皆様、こんにちは。本コラムでは、子育て支援の新たな柱として注目を集める「こども誰でも通園制度」について、行政手続きや制度設計の専門家である行政書士の視点も交えながら詳しく解説いたします。

近年、少子化や核家族化の進行に伴い、地域社会とのつながりが希薄になり、孤立感や不安感を抱えながら子育てをしている家庭が増加しています。このような「孤立した育児」を防ぎ、社会全体でこどもの育ちを支えるための新たな国の施策として創設されたのが「こども誰でも通園制度」です。

令和8年度(2026年度)を迎え、いよいよ本制度の全国での本格実施が始まりました。当行政書士事務所では、この「こども誰でも通園制度」を題材に、利用者、事業者、国、自治体といった様々な視点から制度の法的背景や実務的な側面を深掘りしていく連載をスタートします。

第1回目となる本記事では、「利用者(保護者・こども)の視点」にフォーカスします。この制度がどのようなシステムで動き、どのようなメリットやデメリットがあるのか、これまでの一時預かり事業と何が変わるのか、そして利用手続きが今後どのように便利になっていくのかを詳しく解説していきます。

目次
  1. 1. 「こども誰でも通園制度」の概要と、これまでの保育制度との大きな変化
    1. ① 対象者と利用条件:就労要件を問わない画期的な制度
    2. ② 利用可能時間と費用
    3. ③ 従来の一時預かり事業とのパラダイムシフト
  2. 2. 利用者にとっての圧倒的な利便性:ICTを活用した「つうえんポータル」
  3. 3. 利用者にとってのメリット(こどもと保護者それぞれの視点)
    1. 【こどもの視点からのメリット】
    2. 【保護者の視点からのメリット】
  4. 4. 利用にあたってのデメリット・注意点
    1. ① 「月10時間」という上限の壁
    2. ② こどもが環境に慣れるまでの負担(分離不安)と「親子通園」
    3. ③ 施設ごとのルールの違いと予約の取りづらさ
  5. 5. 今後期待されること(令和8年度の本格実施を迎えて)
    1. ① 全国のすべての自治体で利用が可能に(「給付化」による権利の保障)
    2. ② セーフティネットとしての機能強化
    3. ③ 多様な保育の選択肢の広がり
  6. おわりに
    1. 【行政書士事務所コラム連載 第3回】国と自治体の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜保育政策の歴史的転換と目指すべき未来の…
    2. 【第2回】事業者(保育施設・保育者)の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜新たな地域支援の形と現場のリアル〜
    3. 【第1回】利用者(保護者・こども)の視点から読み解く「こども誰でも通園制度」〜これまでの一時預かりとの違いと未来への期待〜

1. 「こども誰でも通園制度」の概要と、これまでの保育制度との大きな変化

まずは、本制度の基本的なシステムと、従来から存在する「一時預かり事業」との決定的な違いについて、制度設計の観点から解説します。

① 対象者と利用条件:就労要件を問わない画期的な制度

これまで、保育所等の施設を定期的に利用するためには、「保護者が共働きである」といった「保育の必要性」を行政に認定してもらう必要がありました。しかし、こども誰でも通園制度は、「0歳6か月から満3歳未満(3歳の誕生日の前々日まで)で、保育所等に通っていないこども」であれば、保護者の就労状況等に関わらず利用できるのが最大の特徴です。認可外保育施設に通っているこどもは対象となりますが、企業主導型保育施設に通っているこどもは対象外となる点には注意が必要です。行政手続き上も、就労証明書の提出が不要になるなど、大幅な要件緩和となっています。

② 利用可能時間と費用

利用できる時間は、こども一人あたり「月10時間」が上限とされています。この枠内であれば、時間単位等で各家庭のライフスタイルに合わせて柔軟に利用することが可能です。費用については、国が示す標準額として「こども一人1時間あたり300円程度」とされており、実際に利用料を定める際には、自治体ごとに保護者の経済的負担の軽減について適切に配慮することとされています。

③ 従来の一時預かり事業とのパラダイムシフト

これまでも未就園児を対象とした「一時預かり事業」は存在していましたが、こども誰でも通園制度とはその「目的」が根本的に異なります。 一時預かり事業は、保護者の仕事や通院、リフレッシュなど、「保護者のニーズに対応するための事業(保護者の都合でこどもの保育が不可能になる時間帯に預かる事業)」という位置づけでした。 これに対し、こども誰でも通園制度は、「こどもを中心に考え、こどもが年齢に応じた適切な環境で過ごしたり、同年齢のこどもと過ごす経験をするための事業」として法的に整備されました。利用する際に保護者の理由は一切問われません。「保護者の立場からの必要性」に対応するものから、「こどもの成長の観点からの制度(こどもの権利保障)」へと、日本の保育の目的が大きく転換した歴史的な制度と言えます。

2. 利用者にとっての圧倒的な利便性:ICTを活用した「つうえんポータル」

本制度の利用は、非常に現代的で利便性の高いシステムを通じて行われます。国は、スマートフォンやパソコンから簡単に手続きができる「こども誰でも通園制度総合支援システム(通称:つうえんポータル)」を導入しており、行政手続きのデジタル化が進む中、具体的な利用の流れは以下のようになっています。

・ステップ1:認定申請とアカウント発行 利用者は、市町村の窓口やマイナポータル、または総合支援ポータルサイトを通じて、お住まいの市町村へ行政手続きとしての認定申請を行います。市町村の審査を経て認定されると、システムを利用するためのアカウント(ログインID)が発行され、システム上でデジタル認定証を確認できるようになります。

・ステップ2:こどもの情報登録 システムにログインし、アレルギー情報や既往歴、緊急連絡先、好きな遊び、発達の状況などの基礎情報を登録します。これにより、施設側は事前にこどもの状態を正確に把握でき、安全な保育の準備が可能になります。紙の書類を何度も書く手間が省ける点も大きなメリットです。

・ステップ3:施設の検索と事前面談の予約 システム上の地図機能や検索機能を使って、現在地周辺や希望の条件に合う事業所(保育園や認定こども園など)を探します。事業所が決まったら、システム上で施設の空き状況をリアルタイムで確認しながら「事前面談」の申し込みをします。

・ステップ4:事前面談の実施 利用を希望する施設において、原則対面で事前面談を行います。こどもの健康状態やアレルギー、利用上の注意点などを保育者と直接確認し合う、安全かつ安心して利用するための非常に重要なプロセスです。

・ステップ5:利用予約と通園 事前面談が完了した施設について、システム上で空き状況を確認し、希望する日時の予約を取ります。当日は施設に設置された二次元バーコード(QRコード)をスマートフォン等で読み込むことで登降園の時刻がシステムに正確に記録されます。利用後の支払いも、事業者がシステムに登録した利用料をもとに領収書をオンラインで確認できる仕組みです。

このように、従来のような施設ごとの煩雑な紙の手続きや電話での空き確認が大幅に削減され、スマホ一つで予約からキャンセルまで完結するシステムが構築されています。

3. 利用者にとってのメリット(こどもと保護者それぞれの視点)

こども誰でも通園制度は、こども自身にとっても、保護者にとっても非常に多くのメリットをもたらす包括的な支援策です。

【こどもの視点からのメリット】

① 家庭では得られない豊かな経験と同世代との関わり 在宅で子育てをする世帯のこどもが、こどもの育ちに適した人的・物的・空間的環境の中で、家庭とは異なる経験を得られます。同じ年頃のこどもたちと触れ合い、おもちゃを貸し借りしたり一緒に遊んだりする経験は、社会情緒的な発達を支え、ものや人への興味・関心を大きく広げることにつながります。実際に利用した保護者からは「おもちゃを『どうぞ』することや、順番待ちができるようになった」といった喜びの声も多く寄せられています。

② 特別な配慮が必要なこどもへの対応強化 本制度は、障害のあるこどもや医療的ケア児の受け入れも想定して、事業者に対する加算等の仕組みが制度上設けられています。これまで児童発達支援センターなどの専門機関に限られがちだった障害のあるこどもが、身近な地域の保育施設で同世代のこどもと交差しながら育つ機会を得られることは、インクルーシブ保育の推進や、こどもの保育を受ける権利の保障という観点からも極めて画期的です。

【保護者の視点からのメリット】

① 専門家とのつながりによる孤立感・不安感の解消 専門的な知識や技術を持つ保育士などの有資格者との関わりにより、日常的な子育ての悩みを気軽に相談でき、孤立感や不安感の解消につながります。保護者がいない場所でこどもがどう過ごしているかを知り、「こどもを笑顔で受け入れてくれる人が家族以外にも地域にいる」と実感できることは、保護者にとって計り知れない安心材料となります。

② こどもの新たな一面の発見と親としての成長 お迎えの際などに、保育のプロである保育者から「今日はこんなことができましたよ」と具体的な肯定的なフィードバックを受けることで、家庭では気づかなかったこどもの姿や成長を客観的に捉えることができます。保護者自身が親としての自信を回復し、親として成長していくための大きな後押しとなります。

③ 心身のリフレッシュ(レスパイト)と社会資源への接続 月に数時間でもこどもと物理的に離れて自分自身の時間を持つことは、保護者の心身の負担軽減(レスパイトケア)に直結します。また、本制度の利用をきっかけに行政の支援窓口とつながり、地域の子育て支援サービスなど他の社会資源を知り、より包括的なサポートを活用しやすくなるというメリットもあります。

4. 利用にあたってのデメリット・注意点

一方で、この新しい制度を利用するにあたっては、事前にいくつか知っておくべき注意点や、利用者の状況によってはデメリットと感じうる部分も存在します。

① 「月10時間」という上限の壁

本制度の利用上限は原則「月10時間」と定められています。そのため、「長時間のパート勤務の間、定期的に預かってほしい」といった就労支援のニーズには十分に応えられません。また、月に数回の短い利用となるため、こどもが保育施設の環境や保育者に慣れるまでに時間がかかり、預けるたびに泣いて終わってしまうケースも想定されます。利用にあたっては「月に10時間という短い時間でもこどもは確実に成長する」と長い目で見守る姿勢や、細切れに利用して少しずつ保育環境に慣らしていくといった保護者側の工夫が必要です。

② こどもが環境に慣れるまでの負担(分離不安)と「親子通園」

初めての環境に強い不安を感じるこどものために、事業所によっては慣れるまで保護者と一緒に通園する「親子通園」を推奨しているところもあります。これはこどもの安心感につながる反面、保護者にとっては「完全にこどもと離れてリフレッシュする時間」がすぐには得られないことを意味します。こどもの自立と育ちの観点から、長期にわたって親子通園が続くことは制度上推奨されていませんが、最初は焦らずこどものペースに合わせる心構えが求められます。

③ 施設ごとのルールの違いと予約の取りづらさ

事前面談の必須化や、給食・おやつの提供の有無、アレルギー対応の可否などは、実施する事業所(保育園等)の裁量によって異なります。希望するすべての施設でアレルギー対応の給食が提供されるとは限らないため、事前面談の際にしっかりと確認し、合意形成を図る必要があります。また、人気の施設や利便性の高い時間帯(午前中など)に予約が集中し、希望通りに予約が取れない可能性も考慮しておく必要があります。

5. 今後期待されること(令和8年度の本格実施を迎えて)

こども誰でも通園制度は、令和7年度(2025年度)に地域子ども・子育て支援事業として制度化され、令和8年度(2026年度)を迎え、子ども・子育て支援法に基づく「新たな給付」としての全国での本格実施がスタートしました。

① 全国のすべての自治体で利用が可能に(「給付化」による権利の保障)

令和8年度以降、この制度は法に基づく国の「給付制度」となりました。これは、対象となる要件を満たすこどもであれば、全国どの自治体に住んでいても等しくこの制度を利用できる権利があることを意味します。市町村は対象者のニーズを的確に把握し、希望があれば必ず保育を提供できる体制を整えなければなりません。これにより、地域格差がなくなり、誰もが当たり前に利用できる強固な社会インフラへと発展していくことが確実です。

② セーフティネットとしての機能強化

本制度の導入により、これまで行政や支援機関が把握しづらかった「在宅で子育てをしている家庭(未就園児家庭)」と保育施設が日常的につながりを持つようになります。これにより、保護者のSOSを早期にキャッチしたり、児童虐待の未然防止や要支援家庭の早期発見・早期対応に結びついたりといった、社会全体のセーフティネットとしての機能が強力に推進されることが大いに期待されています。

③ 多様な保育の選択肢の広がり

施設への通園が困難な医療的ケア児等のために、保育者が自宅を訪問する「居宅訪問型」での実施も想定されるなど、多様な状況にあるこどもに開かれた制度へと発展していく議論も継続して進められています。法改正等の動向にも引き続き注視が必要です。

おわりに

「こども誰でも通園制度」は、単なる一時預かり事業の延長ではなく、「すべてのこどもたちに、社会のなかで多様な人と関わりながら育つ権利を法的に保障する」という、日本の保育政策・児童福祉政策における歴史的な大転換点です。

利用者である保護者の皆様には、月10時間という枠組みのなかで、ぜひこの制度を「こどもの世界を広げるためのパスポート」として、また「保護者ご自身がほっと一息つき、子育ての喜びを再発見するための心強いサポーター」として、積極的に活用していただきたいと思います。行政手続きに不安がある場合も、つうえんポータルなどの活用でスムーズな利用が可能です。

次回、行政書士事務所コラム連載第2回では視点を変えて、「事業者(保育施設・保育者)の立場からみたこども誰でも通園制度」について解説します。保育の現場ではこの制度をどう受け止め、どのようなメリットや課題(人員配置基準や安全管理義務など)と向き合っているのか。事業運営の観点からも詳しくお伝えしますので、どうぞご期待ください。