少子化や核家族化が急速に進む現代の日本社会において、子育てを取り巻く環境はかつてないほど大きく変化しています。そのような中、国が新たな子育て支援の歴史的な柱として打ち出したのが「こども誰でも通園制度」です。
本ページでは、行政手続きや制度設計の専門家である行政書士事務所の視点から、令和8年度(2026年度)の全国本格実施(給付化)を迎えた本制度の概要、創設の背景、各立場のメリット・デメリットから、事業者向けの厳密な要件、ICTシステム(つうえんポータル)の詳細な操作フロー、そして障害児や医療的ケア児への対応に至るまで、国が公表しているあらゆる情報を網羅的に深掘りして解説いたします。
第1章 :こども誰でも通園制度の背景と保育政策の歴史的転換 〜「こどもまんなか」のグランドデザイン〜
「こども誰でも通園制度」は、単に新しい子育て支援サービスが一つ追加されたという次元のものではありません。日本のこれまでの保育政策の在り方を根本から変える、歴史的な大転換(パラダイムシフト)を象徴する極めて重要な制度です。
本章では、国がなぜ今この制度を創設するに至ったのか、その背景にある待機児童問題の終焉と人口減少、孤立する育児への危機感、そしてこども基本法等の法的根拠に基づく新たなグランドデザインについて、専門的な視点から深く掘り下げて解説します。
1. 保育政策の歴史的転換:「量の拡大」から「質の向上と全てのこどもの支援」へ
これまでの日本の保育政策は、長年にわたり女性の社会進出を背景とした「待機児童対策」を中心とする「保育の受け皿となる量の拡大」が最優先課題とされてきました。しかし、保育の受け皿整備が強力に推し進められた結果、待機児童数は平成29年の26,081人から、令和6年には2,567人へと大幅な減少を遂げました。
一方で、少子化と人口減少の進行により、過疎地域などを中心に保育所の定員を満たすことが難しくなるという新たな経営的・社会的な課題が浮き彫りになっています。令和6年の保育所等の定員充足率は、都市部で91.6%であるのに対し、過疎地域では76.2%、全国平均でも88.8%にまで低下しています。
この現状を受け、国は保育政策の軸を「待機児童対策を中心とした量の拡大」から、「地域の多様なニーズに対応した質の高い保育の確保・充実」と、「全てのこどもの育ちと子育て家庭を切れ目なく支援する取組の推進」へと大きく転換しました。人口減少下においても持続可能な保育提供体制を確保し、全国どこでも質の高い保育が受けられる社会を目指す上で、地域の保育所等の多機能化の一環として「こども誰でも通園制度」が重要な柱として位置づけられたのです。
2. 「孤立した育児」という現代の深刻な社会課題
制度創設のもう一つの大きな背景が、現代の子育て環境の急激な変化とそれに伴う孤立化です。現在、日本の0〜2歳児の年齢人口から推計される「未就園児(保育所や幼稚園等に通っていないこども)」の割合は、全体の約6割(約134万人)にも上ります。
核家族化が進み、地域コミュニティの中で家族以外の人々に見守られたり、同年齢のこどもたちと日常的に触れ合ったりする機会が極めて得られにくくなっている今日、この約6割のこどもを持つ子育て家庭の多くが、日中こどもと一対一で向き合う「孤立した育児」の中で、誰にも相談できずに強い不安や悩みを抱えています。さらに、問題を抱えていても自らSOSを行政や支援機関に発信できない世帯も存在します。
これまでは「保育を必要とする(就労している等の)家庭」のみが保育所等を利用できる仕組みであり、在宅で子育てをする家庭への継続的な専門的支援は届きにくいという構造的な課題がありました。国はこうした世帯やこどもへの支援をより適切かつきめ細かく行っていくため、保護者の働き方やライフスタイルに関わらない形での普遍的な新たな支援策を必要としたのです。
3. 法的根拠とビジョン:「こども基本法」と「はじめの100か月の育ちビジョン」
本制度の土台には、近年整備された日本の児童福祉に関する重要な法律と国のビジョンが存在します。
・こども基本法の理念 令和4年に成立し令和5年4月に施行された「こども基本法」には、「全てのこどもの権利を守ること」が基本理念として定められています。これに基づき、保育を必要とする家庭だけでなく、保育所等を利用していないこどもを含めた「全てのこども」の育ちを応援し、全ての子育て家庭に対する支援を社会全体で強化することが、国および自治体の責務として明確化されました。
・はじめの100か月の育ちビジョン こどもの誕生前から幼保小接続の重要な時期までの「はじめの100か月」は、生涯にわたるウェルビーイング(心身の幸福)の基盤となる最も大切な時期とされています。令和5年12月に閣議決定されたこのビジョンでは、就園の有無などこどもの置かれた環境にかかわらず、こどもがおとなとのアタッチメント(愛着)を土台として、多様な人やモノ・環境と関わる豊かな遊びと体験を繰り返す「安心と挑戦の循環」を通して成長していくことを、社会全体で支援・応援していく必要性が強調されています。こども誰でも通園制度は、まさにこの循環を、在宅で育つこどもたちにも等しく保障するための具体的な国の施策です。
4. 制度の目的:「親のため」から「こどものため」へのパラダイムシフト
これまでも未就園児向けの預かりサービスとして「一時預かり事業」は存在していましたが、こども誰でも通園制度とはその法的な「目的」が根本的に異なります。
一時預かり事業が、保護者の仕事や通院、リフレッシュ・レスパイト等、「保護者のニーズ(保護者の都合でこどもの保育が不可能になる時間帯に預かること)」に対応するための事業であったのに対し、こども誰でも通園制度は「こどもの成長の観点」から創設されたものです。
利用する際に保護者の理由は一切問わず、「こどもが年齢に応じた適切な環境で過ごしたり、同年齢のこどもと過ごす経験をする」こと自体を目的としています。「保護者の立場からの必要性」に応えるものから、「全てのこどもの育ちを応援し、こどもの良質な成育環境を整備する」ためのものへという、文字通りこどもまんなかの児童福祉政策へとパラダイムシフトが起きたと言えます。
5. 制度上の位置づけと権利への昇華
この壮大なビジョンを実現するため、本制度は法的に強力な位置づけを与えられています。
令和7年度においては、児童福祉法上の「乳児等通園支援事業」として創設され、子ども・子育て支援法における「地域子ども・子育て支援事業」として希望する自治体が実施してきました。しかし、令和8年度からは、子ども・子育て支援法に基づく新たな「乳児等のための支援給付」として全国の自治体で本格実施されることとなりました。
事業から給付制度へと法律上の取り扱いが変わることは、法的に極めて重要な意味を持ちます。給付化されることで、以下の2つの大きな変化が生じます。
・一定の権利性が生じること 対象となる要件を満たすこどもであれば、利用者が利用を希望した際に、市町村は必ず提供しなければならない「権利」となります。 ・全国どの自治体でも共通で実施すること 待機児童の発生有無に関わらず、全国のすべての自治体で実施する義務が生じ、水道や電気と同じような地域格差のない社会インフラとなります。
このように、こども誰でも通園制度は、日本の保育が「共働き家庭を支えるもの」から「すべてのこどもと家庭を社会全体で支えるもの」へと生まれ変わるための、最も重要な国策であると言えます。
第2章 :こども誰でも通園制度の基本概要とシステム 〜具体的な要件と利用の仕組み〜
こども誰でも通園制度は、令和8年度から子ども・子育て支援法に基づく「乳児等のための支援給付」として全国で本格実施されます。本章では、制度の対象者や利用時間、費用に関する厳密なルールから、事業者に義務付けられる事前面談や重要事項説明といった実務的な要件まで、行政書士の視点から詳細に解説します。
1. 制度の対象となるこどもの厳密な要件と「認定」手続き
本制度はすべてのこどもを対象とする理念を持っていますが、実際の利用にあたっては法令に基づき、市町村から「乳児等支援給付認定」を受ける必要があります。
・対象となるこどもの要件 対象となるのは、以下の年齢要件と非在園要件の2つの条件を満たすこどもです。 年齢要件:0歳6か月から満3歳未満(3歳の誕生日の前々日まで)であること。 非在園要件:保育所、幼稚園、認定こども園、小規模保育事業所、家庭的保育事業所、事業所内保育事業所、企業主導型保育施設などに通っていないこと。 なお、無戸籍の児童であっても、市町村に居住している実態が確認できれば対象となります。
・市町村による認定と認定証の交付 利用を希望する保護者は、お住まいの市町村またはマイナポータル等を通じて認定申請を行います。市町村は行政審査を行い、要件を満たしていると認めた場合、乳児等支援給付認定を行い、保護者に対して乳児等支援給付認定証を交付しなければなりません。この行政手続きを経て初めて、制度の利用が可能になります。
2. 利用時間の上限と「経過措置」、費用の仕組み
・月10時間の法的根拠と経過措置 本制度の利用可能時間は、内閣府令において月10時間が上限と規定されています。しかし、本格実施となる令和8年度からのスムーズな移行を考慮し、令和8年度及び令和9年度の2年間は国の経過措置が設けられています。この措置により、自治体の判断(条例)によって、利用時間の上限を月3時間から10時間未満の範囲で設定することが認められています。そのため、全国一律で月10時間フルに利用できるようになるまでには、地域によって段階的な対応がとられる場合があります。
・上限を超えた延長利用の取り扱い 国の給付は、月10時間(または自治体が経過措置で定めた上限時間)までが対象となります。仮に自治体が上限を月3時間と設定している場合、利用者が3時間を超えて利用した部分については国の給付対象とはなりません。ただし、自治体が独自に財源を確保し、国の基準を超えた部分について独自の支援(上乗せ)制度を設けることは妨げられません。
・利用料(費用)の考え方 費用については、国が示す標準額として「こども一人1時間あたり300円程度」とされています。ただし、これはあくまで標準として示されている目安の額であり、全国または市町村単位で一律の金額に設定することが強制されているわけではありません。各事業所が具体的な利用料を規程で設定し、保護者の同意を得て直接徴収する形となります。
3. 利用パターンの種類と、一時預かり事業との違い
本制度における施設の利用形態は、大きく分けて以下の2つのパターン、またはその組み合わせが想定されています。
・定期利用 利用する事業所を限定し、特定の曜日や時間帯を固定して継続的に利用する形態。 ・自由利用(柔軟利用) 利用する事業所や月、曜日を固定せず、保護者の希望や施設の空き状況に応じて不定期かつ柔軟に予約・利用する形態。
従来の一時預かり事業が保護者の都合に対応するものであったのに対し、本制度はこどもの成長のための事業です。そのため、こども誰でも通園制度の枠組みを利用して英語やリトミックといった特定の習い事のみをさせる早期教育の場とすることは、制度の趣旨から外れるため適切ではないとされています。
4. 安全と信頼関係のための必須要件「事前面談」と「重要事項説明」
本制度において、事業者がこどもを受け入れるにあたって法令上非常に重要となるのが、利用開始前の事前面談と重要事項説明の義務です。
・事前面談の義務とオンライン対応 特定乳児等通園支援事業者は、こどもを受け入れる前に、こども及び保護者の心身の状況や養育環境を正確に把握するため、保護者との事前面談を行わなければなりません。この面談は、原則対面が望ましいとされますが、映像及び音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら行う通話(オンライン面談等)も認められています。
・運営規程の明示と重要事項の説明・同意取得 面談を行うにあたっては、あらかじめ運営規程の概要、職員の勤務の体制、費用の事項、その他提供する支援に関する重要事項を記載した文書を保護者に交付して説明を行い、保護者から明確な同意を得ることが義務付けられています。運営規程には、事業の目的や利用定員、営業時間、利用料、緊急時対応や虐待防止措置などを定める必要があります。これらの文書を用いた説明と同意取得(電磁的記録も可)を確実に行うことが、コンプライアンス上極めて重要です。
第3章 :各ステークホルダーにとってのメリットと意義 〜試行的事業の調査結果から見えた真の価値〜
本制度は単なる預かり枠の拡大ではなく、こども、保護者、事業者、そして地域社会全体に波及する多面的な価値を持っています。国が実施した試行的事業の調査研究報告書や研修資料等の最新データをもとに、より専門的かつ実務的な視点から深掘りします。
1. こどもにとってのメリット:安心の基盤と豊かな体験の保障
こども誰でも通園制度は、こどもの育ちを応援することを第一の目的として設計されています。0〜2歳の乳児期・幼児期前期は、特定の大人との信頼関係を基盤に世界を広げていく、心身の未分化で重要な時期です。
国の試行的事業のアンケート結果によると、本制度を利用する意義として8割以上の保育者が、同年齢・異年齢のこども同士で関わり合う機会を得られること、家族以外の大人と関わる機会を得られること、家庭内だけではできないさまざまな遊びを経験できることを挙げています。施設では、こどもの発達過程に応じた安全で落ち着いて遊べるスペースが意図的に構成されており、こどもの自発的な遊びが大きく促されます。
また、保育のプロである保育者からの愛情に満ちた受容的・応答的な関わりにより、こどもは自分が大切にされているという安心感を抱き、他者や社会への信頼感を形成していきます。障害のあるこどもや医療的ケア児に対しても、存在を肯定し、同じように大事にされる経験を提供するインクルーシブな視点が組み込まれています。
2. 保護者にとってのメリット:氷山の水面下にある不安や孤独感の解消
保護者にとってのメリットは、一時的な休息(レスパイト)にとどまりません。在宅育児において保護者が抱えるこどもの発達の悩みなどは氷山の一角に過ぎず、その背景(水面下)には保護者自身の深刻な疲れや自信のなさ、孤独感が隠れていることが少なくありません。
保育者が傾聴し、受容的な態度で思いを受け止めることで、保護者は家族以外の人が気にかけてくれていると実感し、深い安心感を得ることができます。また、家庭では気づかないこどもの成長の姿を保育者から伝えてもらうことで、子育てに対する喜びや親としての自信を取り戻し、笑顔でこどもと向き合うゆとりを取り戻す大きなきっかけとなります。
3. 保育者・事業者にとってのメリット:専門性の発揮と組織力の向上
これまで主に就労家庭を支援してきた保育施設に、地域で孤立しがちな多様な家庭・こどもと関わる機会が生まれます。保育者へのアンケートでも、地域のさまざまな家庭と関わることで自分自身の成長を感じると回答する割合が高く、保育のプロとしての専門性を広く地域に還元できることが職員の新たなやりがいにつながっています。
また、月に数回、数時間という限られた利用の中で安全を確保し適切な保育を行うためには、事業所内での朝礼での情報共有やきめ細やかな連携が不可欠です。こどもをチームで支えるという共通理解と職場倫理の徹底は、結果として施設全体のチームワークや組織としての対応力を大きく向上させる効果をもたらします。
4. 市町村・地域社会にとってのメリット:セーフティネットの真の機能
自治体にとって最大のメリットは、制度を通して地域の潜在的な課題を早期に発見できることです。例えば、これまで行政が把握していなかった医療的ケア児の存在が、本制度の申請をきっかけに明らかになり、適切な支援につながった事例がすでに報告されています。
本制度は、こどもや保護者に虐待の疑いや強い育児不安などの気になる様子が見られた場合、事業所単独で抱え込むのではなく、市町村のこども家庭センターや保健所などの関係機関と速やかに情報共有し、連携して支援にあたる仕組みとなっています。自治体はシステムを活用して利用状況をデータとして把握し、必要な家庭へアウトリーチ(積極的支援)を行うという、極めて強固な地域のセーフティネットを構築することができるのです。
第4章 :事業者向けの参入要件と運営・設備基準 〜行政書士が解説する「認可・確認」の実務と法的要件〜
こども誰でも通園制度は、令和8年度から全国的な給付制度として本格実施されました。事業者にとっては新たな事業展開のチャンスであると同時に、これまで以上に厳密な法的要件やコンプライアンス(法令遵守)が求められる制度でもあります。事業者が安全かつ適法に運営するための実務的義務について専門家の視点から徹底的に解説します。
1. 参入のための法的プロセス:「認可」と「確認」の二段階手続き
本制度を実施するためには、事業者は法令に基づき市町村から厳格な審査を受ける必要があります。給付費の支払いを受けるためには、児童福祉法に基づく認可を受けることに加え、子ども・子育て支援法に基づく特定乳児等通園支援事業者としての確認を受けるという二段階の手続きが求められます。事業者は、施設の所在地を管轄する市町村が国が示す基準に従い定めた条例基準を厳守した上で、運営規程や安全計画を策定しなければなりません。
2. 2つの実施形態(一般型と余裕活用型)の留意点
事業の実施形態は、大きく一般型と余裕活用型に分かれます。
一般型は、本制度のための定員枠を新たに設ける形態です。特に、在園児と同じ空間で保育を行う在園児合同実施の場合、日々の集団や空間が変化することになるため、在園児の生活環境に好ましくない影響が及ばないよう、クラス全体の中での状況を視野に入れた細やかな配慮が求められます。一方、余裕活用型は保育所等において定員に空きがある場合、その空き枠を活用する形態であり、原則として本体施設の基準が適用されます。
3. 人員配置と施設の要件:こどもの安全を担保する基準
一般型で実施する場合、利用するこどもの年齢に応じた厳密な職員の配置(例:乳児おおむね3人に1人、1・2歳児おおむね6人に1人以上で、最低2名以上、うち半数は保育士等の有資格者)が求められます。本制度を利用するこどもたちは分離不安が強い傾向にあるため、こどもが安心して過ごせるよう、できるだけ同じ保育者が関わるなどの体制づくりが重要となります。また、事業者はこどもの人権擁護や虐待防止等のために責任者を設置し、職員に対して継続的に研修を実施するよう努める義務があります。
4. 運営上の絶対的義務:事前面談、同意取得、記録の作成
適法かつ安全な運営のため、事業者には以下の実務手続きが厳格に義務付けられます。
・事前面談の実施と書面等による同意の取得 初回利用前の事前面談は必須です。アレルギーや健康状態を把握するだけでなく、事業所の運営規程や個人情報の取り扱いについて説明を行い、保護者から書面等による同意を得ることが法令上求められます。面談では保護者に共感的に寄り添う姿勢が大切ですが、家庭の事情について踏み込みすぎない配慮も必要です。
・計画の作成と記録の法的意義 こどもの育ちに関する長期的見通しを持った全体的な計画と、個別の指導計画の作成が求められます。日々の保育の記録は単なる事務作業ではなく、こどもの成長と安全を支える証であり、継続的な支援や職員間の共通理解のために活用される極めて重要な法定文書となります。
5. 職場倫理とチームワーク:情報管理の徹底
全ての職員がこどもの最善の利益を最優先し、安全確保や誠実な対応を共通の基準として行動することが職場倫理として求められます。柔軟な利用であっても支援が途切れないよう、当日引き継ぎや次回利用への申し送りの仕組みを明確にし、チームで情報を共有して一貫した支援を実現することが重要です。
また、個人情報の管理は厳格に行う必要がありますが、児童虐待が疑われるなど要支援家庭の可能性があると判断された緊急時には、事業所単独で抱え込まず、速やかに市町村(こども家庭センター)や保健所等の関係機関と情報を共有し、連携して支援を行うことが社会的な責務として求められます。
第5章:特別な配慮が必要なこどもへの対応 〜インクルーシブ保育の実現と居宅訪問型の可能性〜
「こども誰でも通園制度」の最も重要な理念の一つは、「すべてのこどもの育ちを応援する」ことです。これは、障害のあるこどもや医療的ケアが必要なこどもであっても、決して例外ではありません。
本章では、特別な配慮が必要なこどもを地域社会でどのように受け入れていくのか、現場の保育者に求められるインクルーシブな心構えや実務上の留意点、そして本制度の大きな特徴である「居宅訪問型(アウトリーチ支援)」の仕組みについて、専門家の視点から詳細に解説します。事業者がこれらの支援体制を整備することは、地域における高い信頼の獲得と、加算措置を通じた安定的な事業運営にも直結します。
1. 障害のあるこどもを受け入れるための「インクルーシブ」な心構え
本制度において障害のあるこどもを受け入れる際、保育者には特別な技術以上に「こどもの存在そのものを肯定する」心構えが強く求められます。国の有識者ヒアリングでは、保育士等に求められる姿勢として以下のような点が挙げられています。
・存在の肯定とポジティブな視点 障害があることを特別視せず、他のこどもと同様に、一人のこどもとして存在を肯定できることが不可欠です。障害によって「できないこと」に注目するのではなく、こどものポジティブな面を捉える視点が求められます。 ・区別しない関わり 障害のあるこどもと、そうでないこどもの間に線を引かず、区別しないことを意識し、一緒に楽しめる環境をつくることが重要です。 ・インクルージョンの体現 医療的ケア児であってもなくても、同じように大事にされ、人権が守られ、保育士にかわいがられるという「インクルージョン」の視点が不可欠とされています。
例えば、試行的事業に参加した児童発達支援センターの事例では、障害の有無に関わらず個人を尊重した過ごし方となるよう、保育士を中心に遊びの環境を整え、朝の会や絵本、わらべ歌など、発達に合った大人との関わりを大切にする実践が報告されています。
2. 安全な受け入れのための実務的対応と「事前面談」の重要性
障害や発達特性のあるこどもを安全に受け入れるためには、事前の情報収集と環境設定という実務的なプロセスが極めて重要になります。
・丁寧な事前面談による相互理解 初回利用前の事前面談は、単なる手続きではなく、こどもと保護者に寄り添った情報収集の場です。アレルギーの有無や睡眠、食事の様子、好きな遊びといった基本情報に加え、感覚過敏(特定の音や感触への強い嫌悪)の有無や、パニックを起こしやすい状況などを丁寧に聞き取ります。保護者が子育てで困難を感じていることや、家庭状況について聞き取る場合もあり、必要に応じて医療機関の受診や利用できる制度の情報を伝えるなど、面談を相互理解の第一歩とすることが推奨されています。
・特性に応じた環境構成と専門職の連携 関節が脱臼しやすいこどもや、情緒が不安定になりやすいこどもに対しては、安全なスペース(クールダウンできる静かな場所など)を確保するなどの物理的な環境整備が必要です。また、事業所内で対応が難しい場合は抱え込まず、地域の児童発達支援センターや保健師などの専門機関と連携して対応方法を検討する体制づくりが求められます。事業者は、職員が発達障害等に関する専門的な研修を受講できる機会を設けることも重要です。
3. 医療的ケア児への対応とガイドラインの遵守
たんの吸引や経管栄養など、日常的に医療的ケアが必要なこども(医療的ケア児)の受け入れは、本制度においても重要な課題です。
・医師の指示に基づく安全管理 医療的ケア児を受け入れる場合は、主治医が作成した「生活管理指導表」などの指示書に基づき、保護者と事業者が具体的なケアの方法や緊急時の対応について綿密に協議する必要があります。「保育所等での医療的ケア児の支援に関するガイドライン(令和6年)」等の国の指針を遵守し、施設内での安全管理マニュアルを整備することが法務およびリスク管理上必須となります。
・専門職等の配置要件 医療機器の管理や感染リスクへの配慮から、ケアを行う時間帯には、看護師、准看護師、保健師、助産師、または一定の研修(喀痰吸引等研修)を修了した認定特定行為業務従事者を配置することが求められます。
4. 通園が困難なこどもへの革新的アプローチ「居宅訪問型」
本制度の中で特筆すべき革新的な仕組みが、「居宅訪問型の事業形態」です。これは、保育所等に通うことが極めて難しいこどもの自宅へ、保育者が直接訪問して支援を行う(アウトリーチする)形態です。
・想定されるこどもの状態像 具体的には、呼吸機能を補助する気管カニューレの管を自分で取ってしまう恐れがあり常時の見守りが必要なこども、疾患の特性や状態により免疫が極端に弱く外出による感染リスクが高いこども、体力が著しく低下しており外出や集団生活に耐えられないこどもなどが想定されています。
・居宅訪問型の意義 こうしたこどもは日常の大部分を家庭内で過ごしており、保護者の負担は計り知れません。保育者が自宅を訪問してこどもと遊んだり関わったりすることは、こどもにとって家族以外の大人と関わり世界を広げるという本制度の目的を果たす貴重な機会となります。同時に、24時間体制で介護にあたる保護者にとっては、専門家と会話を交わし、数時間でも心身を休める(レスパイト)ための強力な支援となります。なお、居宅訪問型による支援は、こどもの状態が回復・安定した場合には、段階的に通園へと移行できるよう、長期的な見通しを持って行うことが求められます。
第6章:現場の課題と解決に向けた取組・工夫 〜試行的事業と研修データから見えた実践知〜
本制度は、従来の毎日通う保育とは異なり「月に数回の短時間・不定期利用」という特殊な環境で実施されます。そのため、試行的事業の現場からは、こどもが環境に慣れる難しさや、安全管理、保護者対応に関する特有の課題が報告されてきました。
本章では、これらのリアルな課題に対し、現場の保育者がどのように対応し、どのような工夫や組織的取り組み(実践知)が求められているのかを、国の研修ガイドライン等に基づき専門的に深掘りします。
1. こどもの「分離不安」と自我の芽生えに対する受容的関わり
本制度の対象となる0〜2歳のこどもたちは、発達的に分離不安が強く見られ、保護者となかなか離れられないケースが多発します。また、月に数回しか通わないため、場所や人に慣れるまでに長い時間を要するという課題があります。
こどもが安心して環境に関われるよう、できるだけ同じ保育者が関わるなど、こどもが安心して過ごせるような体制づくりが求められます。また、この時期は自己主張が見られ、自我が芽生え、「イヤ」などと言葉や行動で表すようになります。こどもの思いや要求を受け止めてもらうことで、保育者への信頼感につながり、保育者の言葉を受け入れることができるようになるため、否定せずに「受容的」な関わりを心がけることが極めて大切です。
2. リスクを未然に防ぐ「安全計画」の策定と環境構成
日々利用するこどもが入れ替わり、数週間の空白期間にアレルギーや身体の発達状況が大きく変化していることもあるため、安全管理の難易度が非常に高くなるという現場の悩みがあります。
本制度を利用するこどものことを保育者がまだ十分に把握していないことに加え、初めて利用するこどももいることから、安全点検やこどもへの安全指導、訓練・研修などが含まれる「安全計画」の策定は、こども誰でも通園制度でも義務づけられています。特に睡眠時や食事中の誤嚥などによる「窒息」は、どの年齢にも高い確率でみられる事故の一つであり、厳重な注意が必要です。こどもが落ち着いて遊べる安全な環境をつくるうえで、遊びの各コーナーについて、広さや人・物が行き来する経路である動線を適切に設計・配置することが事故防止につながります。
3. 保護者の不安や罪悪感に寄り添う「傾聴と受容」のコミュニケーション
孤立した育児の中で強い不安を抱える保護者や、こどもを預けてリフレッシュすることに罪悪感を覚える保護者に対し、短時間で信頼関係を築くコミュニケーションスキルが求められます。
・「聴き上手」と受容的態度 保護者への丁寧な対応を行うためには、保育者は保護者に積極的に声掛けを行うと共に、保護者が話すときには聴き上手を意識します。保育者は、保護者の話を善い悪いといった評価、審判をせず、純粋に話を受け止める受容的態度をとることが重要です。 ・罪悪感への寄り添いと配慮 こどもと離れることに罪悪感を持つ保護者には、不安な気持ちを受け容れる姿勢を持つよう心がけます。また、事前面談において家庭の事情等について気になることがあっても、保護者とのやり取りでは踏み込みすぎない配慮も必要です。 ・成長の共有 集団や他のこどもとの関わりの中で、こどもの自己主張やこども同士のトラブルが増えることは、こどもの成長の表れであると保護者に伝えます。こどもの小さな変化をしっかりと保護者と共有することで、保護者がこどもの育ちに気づき、養育力の向上につながることが期待されます。
4. 組織の対応力を高める「チームワーク」と「申し送り」の徹底
不定期利用という特性上、一人の保育者だけが情報を抱え込むと、次回の利用時に支援が途切れたり、重大な事故につながったりするリスクがあります。また、虐待等の要支援家庭を発見した際の対応も個人の力量に依存しがちです。
・共通理解と引き継ぎの徹底 職場倫理として、こどもの最善の利益が最も優先されるべきであり、職員はこれを共通理解として行動する必要があります。柔軟な利用が想定される本制度では、支援が途切れないよう当日引き継ぎや次回利用への申し送りの仕組みを明確にすることが重要です。 ・記録の活用とサポート体制 日々の記録は単なる事務作業ではなく、次回利用時の計画作成や、こどもの成長と安全を支える証であり、継続的な支援や職員間の共通理解のために活用されます。職場で情報を共有し、必要に応じた職員によるサポート体制を確認するようにします。 ・組織的な相談・連携体制 こどもの育ちや子育ての心配事について込み入った相談があった場合は、保育者が自己判断せず、速やかに管理職等に報告し情報を共有します。さらに、虐待が疑われるなど要支援家庭の可能性があると判断した場合は、事業所のみで支援を抱え込まず、速やかに市町村(こども家庭センター)や保健所等の関係機関と連携して支援を行う必要があります。
第7章:「こども誰でも通園制度総合支援システム(つうえんポータル)」の活用と実務フロー 〜事務負担軽減と利便性向上の切り札〜
「こども誰でも通園制度」を全国規模で円滑に運営するために、国が強力に推し進めているのがICTの活用です。その中核となるのが、「こども誰でも通園制度総合支援システム(通称:つうえんポータル)」です。
本章では、保護者の利便性を飛躍的に高めると同時に、事業者が抱える予約管理・実績管理・請求業務という膨大な事務負担を軽減するための本システムの詳細な仕様と、実際の利用手順について実務的な視点から深掘りして解説します。
1. システム導入の目的と自治体の判断
こども誰でも通園制度は、月に数回、短時間で、様々なこどもが不定期に利用するという特性上、従来のアナログな電話予約や紙ベースの日誌・請求書管理では、現場の保育者や事務職員が疲弊してしまうリスクがあります。
つうえんポータルは、こうした保育分野のデジタルトランスフォーメーションの推進により、保育者が事務作業ではなくこどもと向き合う時間を確保できるように設計されています。なお、本システムを導入するかどうかの実施判断は各市町村に委ねられていますが、全国的な普及が強く期待されています。
2. 利用者と事業者を結ぶ「利用までの10のステップ」
国は、本システムを活用した具体的な利用手続きの流れとして、以下の手順を示しています。これにより、利用者、事業者、自治体の三者がシームレスにつながります。
- 利用申請:保護者は、お住まいの市町村の窓口やマイナポータル等を通じて申請を行います。
- 申請の受理・審査:自治体は、対象年齢や非在園要件などを審査します。
- 利用認定:審査を通過すると、自治体は乳児等支援給付認定を行い、システム用アカウント等を発行します。
- システム上の利用登録:保護者はシステムにログインし、アレルギーの有無や緊急連絡先などの基礎情報を登録します。
- 事業所の検索・初回面談の申し込み:保護者はシステム上のマップ機能等で施設を探し、事前面談の申し込みを行います。
- 申し込みの受理・面談日の調整:事業者はシステム上で申し込みを受理し、日程を調整して確定させます。
- 面談の実施:施設において原則対面で面談を行い、利用上のルールの確認と同意を得ます。
- 利用予約:面談が完了した施設について、保護者はシステム上のカレンダーから希望日時の予約を取ります。
- 予約の確定:事業者は、人員配置等に問題がないかを確認した上で予約を確定させます。
- 実際の利用:利用当日、施設に設置された2次元バーコード(QRコード)を読み込むことで登降園時刻が記録されます。
3. 事業者側のシステム活用メリットと実務上の工夫
事業者が本システムを導入することで、大きな実務的メリットが得られます。
自園の保育士の配置状況に応じて、システム上に空き枠を柔軟に設定でき、電話対応に追われることなくシステムが自動で予約の重複を防ぎます。また、利用当日の朝に本日利用するこどものリストとアレルギー情報などを一目で確認できるため、安全管理が強化されます。さらに、バーコードによる打刻記録は自動的に利用時間として集計され、月末には市町村に対する給付費の請求書が自動生成されるため、複雑な計算の手間が大幅に削減されます。
4. 市町村(自治体)の役割とデータ活用によるセーフティネット構築
市町村にとっても、つうえんポータルは単なる予約システム以上の価値を持ちます。
システムを通じて管内の利用状況や統計データをリアルタイムで把握できるため、認定は受けているが一度も利用していない家庭などをデータから抽出し、こども家庭センターの保健師などが積極的にアウトリーチ(訪問支援)を行うといった、強力なセーフティネットの構築が可能になります。また、スマートフォン操作に不慣れな保護者が不利益を被らないよう、市町村の窓口や事業所がシステム上で代理予約を行うサポート機能も備わっています。
第8章:令和8年度の本格実施(給付化)に向けた展望と自治体の対応 〜新たな「権利」の発生と制度設計の最前線〜
「こども誰でも通園制度」は、令和7年度(2025年度)までは市町村が任意で行う事業として実施されてきましたが、令和8年(2026年)4月からは、子ども・子育て支援法に基づく全国一律の「乳児等のための支援給付」へと移行し、本格実施されました。
本章では、この「給付化」がもたらす法的意味と、制度の受け皿を準備する自治体に課せられた重い義務と実務対応について深掘りして解説します。
1. 法的性質の大転換:「事業」から利用する「権利」の発生へ
本格実施以降、本制度は対象となる全てのこどもの保護者に対し、乳児等のための支援給付を受ける法的な権利を生じさせます。
これまでの一時預かり事業などは自治体の判断に委ねられる部分が大きくありましたが、本制度は要件を満たす保護者から申請があった場合、市町村は必ず審査のうえ認定を行わなければならなくなります。市町村の都合で一部の期間は認定を行わないといった独自の制限を設けることは許されません。また、市町村は自らの区域内にある事業所に対し、他の市町村に居住する者の利用を認めないとする権限を持たなくなります。
2. 市町村の必須実務:事業計画への位置づけと「代用計画」の特例
全ての対象児童が制度を利用できるよう、市町村は明確な受け皿の整備計画を立てる義務があります。
市町村は、市町村子ども・子育て支援事業計画の中に、新たに乳児等通園支援の量の見込み(ニーズ)と、それに向けた提供体制の確保方策、そしてその実施時期を必須記載事項として定めなければなりません。事業計画の変更手続きが困難な市町村への暫定的な代替措置として代用計画の策定も認められていますが、その場合でも地方版子ども・子育て会議等での意見聴取を実施するなどの適正な法的手続きが求められます。
3. 地域の実情に応じた提供体制(受け皿)の整備戦略
国は本制度の整備にあたって、必ずしも保育所のみを中心とする必要はなく、地域の実情に応じた資源の活用を求めています。
待機児童が生じている都市部などでは、既存の通常保育の受け皿を圧迫しないよう、施設内に専用室を設ける一般型などの定員外での整備を中心に行うことが考えられます。一方で、人口減少や定員割れが進む地域では、保育所等の定員充足率が低下している施設の空き定員を積極的に活用する余裕活用型を推進することで、施設の多機能化と維持を図りながら実施を進めることが推奨されています。
4. 自治体の条例制定要件と財政(予算)の枠組み
事業者が制度に参入するための法的ルールづくりと、事業を持続可能にするための財源措置も、自治体の急務となります。
市町村は国が示す基準に従い、特定乳児等通園支援事業の設備及び運営に関する基準と認可基準を定めた条例を制定しなければなりません。この条例制定は、民間事業者が参入せず公立施設のみで実施する場合であっても必須となります。また、給付に要する費用の負担割合は法律で定められており、国が4分の3、都道府県と市町村がそれぞれ8分の1を負担する形となります。
第9章:制度の本格実施に伴う実務ハードルと法務対応
令和8年4月1日の本格実施を迎え、本制度は素晴らしい理念を持つ一方で、事業者が参入・運営していくためには、これまで以上に厳格な法的要件のクリアと複雑な行政手続きが求められます。
本章では、制度の本格実施に伴って事業者が直面する法務・実務上のハードルについて、国の最新法令やガイドラインに基づき深掘りして解説します。
1. 複雑な「認可・確認」手続きと、条例の「経過措置」への対応
事業者が本制度を実施して給付費を受け取るためには、児童福祉法に基づく認可と、子ども・子育て支援法に基づく特定乳児等通園支援事業者としての確認という二段階の手続きが必要です。
実施にあたり各市町村は運営基準条例等を独自に定める義務がありますが、条例の制定が間に合っていない自治体も想定されます。これに対し国は、国の内閣府令で定める基準を市町村の条例基準とみなす経過措置を政令で定めています。しかし、この経過措置は運営基準には適用されるものの、認可基準には適用されないなど、法的な取り扱いが非常に複雑となっています。
2. 法令遵守を徹底する「運営規程」と「重要事項説明・同意」の整備
適法な施設運営の根幹となるのが、各種規程や契約書面の整備です。
特定乳児等通園支援事業者は、法令に基づき、事業の目的や提供する支援の内容、職員体制、利用料、虐待防止措置などを網羅した運営規程を必ず定めておかなければなりません。また、こどもを受け入れる前の事前面談時には、運営規程や重要事項を記載した文書を交付して説明し、保護者から書面等による同意を得る必要があります。なお、これらの記録や同意書については、書面に代えて電子データでの作成・保存を行うことが法的に認められています。
3. 質の向上とリスク管理:「第三者評価」と「安全計画」
本制度を実施する施設には、定期的に外部の者による評価(第三者評価)を受けてその結果を公表し、常にその改善を図るよう努めなければならないという努力義務が新たに課されています。
また、不特定多数のこどもが不定期に利用するという特性上、アレルギー対応や睡眠中の事故防止は極めて重要であり、法令においても事故の発生や再発を防止するための安全計画等の措置が厳格に定められています。
4. 安定した事業継続のための「財源確保・給付費申請」
本制度の給付費は、確実な財源措置が行われます。一方で、事業者が設備資金の借入を行う際の明細書の作成や、医療的ケア児・要支援家庭を受け入れた際の各種加算を漏れなく算定・請求するためには、人員配置要件などの細かいルールを正確に理解しておく必要があります。
おわりに 〜日本の新たな子育てインフラ、こどもまんなか社会の実現に向けて〜
全9章にわたり、「こども誰でも通園制度」の全貌から実務的な運用、現場の課題、そして将来のビジョンまでを網羅的に解説してまいりました。
本制度は、単なる預かり保育の拡充ではありません。長年の待機児童対策を中心とした時代を経て、日本の保育政策が「すべてのこどもと家庭を社会全体で支える」という新たなステージへ進むための歴史的なパラダイムシフトです。保護者の就労要件を問わず、こどもの成長を第一に考えたこの制度は、孤立しがちな現代の子育て環境に光を当て、誰もが取り残されないインクルーシブな地域社会を構築する強力なセーフティネットとなります。
一方で、制度を最前線で支える事業者の皆様や自治体には、これまでにない高度なコンプライアンスや、複雑な認可・確認手続き、そしてICTシステム(つうえんポータル)を活用した業務のアップデートなど、多くの実務的な対応が求められます。こどもが環境に慣れるまでの分離不安への丁寧な関わりや、医療的ケア児等の受け入れを含む安全計画の徹底など、現場に求められる専門性と責任は決して軽いものではありません。
しかし、それらの課題を乗り越えた先にあるのは、「すべての子どもたちが、生まれ育った環境に関わらず、豊かに育つ権利を保障される社会」の実現です。令和8年度(2026年度)の全国一律での給付化を迎え、この制度は国民の正当な権利として、また地域に不可欠な社会インフラとして本格的に動き出しました。
こどもたちの笑顔と健やかな成長を守り、保護者が孤独を感じることなく安心して子育てに向き合える「こどもまんなか社会」を日本全国に築いていくために。本ページで解説した内容が、制度を利用される保護者の方々、そして現場を支える事業者や自治体の皆様の理解を深め、これからの新たな児童福祉の円滑な運用の一助となれば幸いです。
