

2. これまでとの決定的な変化:制度のシステムと「権利」の発生

こども誰でも通園制度は、これまで存在していた未就園児向けの支援策(一時預かり事業など)と一体何が違うのでしょうか。法体系やシステム上の大きな変化を解説します。

① 「保護者の都合」から「こどもまんなか(こどもの成長の観点)」への転換

これまでも市町村の事業として「一時預かり事業」は存在していましたが、これは保護者の仕事や通院、介護、リフレッシュなど「保護者の都合により、家庭でのこどもの保育が一時的に不可能になる時間帯に預かる」という保護者支援の事業でした。

一方、こども誰でも通園制度は、「こどもを中心に考え、こどもが年齢に応じた適切な環境で過ごしたり、家庭では得られない同年齢のこどもと過ごす経験をするための事業」として創設されました。利用する際に保護者の就労理由や利用目的は一切問われません。「親のための一時的な託児」から、「こどもの育ちを社会全体で応援し、良質な成育環境を整備する」という「こどもまんなか」の目的に変わった点が、最大のシステム変化と言えます。

② 令和8年度の「給付化」が意味する利用する法的権利の発生

本制度は、令和7年度(2025年度)までは子ども・子育て支援法に基づく「地域子ども・子育て支援事業」として市町村の任意事業の枠組みで試行的に実施されてきましたが、令和8年度(2026年度)からは、同法に基づく新たな「乳児等のための支援給付」として全国一律の法定給付制度へと格上げされました。

単なる「事業」から法律に基づく「給付」に変わることは、法的に極めて重要な意味を持ちます。法定給付化されることで、対象となる要件(0歳6か月から満3歳未満で保育所等に通っていないこと)を満たすこどもであれば、全国どの自治体に住んでいても、等しくこの制度を利用する「法的権利」が生じるのです。

地域の待機児童の有無や自治体の財政状況に関わらず、利用者が希望し要件を満たせば、市町村は必ず保育を提供しなければならない義務を負うため、地域格差がなくなり、水道や電気と同じような日本の新たな必須社会インフラとして定着することになります。

③ 居宅訪問型の導入可能性:アウトリーチ型支援による児童福祉の革新

本制度は原則として施設への「通園」を基本としていますが、医療的ケア児や重度心身障害児、あるいは家庭の複雑な事情で外出が極めて困難なケースに柔軟に対応するため、専門の保育者がこどもの居宅を直接訪問して保育や支援を行う「居宅訪問型」での実施も想定され、運用上認められています。

有識者からも、「日本で初めて全てのこどもに対して制限なくアウトリーチ(訪問支援)できる制度となる歴史的意義がある」と高く評価されています。これまで行政や専門家が介入しづらかった家庭に対して、保育という自然な形で専門職が入り込み、こどもの発達状況や生活環境を確認し、必要に応じて医療や福祉などの関係機関と円陣を組んで家庭を包括的に支える仕組みができることは、日本の児童福祉を次のステージに進める画期的な変化です。

3. 自治体がこの制度を活用して目指す地域社会の姿と役割

国が作った法律や制度の枠組みを地域の実情に合わせて具体化し、運用していく最前線の主体は各自治体(市町村および都道府県)です。自治体は本制度を通じて、どのような地域社会の実現を目指しているのでしょうか。

① 「ポピュレーションアプローチ」から「ハイリスクアプローチ」へのシームレスな接続

自治体にとって本制度の最大の意義は、地域のすべての未就園児を広く対象とする普遍的な支援(ポピュレーションアプローチ)を通じて、児童虐待のリスクが潜む家庭や、特別な支援が必要な家庭(要支援家庭)を早期に発見し、より専門的で集中的な支援(ハイリスクアプローチ)へとシームレスにつなげる強力なセーフティネットを構築できる点にあります。

これまで行政は、在宅で育児をしている家庭の密室化された実態を正確に把握することが困難でした。しかし、この制度により地域の未就園児の多くが定期的に保育施設に通うようになれば、専門職である保育者がこどもの些細な変化(不自然なあざ、極端な怯え、言葉の遅れなど)や保護者の深刻な疲労にいち早く気づくことができます。

② 情報の一元化と「こども家庭センター」等との緊密な連携

本制度では、市町村が利用対象者をシステム上で「認定」する仕組みとなるため、自治体は「誰が対象年齢で、誰が申請しており、どの程度実際に利用しているか」を正確なデータとして一元的に把握できます。

例えば、伴走型相談支援や乳児家庭全戸訪問事業(こんにちは赤ちゃん事業)等を通じて支援が必要と判断された家庭に対して、市町村の担当部署から積極的にこども誰でも通園制度の利用をプッシュ型で勧めたり、逆に、長期間制度を全く利用していない家庭に対して状況確認のアプローチを行ったりすることが可能になります。このように、市町村に設置が進む「こども家庭センター」を中心に関係機関が強固に連携し、支援の網の目からこぼれ落ちる家庭をなくすことが自治体の目指す理想の姿です。

③ 地域の実情(待機児童・人口減少)に応じた最適な提供体制の整備

自治体は、国が示す基準をもとに、地域の実情に合わせて制度の提供体制をデザインし、整備する重い役割を担います。

いまだ待機児童や隠れ待機児童が発生している都市部などでは、既存の就労者向けの保育枠を圧迫しないよう、専用の保育室や専任の保育士を新たに設ける「一般型」での整備を中心に進めることが考えられます。一方で、急激な人口減少により大幅な定員割れが生じている地方部では、保育所等の既存の空き定員を活用する「余裕活用型」を推進し、施設の存続と地域資源の有効活用を図ります。

また、認可保育所だけでなく、幼稚園(満3歳児クラスへのスムーズな接続など)、認定こども園、地域子育て支援拠点、認可外保育施設など、地域の多様な資源を総動員して、地域全体で面としてこどもを支えるネットワークを構築することが首長や行政担当者に求められています。

4. 制度推進におけるメリットとデメリット(課題)

この壮大な保育のグランドデザインを実現するにあたり、国や自治体、そして社会全体にとってのメリットと、今後乗り越えなければならないデメリットや重い課題を整理します。

【社会全体におけるメリット】

① 全てのこどもに「育ちの環境」が平等に保障される社会の実現 障害の有無や保護者の就労状況、世帯所得に関わらず、全てのこどもが質の高い幼児教育・保育にアクセスできる権利が法的に保障されます。健常児と障害や配慮を要するこどもが、身近な地域で日常的に交差しながら共に育つインクルーシブな社会の実現に向けた、極めて大きな一歩となります。

② 孤立した育児の解消と、痛ましい児童虐待の未然防止 社会から孤立しがちな家庭が、保育施設という「地域の専門機関」と日常的につながりを持つことで、保護者の心理的・肉体的な負担(レスパイト効果)が大きく軽減されます。社会全体で子育てを支える機運が醸成され、最悪の事態(虐待等による痛ましい事件)を防ぐ社会的な安全網として機能します。

③ 地域インフラとしての保育施設の維持と多機能化 少子化で定員割れや経営難に悩む地域の保育施設に対し、新たな役割と法的根拠に基づく財源を与えることで、地域の重要なインフラである保育施設を維持し、保育者の高い専門性をより広く地域社会へ還元する(多機能化する)ことができます。

【デメリットと立ちはだかる今後の課題】

一方で、給付化された制度を全国で安定的に運用するためには、国と自治体が解決すべき重い課題が存在します。

① 深刻な保育人材の不足と確保の難しさ 制度を全国民の権利として実施するためには、新たな保育の受け皿とともに、それに従事する質の高い保育人材が必要不可欠です。しかし、現状でも全国的な保育士不足は極めて深刻です。本制度は、一時預かり事業に準拠した厳格な配置基準(職員の半数以上が保育士等の有資格者)が求められますが、短時間・不定期利用という予測しづらいスケジュールに合わせて、適切な人員を安定して確保・配置することは経営上容易ではありません。 これに対し、都道府県を中心とした保育士・保育所支援センターの積極的な活用や、「子育て支援員研修」に本制度のための新コース(地域保育コース)を創設し運用するなど、国を挙げた人材育成・確保策の推進が急務となっています。

② 公定価格(単価)の適切な設定と財政負担のあり方 令和8年度からの給付化に伴い、事業者が安定的に事業を継続・運営できるような「公定価格」の適切な設定が最大の焦点です。こどもの安全確保や事前面談、保護者へのフィードバック対応など、本制度特有の多大な手間やコストに見合った単価が設定されなければ、事業者の参入が進まず、制度が絵に描いた餅になりかねません。国と自治体(都道府県・市町村も一定の費用を負担する)による、十分かつ持続可能な財源確保が不可欠です。

③ 自治体の計画策定負担と広域利用の調整 自治体は、令和8年度の本格実施以降も、「市町村子ども・子育て支援事業計画」に基づき、地域の潜在的なニーズ(量の見込み)を正確に把握し、確保方策をアップデートし続ける必要があります。また、里帰り出産や職場の近くの施設を利用したいといった「広域利用(住民票がある自治体以外の施設利用)」の際の自治体間の煩雑な費用精算や調整ルールの確立など、行政側の実務負担とシステム運用も大きな課題として残されています。

5. これから期待されること(本格実施と目指す未来)

様々な課題を抱えつつも、令和8年度(2026年度)の本格実施を迎え、国と自治体は制度の定着に向けて着実に歩みを進めています。今後、以下のような展開と社会の変化が期待されます。

① ICT活用による圧倒的な利便性の向上と業務効率化(保育DX)

国は、ガバメントクラウド上に「こども誰でも通園制度総合支援システム(通称:つうえんポータル)」を構築し、令和7年4月から順次稼働させています。

これにより、利用者は手元のスマートフォンから24時間簡単に施設の検索、事前面談の申し込み、利用予約・キャンセル、さらには利用後のオンライン決済や電子領収書確認までを一元的に行えるようになります。自治体や事業者にとっても、複雑な予約管理、アレルギーなどの重要な児童情報管理、実績に基づく給付費の請求業務などがデジタル化され、事務負担が大幅に軽減されることが期待されています。テクノロジーの活用(保育DX)により、保育者が事務作業ではなく「こどもと直接向き合う時間」を創出することが国の大きな狙いです。

② 「こどもまんなか社会」の実現に向けた国民の意識変革

本制度の真の目的は、単に行政サービスとして「預かり枠を増やすこと」ではありません。これまで「親個人の責任」として家庭という密室に閉じ込められがちだった子育てを、保育施設や地域社会という「社会に開かれた場」に解放することにあります。

この制度が全国一律のインフラとして定着し、未就園児が日常的に保育施設に通い、地域の人々と関わる風景が日本の当たり前になれば、「こどもは親だけでなく、社会全体で育てるもの」という意識が国民全体に深く浸透していくはずです。

おわりに

全3回にわたり、新たな社会インフラである「こども誰でも通園制度」について多角的に解説してまいりました。

利用者、事業者、そして国・自治体。それぞれの立場によって見え方や直面する課題は異なりますが、目指すゴールはただ一つです。それは、「すべての子どもたちが、生まれ育った環境に関わらず、豊かに育つ権利を保障される社会(こどもまんなか社会)をつくること」です。

令和8年度の全国本格実施を迎え、制度は今まさに大きな一歩を踏み出したばかりです。利用者である保護者の皆様には、この制度を「こどもの世界を広げ、ご自身の心身をケアするための正当な権利」として、気兼ねなく積極的に活用していただきたいと思います。

また、事業者の皆様には、地域社会の新たなセーフティネットを担うという専門職としての誇りを持ちつつ、行政の支援制度(ICT導入補助や設備整備費補助など)を賢く活用し、持続可能な運営体制を構築していただくことを願っております。

当行政書士事務所では、今後も保育施設等の認可・確認手続きや、各種補助金の申請サポートを通じて、事業者様と行政の確実な橋渡しを行い、この素晴らしい制度が地域社会に深く根付くよう専門家の立場から尽力してまいります。保育事業の新たな展開や行政手続きに関するご相談をご検討の際は、ぜひ当事務所までお気軽にお声がけください。

長きにわたる連載をお読みいただき、誠にありがとうございました。