ドローンをビジネスや趣味で活用する際、避けて通れないのが「飛行許可・承認」の手続きです。その中でも、多くのパイロットが利用するのが「包括申請(ほうかつしんせい)」です。
「一度の申請で1年間、日本全国どこでも飛ばせる」という便利な制度ですが、実は「包括申請さえあればどこでも自由に飛ばせる」というのは大きな誤解です。2022年の免許制(国家資格)開始以降、ルールはさらに細分化されています。
本記事では、ドローン専門の行政書士が、国土交通省の最新情報をベースに、包括申請の仕組みから「落とし穴」、そして確実に許可を得るための手順を詳しく解説します。
1. そもそもドローンの「包括申請」とは何か?
ドローンの飛行許可申請には、大きく分けて「個別申請」と「包括申請」の2種類があります。
個別申請と包括申請の違い
- 個別申請: 「いつ・どこで・誰が・どの機体で」を特定して申請します。特定のイベント撮影や、高圧線付近などリスクの高い場所での飛行に用いられます。
- 包括申請: 飛行の期間(最大1年間)と範囲(例:日本全国)をまとめて申請する方法です。
包括申請の最大のメリット
包括申請のメリットは、何といっても「機動力」です。 例えば、点検業務や空撮案件が急に決まった際、その都度申請を出していては10開庁日(約2週間)の審査待ちで間に合いません。包括申請を済ませておけば、法律の範囲内で即座に対応が可能になります。
2. 2026年現在、包括申請で「できること」と「できないこと」
ここが最も重要なポイントです。包括申請は万能ではありません。
包括申請の対象となる「特定飛行」
以下の飛行形態のうち、リスクが比較的低いとされる「カテゴリーII」の一部が包括申請の対象となります。
- 人口集中地区(DID)の上空
- 人または物件から30m以内の距離での飛行
- 夜間飛行(※条件あり)
- 目視外飛行(※条件あり)
これらは「日本全国」を対象に包括申請が可能です。
【重要】包括申請では「できない」飛行(個別申請が必須)
以下のケースは、包括申請の枠組みには入りません。必ず「個別」に場所と日時を指定した申請が必要です。
- 空港周辺での飛行
- 高度150m以上の上空
- 催し物(イベント)上空での飛行
- 危険物の輸送・物件投下
- 緊急用務空域(災害時などに指定される区域)
- 第三者の上空を補助者なしで飛ばす「レベル4飛行」
また、2026年現在の運用では、「夜間の目視外飛行」を包括申請で行うことは非常に困難(原則、個別申請)とされています。夜間にFPV(ゴーグル着用)で飛ばしたい場合は、場所を特定する必要があることに注意しましょう。
3. 包括申請に必要な「3つの柱」:機体・操縦者・マニュアル
申請を通すためには、国土交通省が定める基準をクリアしなければなりません。行政書士がチェックする「3大要素」を解説します。
① 機体の登録と性能(リモートIDの義務化)
まず、大前提として機体が「登録済み」である必要があります。
- 登録記号の表示: 機体に「JU」から始まる番号を表示すること。
- リモートIDの搭載: 2022年6月以降、原則としてすべての機体にリモートIDの搭載が義務付けられています(内蔵型、または外付け)。
- 機体認証の有無: 国家資格(技能証明)を活用して申請を簡略化する場合、機体認証(第一種・第二種)が必要になるシーンが増えています。
② 操縦者の能力(国家資格 vs 民間資格)
2026年現在、ドローンの国家資格(二等・一等無人航空機操縦士)の普及が進んでいます。
- 二等技能証明を保持している場合: DIPS2.0(申請システム)での入力が大幅に簡略化され、審査もスムーズです。
- 資格がない場合: 依然として申請は可能ですが、「10時間以上の飛行経歴」や、夜間・目視外それぞれの飛行実績を証明する書類作成が求められます。
③ 飛行マニュアルの選択
申請時には「どのような安全策を講じるか」を記した運用マニュアルを添付します。 多くの人は国土交通省が用意した「航空局標準マニュアル」を使用します。標準マニュアルは改正を重ねており、対応できる状況が以前よりも大幅に増えています。それでも個別のケースでは独自マニュアルが必要なケースもまだまだありますので、お困りの際は行政書士にご相談下さい。
4. DIPS 2.0を使用した申請の実務フロー
現在、申請はすべてオンラインシステム「DIPS 2.0(Drone/UAS Information Platform System)」で行います。
ステップ1:アカウント作成と機体・操縦者登録
まずはログインし、飛ばす機体のシリアルナンバーや、操縦者の情報を紐付けます。
ステップ2:飛行概要の入力
「飛行させる場所」の項目で、包括申請の場合は「特定の場所・経路で飛行しない」を選択します。 次に「日本全国」を選択しますが、ここで「DID」「30m以内」「夜間」「目視外」など、必要な項目にチェックを入れます。
ステップ3:飛行詳細と安全対策
機体の性能(プロペラガードの有無など)を入力します。 特に「夜間飛行」を申請する場合、機体に灯火(LED)がついているか、または機体全体が明るく照らされている必要があります。
ステップ4:審査と補正
送信後、航空局(または空港事務所)による審査が行われます。 記載漏れや矛盾があると「補正指示」が戻ってきます。行政書士を介さない個人申請で最も時間がかかるのが、この「補正のやり取り」です。
5. 包括申請の「隠れた制約」と法律の壁
「日本全国の許可を取ったから、どこでもOK!」と意気揚々とドローンを持ち出すのは危険です。航空法以外にも、ドローンを縛る法律はたくさんあります。
包括申請があっても飛ばせないケース
- 小型無人機等飛行禁止法: 国会議事堂、皇居、自衛隊施設、原子力発電所などの周辺は、包括申請があっても絶対に飛行禁止です。
- 条例: 東京都の都立公園や、一部自治体の河川敷など、自治体が独自に禁止している場所があります。
- 民法(所有権): 他人の家の真上や、私有地(寺社仏閣、観光地など)で飛ばすには、土地所有者の同意が必要です。
- 道路交通法: 道路から離着陸する場合や、低空で道路を横断する場合は、道路使用許可が必要になることがあります。
包括申請はあくまで「航空法」の許可に過ぎない、という点を肝に銘じておきましょう。
6. 許可取得後の義務:飛ばして終わりではない
無事に許可証が発行されても、義務は続きます。これらを怠ると、次回の更新ができなくなるだけでなく、罰則の対象にもなります。
① 飛行計画の通報
飛ばす前に、DIPS 2.0上で「いつ・どこを飛ばすか」を登録する義務があります。これは他のドローン操縦者との衝突を避けるための仕組みです。
② 飛行日誌の作成
- 飛行記録: 毎回の飛行時間、場所、目的を記録。
- 日常点検記録: 飛行前の点検内容。
- 定期点検記録: 一定時間ごとのメンテナンス記録。 これらは紙またはデジタルデータで備え付けておく必要があり、警察や航空局から提示を求められることがあります。
③ 事故報告の義務
人との接触や機体の紛失、火災などが発生した場合は、速やかに国土交通省へ報告しなければなりません。
7. なぜ行政書士に依頼するメリットがあるのか?
「自分でできる」と思われがちな包括申請ですが、プロに依頼する価値はどこにあるのでしょうか。
- 「独自マニュアル」の作成ができる 標準マニュアルでは許可が通らないケースでも、業務形態に合わせた最適なマニュアルを構築し、許可を通します。
- 補正対応のスピード 専門用語が飛び交う審査官とのやり取りをすべて代行するため、最短期間で許可証を手にできます。
- 関連法規のコンサルティング 「この場所で飛ばしたいが、航空法以外に何が必要か?」という多角的なアドバイスが可能です。
- 更新忘れの防止 1年間の有効期限が切れる前に通知し、スムーズな更新手続きをサポートします。
8. まとめ:正しい知識がドローンビジネスを加速させる
ドローンの包括申請は、業務の幅を広げるための「強力な武器」ですが、同時に「正しい運用」という重い責任も伴います。 2026年現在、空の交通整理はますます厳格化されています。システム(DIPS 2.0)の使い方を覚えるだけでなく、その裏側にある法律の意図を理解することが、プロのパイロットへの第一歩です。
最後に一言: ドローンの法律は「安全」のためにあります。包括申請を「面倒な手続き」ではなく、「空の安全を守るためのライセンス」と捉え、クリーンで安全なドローンライフを送りましょう。
「自分のケースは包括申請で大丈夫?」「独自マニュアルが必要?」など、不安な点がある方は、ぜひ一度ドローン専門の行政書士へご相談ください。