皆様、こんにちは。当行政書士事務所が各種制度を専門家の視点で解説するコラム連載「こども誰でも通園制度のすべて」令和8年度(2026年度)の4月を迎え、いよいよ全国での本格実施がスタートした本制度について、多様な視点から深掘りしていく本企画。第1回目では「利用者(保護者・こども)の視点」から、就労要件を問わずに利用できるメリットや、ICTシステムを活用した利便性について解説いたしました。

連載第2回目となる今回は、制度の受け手であり、実際に最前線でこどもたちと向き合う「事業者(保育施設・保育者)の視点」にフォーカスします。

国が強力に推進するこの新しい保育制度は、保育の現場にどのような変化をもたらすのでしょうか。事業者として参入するための行政手続きや法的要件、システム導入、そして大きなやりがいといったメリットから、現場が直面している人員配置や安全管理に関するリアルな課題(デメリット)、今後の経営への影響まで、徹底的に解説いたします。保育事業の経営者様や現場の保育従事者の方々にとって、今後の持続可能な事業運営のヒントになれば幸いです。

目次
  1. 1. 制度の仕組みと事業者が参入するための行政手続き・要件
    1. ① 対象となる施設と「認可・確認」の2段階手続き
    2. ② 実施形態:「余裕活用型」と「一般型」
    3. ③ 厳格な職員配置基準と設備基準
  2. 2. これまでの「一時預かり事業」からの歴史的な大転換
    1. 「保護者の都合」から「こどもの育ちの法的保障」へ
  3. 3. 事業者・保育従事者にとってのメリットと社会的意義
    1. ① 地域社会のセーフティネット、子育て支援拠点としての存在意義の拡大
    2. ② 保育者の専門性の発揮と大きなやりがい
    3. ③ 定員割れ時代における人材確保と事業継続の可能性
  4. 4. 現場が直面するリアルな課題とデメリット
    1. ① こどもが環境に慣れるまでの負担(分離不安)と在園児への影響
    2. ② 利用間隔が空くことによる安全管理の難しさ
    3. ③ 人員配置と財政面(給付金・補助金)のギャップ
    4. ④ 事務負担の増大と要支援家庭への対応の不安
  5. 5. 課題解決に向けた工夫とICT化(つうえんポータル)への期待
    1. ① 事前面談の徹底と「親子通園」の戦略的活用
    2. ② 「つうえんポータル」による圧倒的な事務負担の軽減
  6. 6. 今後期待されること(令和8年度の本格実施を迎えて)
    1. ① 「公定価格」の設定による経営基盤の安定化
    2. ② 専門性向上のための新たな「研修体制」の拡充
    3. ③ 居宅訪問型など「アウトリーチ型」支援への展開
  7. おわりに
    1. 【行政書士事務所コラム連載 第3回】国と自治体の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜保育政策の歴史的転換と目指すべき未来の…
    2. 【第2回】事業者(保育施設・保育者)の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜新たな地域支援の形と現場のリアル〜
    3. 【第1回】利用者(保護者・こども)の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜これまでの一時預かりとの違いと未来への期待〜

1. 制度の仕組みと事業者が参入するための行政手続き・要件

まず、事業者として「こども誰でも通園制度」を適法に実施するために必要なシステム環境と、クリアすべき法的要件について整理します。

① 対象となる施設と「認可・確認」の2段階手続き

本制度は、多様な主体の参画を認める観点から、実施できる施設を厳格に限定していません。保育所、認定こども園、小規模保育事業所、家庭的保育事業所、幼稚園、地域子育て支援拠点事業所、企業主導型保育施設、そして一定の基準を満たす認可外保育施設や児童発達支援センターなど、地域の様々な子育て支援施設が実施主体となることが想定されています。

ただし、事業者の独自の判断で勝手に事業を始められるわけではありません。事業者は、国が定めた「乳児等通園支援事業の設備及び運営に関する基準(設備運営基準)」に基づき、各市町村が制定する条例の基準を満たし、市町村長から「認可」を受ける必要があります。さらに、令和8年度からは子ども・子育て支援法に基づく給付制度(乳児等のための支援給付)となったため、法定給付の対象施設として市町村から「確認」を受けるという、厳密な2段階の行政手続きが求められます。

② 実施形態:「余裕活用型」と「一般型」

事業の実施方法には、事業者の施設規模や運営方針に合わせて、大きく分けて以下の2つの形態が用意されています。

・余裕活用型 少子化による定員割れなどで生じた、保育所等における既存の「空き定員の枠」を活用して受入れを行う形態です。日常的な在園児の生活空間の中で、無理のない空き枠の範囲内で新しいこどもを受け入れるため、施設側の初期投資を抑えやすい特徴があります。

・一般型 本制度を利用するこどものために、利用定員を別に設けて受入れを行う形態です。これには、在園児と合同で保育を行う方法と、専用の保育室を設けて本制度を利用するこどもだけで集中的に保育を行う(専用室独立実施)方法があります。より積極的な事業展開を目指す法人に適しています。

③ 厳格な職員配置基準と設備基準

経営者にとって最も気になる職員配置基準ですが、「一般型」の場合は、現行の一時預かり事業と同様の厳格な基準が適用されます。具体的には、乳児おおむね3人につき1人以上、1歳以上満3歳未満はおおむね6人につき1人以上の保育従事者を配置し、かつそのうち「半数以上を保育士(国家資格保有者)」とする必要があります。保育士以外の職員についても、子育て支援員研修等の修了者であることが求められ、質の担保が図られています。一方、「余裕活用型」の場合は、各施設が本来遵守すべき配置基準に従って対応することが基本となります。

2. これまでの「一時預かり事業」からの歴史的な大転換

これまでも、保育所に通っていない未就園児を預かる「一時預かり事業」は存在していましたが、事業者の視点から制度設計を読み解くと、こども誰でも通園制度は保育の「目的と性質」において、一時預かり事業からの歴史的な大転換を意味しています。

「保護者の都合」から「こどもの育ちの法的保障」へ

従来の一時預かり事業は、保護者の就労、通院、介護、あるいはリフレッシュなど、「何らかの理由でこどもの保育が家庭で不可能になる時間帯にこどもを預かる(保護者のニーズに直接的に対応する)」ことを主目的とした事業でした。

対して、こども誰でも通園制度は、児童福祉法や改正子ども・子育て支援法の理念に基づき、「全てのこどもの育ちを社会全体で応援し、こどもの良質な成育環境を法的に整備・保障する」ことを目的としています。利用の入り口において保護者の理由は一切問われず、こども自身が同年齢のこどもと関わり、家庭密室では得られない豊かな経験をすること自体に主眼が置かれています。

そのため、事業者を支える現場の保育者には「単なる安全な託児」ではなく、「保育所保育指針」等を踏まえた高度で専門的な保育の実践が求められます。こどもの発達に応じた長期的な見通しを持った「全体的な計画」や「個別計画」を作成し、適切な指導計画のもとに保育の記録(日誌や児童票など)を残すことが求められる点で、これまでの預かり事業とは業務の質と責任の重さが大きく異なります。

3. 事業者・保育従事者にとってのメリットと社会的意義

新たな事務負担や対応の難しさが懸念される一方で、本制度は事業者や現場で働く保育者にとって、これまでにない大きなメリットと社会的な意義をもたらす可能性があります。

① 地域社会のセーフティネット、子育て支援拠点としての存在意義の拡大

事業者にとって最大の意義は、地域社会における「頼られる福祉拠点」としての役割がより一層深化することです。これまで保育所は主に「共働き等で保育を必要とする家庭」に向けた限定的なサービスを提供してきましたが、本制度の実施により、在宅で子育てをする地域の家庭の多くと日常的な接点を持つことになります。

これにより、孤立感や育児不安を抱える保護者を早期に支援したり、児童虐待の未然防止や要支援家庭(特定妊婦や要保護児童など)の早期発見・関係機関への接続といった、地域の最前線のセーフティネットとしての機能を果たすことが期待されます。社会資源として地域に広く開かれた施設となることは、結果として事業者としてのブランド価値や社会的信用力の向上に直結します。

② 保育者の専門性の発揮と大きなやりがい

現場で活躍する保育者にとっても、これまで接する機会の少なかった「在宅子育て家庭」と深く関わることは、自らが培ってきた専門性をより広く地域に還元し、発揮する絶好の機会となります。

家庭での孤立した育児に悩み、親としての自信を失っている保護者に対して、保育のプロフェッショナルとしての客観的な視点から「今日はこんなことができるようになりましたよ」「お友達におもちゃを貸してあげられましたよ」と、こどもの新たな一面やポジティブな成長の姿を直接伝えることができます。

実際の試行的事業の現場からも、「お迎えの際にこどもの様子を伝えると、保護者の表情がパッと明るくなる。それが保育者としてのやりがいにつながる」「たかが月10時間程度の利用でも、回数を重ねるごとにこどもが環境に慣れ、お友達と関わるようになる成長の姿を見られ、大きな喜びを感じる」といった肯定的な声が多数寄せられています。

③ 定員割れ時代における人材確保と事業継続の可能性

法人運営・経営的な視点も見逃せません。現在、急速な少子化の進行により、利用するこどもが減少し、認可定員を満たすことが難しくなりつつある保育施設が全国的に増加しています。

こども誰でも通園制度に参入することで、キャリアを重ねた高い専門性を持つベテラン保育者などの貴重な人材をリストラ等で手放すことなく、新たな支援事業の領域に配置転換し、事業を継続・多角化させていく可能性が広がります。また、本制度の利用をきっかけに、まずは園の雰囲気や保育方針を地域住民に知ってもらい、結果的に保護者の就労開始等に伴う通常保育(1号・3号認定)の正規入園につながったという事例も多数報告されており、将来的な園児確保(マーケティング)の重要な入り口としても機能し得ます。

4. 現場が直面するリアルな課題とデメリット

一方で、国の新しい取り組みを最前線で受け止める現場からは、深刻な課題やデメリット、そして強い疲労感に関する声も上がっているのが事実です。行政書士の視点からも、こうした現場の課題は制度の持続可能性を左右する重要なポイントと捉えています。

① こどもが環境に慣れるまでの負担(分離不安)と在園児への影響

毎日継続して通園する在園児とは異なり、本制度の利用は「月10時間」という限られた上限枠内であり、月に数回の単発的、かつ短時間の利用にとどまるケースがほとんどです。そのため、こどもが施設の環境や担当保育者に慣れるまでに非常に長い時間を要し、利用のたびに保護者と離れる強い不安(分離不安)から、預かり時間中ずっと激しく泣き続けてしまうことが多々あります。

泣き続けるこどもの対応に多くの時間と労力が割かれるだけでなく、「その泣き声に刺激されて在園児まで不安定になる」「通常保育を利用しているこどもへの人的な対応が一時的に手薄になってしまう」といった、既存の在園児の生活環境への好ましくない影響を懸念する声が現場の保育者から強く上がっています。

② 利用間隔が空くことによる安全管理の難しさ

安全管理面でも本制度特有の難しさがあります。前回の利用から数週間空いて次の利用となる場合、その間に乳幼児の発達状況が大きく変化していることがよくあります。特に0歳から1歳児においては、離乳食の進み具合(食べたことのある食材の増加や形態の変化など)や、食物アレルギーの状況が変化している可能性が高く、当日の健康状態と併せて、利用のたびに保護者から細かく状況を聞き取る必要があります。

また、睡眠中のSIDS(乳幼児突然死症候群)や窒息、食事中の誤嚥といった重大事故を絶対に防止するためにも、日々利用するこどもの顔ぶれが変わる流動的な環境下では、職員間での緻密な情報共有と監視体制(安全計画の策定と徹底)に通常以上の神経を使うことになります。

③ 人員配置と財政面(給付金・補助金)のギャップ

試行的事業の段階から多くの事業者が直面しているのが、財政的な課題です。「制度の目的を達成し、安全を担保するためには、直接的なこどもへの対応に加えて、事前面談、日々の細やかな引き継ぎ、記録の作成、安全管理上の動線確認などが必要であり、法令上の配置基準を上回る手厚い人員配置が現場感覚としては必須である」という意見が多数を占めています。

しかし、「専任の保育士を配置しても、予約が埋まらなければ空き時間となり人件費だけがかさむ」といった切実な声があり、給付費のみで事業単独の採算を合わせることの難しさに直面している経営者は少なくありません。

④ 事務負担の増大と要支援家庭への対応の不安

事前面談の日程調整、利用登録の手続き、毎月の利用希望の調整、急なキャンセルへの対応、料金の徴収といった細々とした事務作業が、ただでさえ多忙な現場の保育者の大きな負担となっています。

さらに、児童虐待の疑いがある家庭や、発達に障害があるこども、医療的ケア児などの「特別な配慮が必要なこども」の利用申し込みがあった場合、施設単独での受け入れ判断や対応には限界があります。専門知識の不足や、市町村の子育て支援部署・児童相談所等との連携体制が十分に構築されていないことへの不安が、現場の心理的ストレス要因となっています。

5. 課題解決に向けた工夫とICT化(つうえんポータル)への期待

これらの山積する課題に対し、現場のたゆまぬ工夫と、国が主導するシステム整備によって解決を図る動きが本格化しています。

① 事前面談の徹底と「親子通園」の戦略的活用

安全管理のリスク低減とこどもの心理的不安解消のため、初回利用前の「事前面談」が必須とされています。ここでアレルギー情報やこどもの特徴、家庭での様子を丁寧に聞き取ります。また、分離不安が極めて強いこどもに対しては、環境に慣れるまでの一定期間、保護者と一緒に施設で過ごす「親子通園」を事業所の判断で取り入れることが認められており、こどもと保護者双方に安心感を持たせる工夫として有効に機能しています(ただし、こどもの自立を促す制度趣旨から、親子通園が長期にわたって継続することは推奨されていません)。

② 「つうえんポータル」による圧倒的な事務負担の軽減

膨大な事務負担の課題に対しては、国が構築し令和7年度(2025年度)から稼働している「こども誰でも通園制度総合支援システム(通称:つうえんポータル)」の活用が強力な解決策となっています。

このシステムにより、利用者はスマートフォンからリアルタイムで空き状況の確認や予約ができ、事業者はシステム上でクラウドでの予約管理、利用児童の基本情報把握、利用実績の正確なデータ管理、そして市町村への利用料(給付費)の請求データ作成までを一元的に行うことが可能になります。これにより、従来の電話での予約対応や紙ベースでの日誌・請求処理にかかっていた膨大な労力が大幅に削減され、保育者が本来の業務である「こどもと向き合う時間」を確保できるようになります。

6. 今後期待されること(令和8年度の本格実施を迎えて)

こども誰でも通園制度は、令和8年度(2026年度)を迎え、子ども・子育て支援法に基づく「乳児等のための支援給付」として、ついに全国での本格実施がスタートしました。この本格実施を機に、事業者を取り巻く環境はさらに進化していくことが期待されています。

① 「公定価格」の設定による経営基盤の安定化

令和8年度からの法定給付化に伴い、事業者が事業を安定的かつ持続的に運営していくための最も重要な要素である「公定価格」が新たに設定されました。これにより、これまでの試行的事業で大きな課題となっていた「補助金と実費のギャップ」の是正が進み、必要な保育人材を確保し、質の高い保育を安全に提供するための適切な財源措置がなされることが経営面から強く期待されています。

② 専門性向上のための新たな「研修体制」の拡充

在宅子育て家庭への支援や、短時間・不定期利用のこどもへの対応という、これまでにない高度な専門性が求められることから、国や都道府県の主導で、本制度に従事する保育者向けの新たな研修プログラム(子育て支援員研修における新コースの設置など)の実施が進められています。これにより、現場の保育者が抱えるスキルの不安を払拭し、キャリアアップを図る環境が継続的に整備されていきます。

③ 居宅訪問型など「アウトリーチ型」支援への展開

事業所への通園だけでなく、医療的ケア児や重度の障害のあるこども、あるいは家庭の複雑な事情で外出が極めて困難なケースに対応するため、保育者がこどもの居宅を直接訪問して保育や支援を行う「居宅訪問型」の実施も運用上認められています。これは、日本の児童福祉において「誰一人取り残さない」プロアクティブなアウトリーチ型の支援を可能にする画期的な仕組みであり、事業者の地域支援の幅を大きく広げる可能性を秘めています。

おわりに

「こども誰でも通園制度」は、事業者にとって、単に「新しい預かりサービスがメニューに一つ増えた」という事業拡張の次元の話ではありません。急激に少子化が進む日本において、保育施設が「親の就労により保育を必要とする一部の家庭のための場所」から、「地域のすべてのこどもと子育て家庭を包括的に支える、地域に開かれたソーシャル・インフラ」へとパラダイムシフトを遂げるための試金石となる極めて重要な制度です。

人員配置のやりくりや、短時間利用のこどもへの対応の難しさ、安全管理の徹底といった現場のリアルな苦労は確かに存在します。しかし、つうえんポータル等のICTシステムの導入による業務効率化や、令和8年度の給付化に伴う公定価格の適用が軌道に乗れば、事業の持続可能性は確実に高まります。

事業者および保育従事者の皆様には、この制度が持つ「地域社会への多大な貢献」という大きな意義と、多様なこどもたちの成長を間近で支える専門職としてのやりがいを見据え、新たな時代の保育の形を共に創り上げていくことが期待されています。

次回、行政書士事務所コラム連載第3回では、「国がこの制度を作った法的な目的と、これからの保育政策のグランドデザイン」について解説します。なぜ今、国はこの大掛かりな制度を必要としたのか。その背景にある社会的課題と未来への展望に、制度の専門家として迫ります。どうぞご期待ください。